12年働いた職場 2
中は阿鼻叫喚だった。
事前にもらっていた電話で予想していたが、これはひどい。
身内がダンジョンで行方不明になったからか、必死の形相で早く対応してくれと受付に詰め寄る老人、何も言わずただただ泣いている女性、対応している者を大声で罵倒する上等そうなスーツを着る男性、老若男女、十人十色、だがここにいる者の大半は行方不明者が心配でしょうがないのだ。
気持ちは察するに余りある。
俺に出来ることは今ここにはない、とりあえず上司に状況説明と、この後の動きを聞きに行こう。
そう思い動こうとすると、右後方従業員出口の方から人が出てきてこちらに向かってくる気配を感じた。
そちらに目を向けると、事務員の一人である猪飼 陽介がこちらに向かって来ていたので、お互い目くばせしつつ、猪飼の出てきた従業員出口から迂回して上司の部屋に向かうのだった。
部屋に着く直前で、猪飼が何か知っているだろうと思ったのか話を切り出してきた。
「いやぁ、参りましたよ。何なんですかねこの急な忙しさは…」
「さぁな、俺も休日に叩き起こされて何が何だか…とりあえず東長官に話をしてくる、まずはそこからだな」
「忙しさだけなら今までもないことはなかったですが、上からの指示がめちゃくちゃで…よろしくお願いします。」
「あぁ、なんていうか頑張ってくれ。」
何も分からないと思ったのか、猪飼はそれだけ言うと、頭を下げて去っていった。
入口であれだ、相当仕事が立て込んでいるのだろう。
事情を知っているだけに、話せないことに少し罪悪感を感じる。
疲れた顔をした彼と事務方に心の中で敬礼をしつつ、俺は上司の部屋の扉をノックするのだった。