元教え子 東 紅 14
俺が苦笑しながら返すと、彼女は微笑みながら左の通路へ向かって行った。
右手の角に出ると左手側にそこそこに長い通路が続いていた。
右手側に幾つか扉があり、その中からも人かモンスターの気配を感じる。
無線に繋いだインカムに紅から連絡が入る。
『こちら左の側のルートですが、左手側に複数の扉があります。いかがしますか?』
「了解、右側も同じ様なものだ。此方に来れるか?奥の角が左に続いている。おそらくそっちと繋がっているんだろう。合流して虱潰しに開けていくぞ。」
『了解。』
短い返事の後通信が切れる。
別れてすぐだったので、合流までそう時間は掛からないだろう。
壁に並ぶ扉を見る。
3つの扉が等間隔に並んでいる。
どれもボロボロで今にも壊れてしまいそうだが、むしろ逆で、此等は今まさに作られている途中であり、ここの主であるモンスターが未だに縄張りを広げようとしている証拠でもある。
相当自己顕示欲の強いモンスターの様だ。
中庭の件は余程頭にきている事だろうな。
「先生、お待たせしました。」
まだ見ぬモンスターが怒り狂う様を思い浮かべていたら、紅が向こう側から合流した。
「さっき振りだな。すまんな何度も指示を変えて。」
「下手に分かれて分断されるリスクを防ぐ良い作戦かと、ダンジョン内での作戦はマニュアルなんてありません、臨機応変さが大事です。私の卒業試験ではあのマニュアル人間が指揮したせいで危うく部隊が壊滅する所でした。」
「…そうだな。」
そんな事もあったな…。
俺の謝罪にフォローと愚痴が返ってきて、何とも言えない心境だ。
君達まだ仲悪いのかい?
「向こうの造りはどうなっていた?」
「こちらとほぼ同じです。どうやら左右対称の造りになっているようです。」
彼女が扉を見ながら答える。
「そうか、分かった。ありがとう。結晶装備の魔力ストックはどうだ?」
「そんなに展開してないのでまだ8割程残ってます。拾った魔力結晶を使えばほぼ満タンに出来ます。」
食い気味に答え、彼女は左手首に付けた濃い青色の、炎をあしらったバングルを見せてくる。
彼女の言う通り、問題はなさそうだ。
彼女の目を見る。
戦いたくてしょうがないのか、その目は飼い主の良しを待つ犬のようで、俺の指示を今か今かとウズウズして待っているようだ。
「ならば手前から虱潰しで問題は無いな?」
「はい!了解です!」
「では、行こうか。」
小声ながらも、威勢のいい返事を返される。
ますます犬の様だと少し微笑ましく思いながらも、緊張感を持って扉に手をかける。
ボロボロで、少しの力でも崩れそうなその扉を押し開いた。




