カルト集団ダンジョン事変
只野 優人の独白 Ⅺ
クロと名付けた新しい仲間を迎えて数日経った頃だろうか、その日は何か胸騒ぎがした。
何か大事なものを無くしたような感覚がして落ち着かなかった。
気のせいかと思い放置していたがある日ふと気づいてしまい、フクすけにタイミングを見てきいてみる。
残念な事に俺の予感は当たっていた。
「フクすけ、最近エリザベスを見ないんだが何かしらないか?」
「ホー。気付いてしまったホか…。」
「え?」
「伝えてなかったのは申し訳なかったホー。けど誤解しないで欲しいホー。これは我々も納得して飲み込んでいる事で、優人に伝えるには勇気がいる事なんだホー。」
申し訳なさそうに顔を俯かせ、落ち込んだ声を出すフクすけ。
そんなに落ち込む事なら聞かなければよかった…。
責めている訳でもないのでこちらまで申し訳ない気持ちになる。
だがこの物言いだとなにかしら知っているという事だ。
しかもエリザベスの身に何かあったようだ。
ここまで聞いてやっぱりいいと聞かない訳にはいかない。
「大丈夫だから教えてくれないか?エリザベスの身に何かあったのか?」
「ホー…。それを説明するのにはまず我々がどんな存在かを説明する必要があるホー。」
「そうなのか。じゃあそれも教えてくれ。」
「ホー。我々はただの生物と言う訳では無いホー。何となく察しているかもしれないホが、少し特別な存在なんだホー。優人達の言葉で精霊だとか神の遣いだとか、そういった存在に近いホー。」
「そうなのか。」
「ホー。そして我々にはそれぞれ役割が与えられているホー。」
「まさか。」
「察しがよくて助かるホー。エリザベスの役割は導く事だホー。今の世界を救う救世主を精霊の元に、もしくは精霊を救世主の元に…。先に出会ったのが優人だったホー。そして役割を全うした精霊は複数の魔力体に別れて外の世界に散るホー。けど安心して欲しいホー。完全に消えてなくなる訳ではないホー。波長の合う人間を見つけて力を貸す事になるホー。」
「つまりエリザベスにはもう会えない?記憶や意識はどうなるんだ?」
「…ホー。あんまりいじめないで欲しいホー。」
言えないという事はつまりそう言う事なんだろう。
「そうか…。さよならも言えなかったな…。」
「ホー…。」
「大丈夫。怒ってないさ、少し寂しいだけだよ。」
今更ながらに知った彼らの事実に思考に靄がかかった様になる。
この後の訓練は全く身に入らなかった。




