9.私、もうすぐ17歳。卒業間近な婚約者と(前)
ギュッ
「はい、もう一度」
ガッ
「お嬢……真面目にやってます?」
プチッ
「やってるわよ!こちとら大真面目よ!」
ベシッ
「物に八つ当たりなんて今どきの幼児もやらないっすよ」
「煩いっ!」
思わず汗拭きタオルを床に叩きつけた私に容赦なくムカつく言葉をぶん投げてくる護衛、ロイのダンスは文句無しに上手かった。
「普段、なになにっすよぉ〜とかやる気ゼロ人間のくせになんで完璧なのよ?!」
ロイには弱みがないわけ?
「ムカつくけど、コレばかりは無理!ホント無理なのよぉ!」
「致命的っすよね」
これ見よがしなため息を頭上でつくのは止めて。
「生理的にさ、人を見るだけで満足なの。誰も抱き合いたくないわけよ」
「言い方、おかしいっす。ダンスですよ。たかだか手をとり相手と足を合わせ」
「ガッツリ密着型じゃない!そこが無理っ!特に腰とか背中に添えられるとゾワゾワする!」
以前の記憶、25歳迄の間に彼氏はいた事はある。ただダンスなんてお上品なモノはした事がなかった。
「ほんと、どうしよう」
卒業式に卒業する生徒は踊るのが伝統とかさ。誰だよ、そんなん考えた奴は!
「極めつけは婚約者がいる人は必然的に相手が決まってるなんてさ」
ロイなら、まだなんとかイケる気がする。鳥肌が立ち蹴飛ばすかもしれないけど。
「どうしたもんかなぁ。俺とお嬢だと身長差があり過ぎてバランスは悪いんすよ。婚約者さんに正直に話をして、お二人で練習した方が近道だと思うんすけど」
だから。
「婚約者となんて踊りたくない!」
「お嬢」
「何?!」
ロイは、私を通り越して後ろに視線を向けて、その後に私を気まずそうに見たので、怪訝に思いながら振り向けば。
「取り込み中だったかな。ガゼボにいないから君の侍女にこの場所を聞いて来てしまったんだけど」
いつも、あまり感情が顔に出ない婚約者が、今は明らかに不機嫌そうな顔をして立っていた。
いったい、いつからいたのか。どこまで会話を聞かれたのか。
「レイラ嬢、私と二人きりで話をするべきだと思うけど、貴方も、勿論そう思うよね?」
「……承知しました」
ロイ、俺は知らないっすよとか呟いたの聞こえてるからね。後で覚えてなさいよ!