12年働いた職場 1
あれから12年
着信を知らせるアラームが枕元のスマートフォンから発せられる。
とてもいい目覚めとは言えない朝。
前日に買っておいたパンとペットボトルのコーヒーを胃に流し込み、キーケースとスマートフォンをポケットに入れ、恥ずかしくない程度に身嗜みを整え、慌ただしく家を出る。
電話の内容も碌なものではない、最近流行のダンジョンに潜り動画投稿する輩、ダンtuberなるものが無茶な挑戦をして帰ってこないらしい。
しかも政府のお偉いさんの孫が関わってるとかで、上司たちはてんやわんや、お偉いさんに媚びを売ろうと色んな組織が動いた結果、規模も指揮系統もめちゃくちゃだと言う。
電話先の上司も頭が痛そうだ。
ふと周りを見渡す、この12年ですっかり様変わりした様子は、当時の自分に言っても簡単には信じられないだろう。
電線や電信柱の様な鉄塔は無くなり、代わりにオブジェのようにあちこちに置かれている色鮮やかな結晶が、電気や電波を各所に配っている。
何せダンジョンからもたらされた恩恵は、人類の問題を一気に解決した。
メインは何といっても魔石だろう。
これは人類のエネルギー問題を一気に解決した。
二酸化炭素も出ない、放射線の危険もない、自然の影響も受けない完璧なエネルギー源それが魔石である。
技術畑の出ではないので詳しくは分からないが、知り合いによれば少なくとも原子力と同等のエネルギーを安定して生み出せるらしい。
食料問題もだ。
ダンジョンのモンスターは、物によっては食えるのだ。
味はピンキリだが、どこからか沸き続けているので枯渇する気配がない。
しかしそれは弱いモンスターに限ると思っている、俺は確かに知っているのだ子育てするモンスターを、そのモンスターがかなり強いことを。
沸き続けるならそんな必要はないだろう?
弱くて、そこそこおいしくて、沢山いる、だからこそ食料になる。
畜産や農家はたまったものではないが、今では人の手で作った食材は高級品だ、そこで折り合いがついている事にしよう。
実際金持ち連中はダンジョン産を避ける傾向にあるらしく、結構儲かっているらしい。
そんな事を考えていたら職場についた、俺の職場、ダンジョンから生還し流されるままに所属した組織、ダンジョン対策部本庁舎である。
気乗りしない重い気持ちのまま庁舎の入り口に近づくと、入り口の左右にいた警備の者が何も言わず、すごくきれいでキレのある敬礼をしてくれる。
俺は足を止め、二人の目を見て敬礼を返した後、少しだけ気を引き締めなおして入り口の扉をくぐった。
中は阿鼻叫喚だった。