元教え子 東 紅 10
その言葉には多分に呆れが含まれていた。
解せぬ。
結晶装備を解除した紅から魔力結晶を受け取り、軍用探索バッグの魔力水晶保管スペースに入れ先に進むことにした。
人の気配は動いておらず、先ほどよりは少なくなったモンスターの気配がするだけだ。
「無線も繋がらんな、東、人数が多すぎる。一度外に出て第二部隊から応援を呼んでくれないか?俺はここのモンスターを掃討して安全を確保する。連絡が取れたら中に入って無線で教えてくれ。」
「…了解しました。」
「頼んだぞ。」
自分の倒したのより格上のモンスターを、より早く倒されて不満だったのか、紅がむくれてしまった…。
これでも隊長なのだから、新入隊員に情けない所は見せられまい?
入ってきた扉から彼女が出て行くのを見届けると、近場のモンスターを倒しに向かった。
最初に向かったのは、レイスホースの出てきた左奥の通路のさらに奥。
そこにはバンシー3体とレイスホース2体が、行方不明者と思われる数人を囲むように佇んでいた。
俺の接近に気付くと、バンシーの1体がまるで人質を取る様に手に持った鎌をその中の一人に向けたのだ。
その動きを見た瞬間、魔力を親指と人差し指に纏い、指弾の要領で打ち出す。
高密度に練られた魔力は、言霊が無くとも質量を持つ様になる。
ダンジョン発生最初期、言霊という概念がなかった頃。
魔力は身体能力を補助してくれるもの程度の認識だった。
これをまた、あの天才は変えた。
モンスターの攻撃と結晶装備の力から法則性を見つけ出し、適切な魔力の流れと、言葉の振動で反応させる事で発動する技へと昇華させたのだ。
やはり奴は天才だと再確認する。
そんな事を考えてる間に打ち出した魔力弾は、バンシーの頭部を的確に穿ち、残りの4体が動く前に拳に魔力を纏い飛び掛かる。
正面右、一番近くのバンシーの頭部を右ストレートで吹き飛ばす、振りかぶった勢いを殺さず左の裏拳で隣にいたレイスホース胴体に大きな風穴を空ける、横回転のエネルギーを縦に変え右拳の叩き落としで馬体を前後に分ける、振り下ろしの態勢から左のアッパーカットを繰り出し最後のバンシーの首から上を吹き飛ばした。
俺は付近にモンスターの気配が無くなったのを確認して、次に行くべくホールの方へ戻った。




