元教え子 東 紅 9
炎の戦士が光の中から現れた。
紅が結晶装備を展開すると同時に、左奥の通路から頭部のない、青白い馬が2体、空中を駆けて此方に向かって来る。
「レイスホースだ、対処出来るか?」
「はい、お任せ下さい。」
「任せた。」
短く言葉を交わし前方に目を戻すと、正面の扉から成人男性程の大きさの黒いぼろぼろなフルプレートアーマー2体が現れた。
片方はショートソードを両手に、もう片方はトゲの付いた鉄球が付いたフレイルを装備している。
さらに、階段の上の方からその2体より一回り大きな鉛色のフルプレートアーマーが飛び降りてきた。
着地と共に派手な音を立てるが、中身がないからか、目の前の相手からは、金属同士がぶつかる音しか聞こえない。
装備はほぼ全身を覆い隠す大盾と、装飾のされた儀礼用と思われるメイス。
明らかに2体とは格が違うのが分かる。
横目で彼女を見やると、2体のレイスホース相手に上手く立ち回っている。
目も耳も鼻もないが、熱は感じている様で、彼女の剣から発せられる炎の熱に怯み、攻めあぐねている様だ。
卒業試験時はショートソードだったのに対し、今はフランベルジュになっている辺り、結晶装備との共鳴と熟達も上手く行っているようだ。
このまま順調にレベルと位を上げていけば、いずれ遠くない未来に隊長を任せられる様になるだろう。
「”炎翔剣„!」
彼女の剣の炎が膨れ上がったかと思うと、言霊と共に一閃、炎の斬撃がレイスホースに向かって飛び出した。
それをまともに受けた1体は、魔力結晶を残し、そのまま空気に溶ける様に消えていった。
2体で拮抗していたのに、1体ではまともな抵抗も出来るはずもなく、程なくして残りのレイスホースも倒される。
あとに残るのは、ペットボトルキャプ程の大きさの魔力結晶だけだった。
「いやはや見事な戦いだったな、戦技のキレも上がっている。」
「…。」
「どうした?」
「いえ、相変わらずですね。」
「??」
「先生の戦闘が見れずに残念です。」
そう言って俺の前にでて、彼女が地面から持ち上げてみせたのは、先程彼女が倒したレイスホースの魔力結晶ではなく、卵サイズの魔力結晶2つと、手の平サイズの魔力結晶だった。
「相変わらず、お強い様で。」
その言葉には多分に呆れが含まれていた。




