とある天才の幸運
驚いて固まるボクに全く悪意を感じない本当に心配した表情と声色で彼はそう言った。
最近世間を色んな意味で騒がす人物が今目の前にいる。
その事に驚きはしたがそれほど感情は動かなかった。
初対面で信用がある訳でもない画面の向こうの存在、そんな彼にボクは不思議と自分の事を話していた。
学校での疎外感、認められたくて頑張った研究、それを教授に認められられず悔しかったこと、それでも諦められずに研究を続けて来た事、それを親に止めろと言われた事。
何故この時彼にこんなにも話したのか、きっとボクは精神的に相当追い詰められていたのだろう。
きっと優しい人なのだろう見ず知らずの小娘の話を彼は嫌な顔もせず聞き、時折相槌も打ってくれてとても親身になってくれた。
ボクは久しぶりのちゃんとした会話をして何だか嬉しくなってまた泣きそうになってしまった。
隣に座っている彼ならもしかしたらボクの研究を理解してくれるかもしれないという久しぶりに感じる好奇心と、彼にまで否定されたらどうしようという不安が天秤の様に揺れ動き、手元の書類を見せる事が出来ずにいると彼の方から見せてくれないかと言われた。
向こうから言われては断る理由はない。
ボクは期待と不安を抱えながら、緊張で震える手でくしゃくしゃの書類を彼に渡した。
彼は最初に書類を書類をじっと見てページを捲っていく。
屋外なのに風も音も無く彼がページを捲る音だけが静かに続き、徐々に彼の表情が険しくなっていく。
やはり今回も駄目だったかとボクは俯き肩を落としていた。
もうしょうがない諦めようと思った時彼の呟きが聞こえた。
「こんな所で見つかるとはっ…。」
「え?」
彼の噛みしめる様な歓喜の声に顔を上げて彼の方を見る。
そこには少年の様に目を輝かせてボクの研究書類を見る彼の姿があった。




