只野、隊長達のお願い聞いて周るってよ 第二部隊隊長 巌ノ国 義重編 1
その報告は急に来た。
それはお願いの件で義重殿の屋敷を訪れ、話をしながら穏やかにお茶をしていた時だった。
「親父ぃ!大変でさぁ!これを見て下せぇ!」
「そんなに慌ててどうした滝沢。今は隊長殿と大切な話をしておるところ。そんなに急な報せがあったか?」
鹿威しの音が響く静かな空間に慌ただしい声が入って来る。
義重殿はゆっくりと視線を息を切らせた黒スーツにサングラスをかけた男の方に向け何事かと問う。
「すいやせん!しかしこの映像を見てくだせぇ!只野の兄貴も見てくだせぇ!」
滝沢と呼ばれた男。
名前は滝沢 竜昇。
彼は多くのダンジョンに派遣され、多忙なために3人いる第二部隊副隊長の1人である。
義重殿の事を本当の父親のように慕い、尊敬していて、本人からの信頼も厚い人物だ。
そんな彼が端末を机の上に置き、俺達から画面が見える位置に置く。
どうやら動画が表示されているようで、そこには全身を真っ白な布で包み、目だけが見えている5人が映っている。
一昔前のカルト集団の様だなという感想が湧いた。
その白い布の一部に赤い染みが付いているのが気になるが、今は見る事を優先しよう。
『目覚めよ人類よ。ダンジョンは神が創り出した聖域である。その聖域を侵す者は神に変わり神の代弁者である我々に裁かれるだろう。』
そう言うと真ん中にいた1人が手を出し、その手には禍々しい球体が握られている。
画面越しなため見た目以上の情報は得られないが、碌なモノでは無さそうである。
『特にダンジョンを管理するとのたまい食い物にしている対策本部の者共!貴様らのやっている事は傲慢で稚拙な行為だ!我々はこの事に強く抗議する!』
散々な言われようだな。
まあ、彼らの中ではそうなのだろう。
『全国にいる同志たちよ!今こそ立ち上がり、この支配からダンジョンを解放するのだ!神から下賜された聖域を我々の手で取り返すのだ!集え同志よ!動く時は近い。』
それだけ言うと動画は止まった。
うーむ、何と言っていいのか…。
「これはこれは、何とも思い上がりの激しい輩が現れましたな。」
「そうだな…。とりあえず第六部隊に情報共有して、フェイクや悪戯の線も視野に入れ調査をお願いしよう。」
「取り敢えずそれが賢明でしょうなぁ。」
「もしこれを本気でやってるとしたら、実害が出る前に何とか出来ればいいが…。義重殿少し知恵をお借りしても?」
「構いませんとも。」
お願いを聞きに来たというのにどうしてこんな事になったのか。
俺は増えた悩みの種に頭を抱えるのだった。




