ダンジョン潜行者組織代表対抗戦 25
思いがけずそんな事が心に浮かんでしまった。
その後も俺達は雑談を続けながら、道中モンスターと出くわす事も無く無事に帰還した。
新たにモンスターが発生するような魔力や気配も無く、安定しているより静まり返った凪の様な状態が表現としては合っているかもしれない。
俺の予想ではあるが、ダンジョンは各ダンジョン毎にモンスターの発生させるリソースや量にキャパシティが存在するのではないかと思う。
研究畑の人間では無いので詳しくは分からないが、昔から体感で何となく思っていたことだ。
百合の話でも少し前からその様な概念がダンジョンにはあるのではないかと研究者達の間で度々話題に上がる事があるそうだ。
潜行者からも稀にではあるが潜行難易度イージー(一番簡単で主に初心者用。)のダンジョンで人気な池袋駅前ダンジョン(駅前の商業施設がダンジョン化したもの。開店前だった為人的被害は比較的少なかった。)では少し前から新しい潜行者が増えた影響か、1グループ毎の魔力結晶やアイテムの数が少なくなっているらしい。
最初は人が増えて取り合いになっているのではと思っていたが成程、モンスターの供給が追い付いてないと考える事も出来る。
今回の様に実際に経験してみて学者や研究者の言っていた事と、俺の感じていたことは全くの見当違いではなかったらしい。
如何せん発生から10年以上経った今でもダンジョンは分からない事だらけ謎だらけで学者や研究者の好奇心を刺激し続けている。
日々新しい発見があり飽きる事も無いのだろう。
それに有名な潜行者や百合という成功者の実例もあるし、民間にもダンジョンに興味を持って知りたいと思う人達もいるだろう。
ダンジョンを管理する組織の者として潜行者の安全と、そう言った人達との懸け橋になれる事を願うばかりだ。
「そ、そういえば自己紹介がまだでしたね。わ、私は冬野 陽葵っていいます。こ、今年潜行者になったばかりで、いつもはソロで潜ってます。」
そう言われて自己紹介をしていない事に気付く。
完全に失念していた。
「そう言えばそうですね。女性の方からさせて申し訳ない。私は只野 優人です。ダンジョン対策本部の第一部隊隊長をしています。」
「はえ…?」
どうやら俺の事を知らなかったらしい。
最近は裏方に回る方が多いからか、知名度は最初期の頃に比べると随分と落ち着いたものになっているため、若い者の中では知らない人もいるだろう。
少女はそうだったのか立ち止まり目を見開き固まると、呆然とこちらを見つめている。
待っていると身体が小刻みに震え始めた。
そして次の瞬間少女の小さな口から絶叫が響いた。




