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追跡者再び

 夜のルステア村は、いつも通り静かだった。


 小さな灯火が軒先に灯り、虫の声と薪のはぜる音が交じる。

 星が瞬く、穏やかな夜だった。


 ――そのはずだった。


「……っ」


 エルは不意に、目を覚ました。

 何かが、外で揺れた気がした。風でもなく、獣の気配でもない。妙な――不協和音。


 ベッドの横を見る。リゼはぐっすり眠っている。

 少し乱れた髪を撫でつけ、そっと外へ出る。


 そして、気づいた。


「……煙?」


 空の向こう。村の端――納屋の方角から、煙が立ち昇っていた。


 走った。夜露を踏みしめ、呼吸を殺して駆ける。


 そして、見た。


 村の納屋が、炎に包まれていた。

 その前で、異様な影が踊っていた。


「ヒヒヒヒ……あったかいねェ……燃える音って、心が落ち着くよねェ……!」


 全身を黒布で覆った人影。

 腕には無数の刻印。笑いながら、薪をくべていた。


「……貴様……!」


 エルが踏み込むより先に、村人のひとりが叫んだ。


「おい! 何してやがる!」


「あァ……おはよう、村の人。これはね、“祈り”だよォ……」


 黒布の影――ヴェルグルが、満面の笑みで振り返る。


「神様はね……もう、目覚めかけてるの。だから、器を……返してもらわなきゃねェ?」


 そして。


「……いたいた、いたいたァ……そこに……お前だァ!」


 その目が、村の方――

 エルの家を、正確に指していた。


「リゼ……!」


ヴェルグルの視線が、エルの家を正確に貫いていた。


 その瞬間、エルの全身に冷たい感覚が走る。


「まずい……!」


 家へ駆け戻り、扉を乱暴に開ける。


「リゼ、起きろ!」


「え、エル……? な、なに?」


「いいから来い! 急げ!」


 リゼは寝ぼけたまま立ち上がる。

 エルはその手を取り、扉を蹴って外へ飛び出した。


「エル!? なにが――」


「“あいつ”が来た。お前を狙ってる!」


 走る。村の裏手。小さな丘の方へ。

 誰にも見られず、巻き込まず、戦える場所へ――


 村の明かりが遠ざかり、風の音だけが耳を打つ。

 小高い草原。月明かりが照らすその場所に、エルは足を止めた。


「……ここなら、撃てる」


 振り返ると、そこには――待っていたかのように、ヴェルグルが立っていた。


「ヒヒヒ……逃げた先が、ここなんて……運命感じちゃうなァ?」


「お前の顔は見たくなかったがな」


「ひどいなァ、初対面で。こっちはずっと、待ってたってのに」


 ヴェルグルの背から、魔力が吹き上がる。

 まるで歪んだ祭壇のような紋章が空に浮かび、狂気の光を放った。


「さあ、器を返してもらおうかァ――俺の神様に捧げるんだよ、“その子”をねェ!」


「させるかよ」


 エルが双銃を抜いた。


 黒と白。両手に収まるそれらが、エルの魔力に応えて淡く光を放つ。

 リゼの方を向けると、銃身がわずかに震え、魔力を吸い上げ始めた。


「……リゼ。怖いか?」


「……ちょっと。でも、あなただけに戦わせたくない」


 リゼがそっと、手を伸ばす。

 魔力がエルの銃へと流れ込み、空間がゆがんだ。


「……そうか。なら、頼りにする」


「うん!」


 ヴェルグルが動いた。

 地面を削り、低く跳ねながら、弧を描いて迫る。


 エルは一呼吸、狙いを定め――


「《カルマ》、右。魔力弾、集中」


 引き金を引く。


 轟音。


 夜を裂くような閃光が走り、弾は正確にヴェルグルの脚を撃ち抜いた。


「おおっとォ!? 痛いねぇ、すごく痛いよォ! ヒヒヒヒヒ!」


 吹き飛ぶ血と肉片。それすらも愉しむように、ヴェルグルが狂った笑みを浮かべる。


「でもね、そっちだけが痛いとは限らないんだよォ――!」


 その手から、黒い雷のような魔力が放たれた!

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