東京メトロ浅草駅ダンジョン 21
そう言って彼女は微笑むと一息を置いて話し始めた。
「端的に申しますと最近潜行者の中でギルド連盟にも所属しないフリーランスの者達並びにその組織の行動が目に余りつつあります。」
「そうだな、そのような連中が起こすトラブルはこちらでも感知している。」
「はい、彼等は特定の組織に所属せず現行の制度に甘え、義務を果たさず利益のみを享受しています。それだけに飽き足らず実力も上だと宣う始末。黎明期のダンジョンを経験していないのにここまで思い上がった事が言えるのは怒りを通り越して哀れみさえ覚えます。ご存じですか?SNSや動画サイト等での彼らの物言いを。本当に好き勝手言ってくれていますよ。」
相当腹に据えかねたのか、表情こそ変わっていないが話している間にも彼女の感情はヒートアップしていく。
表情は微笑みから変わらないのに言葉尻がどんどん強くなる様は中々に怖い圧がある。
彼女の言う通りこの手の人間によるダンジョンの無断潜行や中でのトラブルはここ最近増加傾向にあり、この間の隊長会議の時もどうにかならないかと打診があった。
仕事の内容的に潜行者と関りが余りない第四第八部隊はそんなにだったが、その他の部隊からはそれなりに意見が出ている。
特に見回りや監視の多い第二部隊と第三部隊、広報担当の為そっち方面に露出のある第五部隊、違反した潜行者の取り締まりをしている第六部隊はそのせいで辟易した様子なのが言葉の隅々に感じられた。
例の交換条件の中にもそういったものが含まれていたので、現場の隊員達からも意見が出ているのだろう。
「すまないが俺はあんまりそっち方面に詳しくなくてな。1つの情報源として活用した方が良いのは分かっているんだが暇がな…。」
「ええ、そうでしょう貴方様はそれでよろしいのです。あのようなものは高貴な貴方様の目に触れていいものではございません。目に毒でございます。」
「高貴ってなんだよ…。確かにこちらでも問題が提起されていたがそこまで言う程の事になっているのか?」
「そうなんです。なのでこの際立場をはっきりさせておこうかと思いまして。都合のいい事に向こうの代表と言う輩にある提案をされました。」
「その提案とは?」
「各組織による対抗戦を執り行わないかとの事です。」
「なんだって?」
彼女に言われた事が余りにも信じ難い内容で、つい俺は素っ頓狂な声を上げてしまった。




