あなたと、観覧車を降りる。
「最後に観覧車、乗ろうよ」
と私はデートも終わりを迎えるタイミングで、彼の手を引いた。
観覧車に乗った後、彼は眉をひそめた。
「高いところは苦手って言ってなかった?」
「苦手だけど、あなたとなら乗ってみたくて」
「本当? 無理してない?」
握ってくれる彼の手は温かい。
「してないよ。でも手は離さないでいて」
「わかった」
彼は私の手を握り直した。
お互いに温もりを確かめながら、他愛のない話をする。
観覧車は回る。
外を眺めると、クリスマスシーズンの遊園地は賑やかだ。だけど海側は真っ黒で何も見えない。彼が座るほうを見ると、ぽつぽつと街の明かりが見えた。
「今日のデート、考えてくれてありがとう」
「う、うん」
彼はそっぽを向いた。
照れてる。彼のこういうところが好きだ。
ふいに観覧車が揺れ、過去の記憶が起こされる。
『そのままでも可愛いもんね、あなたは』
やっぱり克服は無理かな……。
「大丈夫?」
いつの間にか彼がこっちを見ていた。
「ちょっとやばいかも」
「顔が青白いね」
彼は私を抱き寄せた。そんな彼は暖かくて、私の指先も熱を取り戻していく。
「観覧車が苦手になった理由、本当は違う?」
「どうしてそう思うの?」
「下を見てたから。高所恐怖症の上司は下見るの無理だって言ってた」
「そっか。……いい思い出で嫌な記憶を上書きしたかったんだけど、簡単じゃないね」
「なんかあった?」
耳元でささやく彼の声音が優しくて泣いてしまいそう。
「昔、友達と遊園地に遊び行って観覧車に乗ったときにね、そのままでも可愛くていいねって言われたの」
「褒めてるんじゃないの?」
「その子は悪口を言うとき、わざと褒める。だからメイクしてない、地味な服着た私と一緒にいるのが嫌なんだってすぐにわかった。おかげでメイクとかダイエットとか知るようになったし、感謝してるけどね」
たははと笑う私を、彼は強く抱きしめた。私から彼の顔が見えなくなる。
「もっと早く君に会いたかった。もっと早く好きだと伝えられたらよかった」
「うん」
「君は、ずっと一緒にいたいと思える人だよ」
「うん。そ、そろそろ降りる準備を……」
「今も覚えてる。僕が泣いてるときメイクも気にせず泣いてくれたこと。ハンカチを渡してくれたことも」
「わ、わかったから! 降りるよ!」
私はひと足先に立ち上がり、彼の手を引く。
観覧車を降りた後、「楽しかった!」と彼に飛びついた。
あなたのおかげ。あなたが大丈夫にしてくれたから、もう大丈夫だよ。