翁は憂う
ダンジョン対策本部最年長 巌ノ国 義重は複数の問題で現状を憂いていた。
一つ、己の部隊の現状。
現在己の率いる第二部隊はその任務の内容から最大規模の部隊になっているが、それ故に玉石混交。
班や小隊単位で運用する事で戦力の偏りをなるべく少なくはしているが、如何せん本当の実力者の数が足りないため、どうしても戦力の穴になる部分が出てくる。
組織としてダンジョンを管理・運用するうえでこの状態はあまり良いものとは言えない。
ダンジョンレベルによって派遣する部隊を調整してはいるが、もしもの何かがあった時が怖い。
例えばこの間あったそのダンジョンレベルを超えたモンスターの大量発生や、規格外の存在が現れた時など、悪い事を想像したらきりがない。
只野が訓練を行った事で多少は解決に向かったが、今後また大きなダンジョン災害が起こった場合を考えると備えておいて損はないだろうという考えだ。
二つ、自身の後継者問題。
義重には一人息子がおり、結婚してからダンジョン災害以降この屋敷で暮らしているが、昔から争い事が苦手で虫も殺せない程だ。
優しく育って良かったと思うも後継者にはとてもできない。
かといって部隊の者に引き継ごうにもこれといった人材がいない。
滝沢は頑張ってくれているが隊長を任せるにはまだまだ実力も知識も人心の掌握も何もかもが足りない。
義重自身もいい歳なので、第一線を退いて後進の教育に集中できればいいと思っているが、隊長を任せられる人間が中々見つからない。
いっその事第一部隊の誰かに任せたいとすら思っている。
しかしそれはあまり良い手ではない事も分かっている。
仮に他の部隊の者が隊長になったとしたら第二部隊の隊員達はいい気はしないだろう。
下手をしたら士気が落ち込み、よからぬことを考える者や、普段の業務に影響が出て来てしまうかもしれない。
一度崩れれば後は雪崩式に組織が瓦解するのは目に見える。
組織自体は残っているかもしれないが、機能は完全に麻痺してしまう事が予想できる。
それだけは避けたいのが管理する者としての思考だろう。
他にも細々とした悩みはあるが、大きなのはこの事項だろう。
義重は天井を見上げながら言葉を漏らす。
「いっそ隊長殿が孫を娶ってくれたら楽なんじゃがのう。」
息子には才能は無かったが、孫娘には戦いの才能がある。
隊長になってさえすれば自身がいくらでも補助が出来るし、真面目な只野のことだ、そうなったら全力でフォローすることだろう。
「あまりにも身勝手な願いじゃな。」
彼はそう言うと布団に寝転がり寝る体勢に入る。
最近おかしな組織の動きもあって油断できない。
1つの問題が解決しても翁の憂いは晴れない。




