4.ロイSide〜ウチのお嬢は面白い〜
「ロイと申します」
バシッバシッ
親父っ、いや団長痛いって!
あー、ウゼ〜。脳筋はこれだから嫌なんだよ。
「レイラです。よろしく」
今日からお嬢様の護衛だと知らされたのは、今から約五分前っておかしくないか?
顔には出さず、ゲンナリしなりしながら死んだ目をしているであろう俺と当主が溺愛しているという、お嬢様と目が合えば、ニヤリと笑い返され、何やら寒気が身体を突き抜けた。
……嫌な予感しかしない。
✻〜✻〜✻
「ガハッ」
「起きちゃうから静かにな」
ウチのお嬢は、怖がりなんでね。あ〜、床が汚れたか。片付け面倒だなぁ。
「ロイ」
「親父」
「団長と呼べ!」
「シー!」
「厶、すまん」
声がデカいって!
✻〜✻〜✻
「親父、最近、やっと減ったな」
「団長と呼べ」
「団長、いくら体力に自信がある私でも昼夜は無理があります」
昼間は護衛、夜はゴミ掃除と多忙を極めていた。
「気合いでなんとかしろ。あぁ、二人きりの時はいつもの口調を許可する」
気味が悪いと言われても、俺としては心外である。
「じゃぁ、遠慮なく。派閥の奴等の目的はお嬢を誘拐する事っすよね?」
「そうだ。ノウェール家は中立派だったが王弟の所業に業を煮やし次期皇帝と言われているアイル殿下を支持する事を公にした。それにより王弟派が躍起になっているって事だな」
俺は、ずっと疑問があった。
「狙いがお嬢なのは?」
利点があるからこそ、懲りずに屋敷に侵入してくるのだろうが、子供を拐ってどうするのか。
「約二年前だったか、ノウェール家が大規模な領地改革をされたのは知っているか?特に農作物の見直しが行われたんだが。その内容は、どうやら近隣諸国に頼らず自給率を上げるというモノで、発案者はレイラ様だ」
二年前というと。
「そう、まだ八歳の子供が。何十枚に及ぶ計画書を当主に提出した」
それを聞いて俺は最近のお嬢の様子を振り返る。
『ちょっと腕の所を捲って。うん、手までのラインが最高!』
『騎士さん、ってお尻がキュッとしているけれど、何故かしら?そのままで良いから、近くで見せてもらえない?』
『手を描くためにやるぞ!ご褒美だ!!』
「……人違いでは?」
確かに理解できない趣味や奇行はあるから普通の令嬢かと問われたら否であるが。
「そう思うだろうが、ウチのお嬢様は違うよ。ちなみに団員の備品の質が上がり給料が上がったのも、この時期だ。防御は最大の武器だとか仰っていたよ」
ウチのお嬢様、何者なんだ?
「ここだけの話だが、お嬢様が六歳の頃だったか階段から落ち、二日程目を覚まさなかったんだが、意識を取り戻し身体に支障はなかったが、記憶を失っていた。そこから」
「そこからお嬢は変わった?」
親父の顔は真剣味を帯びている。
「お前は、お嬢様が十歳の子供に見えるか?」
「まぁ、見た目は年相応だな。ただ、会話をしていると時折、成熟した大人と話をしている気分にさせられる」
常に二歩、いや三歩先をみて行動しているかのような。
『何が楽しいんすか?』
『ん?ロイの手は、カッコイイよ〜。関節もガッチリしているし、手のひらも厚みが凄いよね。努力の手だわ』
鍛錬は当たりだったから、そんな事を言われたのは初めてだった。
「……俺は、お嬢の昔を知らないけれど今のお嬢だから此処にいるつもりだ」
『うしッ!』
「まぁ、面白いし」
小さな手を握りしめ気合だと言うお嬢は背中にネジか何かが付いているかのようにちょこまか動く。
面倒だが、それを上周り興味深い。
「しゃあないか」
暫く寝るのは諦めよう。