3.私、13歳 婚約者が出来たらしい
「ロイ、私に婚約者が出来たらしいのよ」
「おめでとうございます〜」
「いや、早くない?成人前もいいとこよ?」
嘘くさい拍手なんて要らないから。
本来、この様な軽い態度は苛立ち案件だけどロイには頼みたい事があるので、そこは流しておく。
「ねぇ、お願いが」
「無理っす」
「内容を聞いてからでもよくない?」
「ろくでもない事を頼まれるのは分かりきっているので無理っす」
両手でおもいっきりばつ印を作るロイに遊びじゃないんだと睨みつけた。
「じゃあ、お願いではなく命令にする。数日後に開催される街のお祭りがあるじゃない?そこである催し物の一つで、君も騎士になってみよう!に参加したいから付き合って」
「……本気で言ってます?」
おっ、軽い口調が真面目になったのは、私の話に耳を傾けた証拠だわ。
「嘘を言ってなんになるのよ」
意味ないじゃない。
「そこに、どうやら私の婚約者が参加するらしいのよ。良い案でしょう?」
騎士団に所属している兄が久しぶりに帰宅した際に教えてくれたのだ。
「ちなみに、面白がってくれて私も参加出来るようにしてくれたわ。勿論、偽名でね」
当日の申し込みも参加者が少なければ可能にするとは言っていたけれど、あまり枠はないよとの事。
ようは、職業体験がタダで楽しめるのだから、毎年騎士に憧れている市民の子なども多く来ているらしい。
「え〜、一人で行って下さいよぉ」
「お父様の許可がおりるわけないじゃない!」
通常でも外出は侍女がいるのは当たり前。ついでに親達は、いないとは言い張るが、護衛が背後に隠れているのは知っている。
ようは、非常に息苦しい。
「お金弾むから」
「無理っす」
「武器屋で譲ってと何度も粘ったけれど断わられた剣は?」
どうして、ソレを知ってるんだ?!
また、こんな感じの心の声が聞こえてきた。
「情報源はナイショ。で、どうなの?」
剣マニアなロイは悩みに悩み。
「……行きましょう!」
完全に欲に負けたロイであった。
✻〜✻〜✻
ギィン
ガキン
「筋がいいな」
「本当ですか?ありがとうございます!」
王宮の騎士と初の絡み、しかも褒めてくれた!お世辞でも嬉しい。
「よし、交代だ」
「ありがとうございました!」
いや、いい汗かいたわ。
「お嬢、水と拭くやつっす」
「ありがと」
ロイから水の瓶を受け取り、飲みながら周囲を見渡す。
「余所見が出来なくて、まだ見つけられないのよ。ロイはわかった?」
現役騎士様に相手をしてもらうと集中してしまい、周りなんて観察出来ない。あと、単純に楽し過ぎた。
体験は、予想通り人数が多いから前半後半で分けてになったらしい。なによりも刃は潰してあるとはいえ武器に変わりなく騎士とペアは、最適だろう。
「あ、アレじゃないっすか?」
写真館のみだが、写真がある世界なので、事前に確認させておいたロイが先に見つけたようだ。
「……まぁ、予想はしていたけど陽キャに間違いないわね」
「ようきゃ?」
「そう。あの子の場合、真の陽キャまでいかないし、一見、陰キャに見えるけど違うのよ」
目が隠れそうなくせっ毛の黒髪でどちらかというと痩せ型だ。だが、私の二つ上、十五歳なんて栄養は背にとられて、そんなもんだろう。静かそうな雰囲気だけど、近くの同年代の友達だろうか。数人と何かを話して。
「ロイあの、爽やかな笑顔。陰キャにはありえない」
なんだろう。例えるなら王子様の側近にいるイケメンである。
「お嬢の話す言葉は、いつも分かりづらいっすよね」
「そう?ちなみに、アナタも陽キャ寄りだから」
ロイも黙っていれば、かなりカッコイイのよ。特に、これは私だけかもしれないけれど、彼の黒髪に茶色の目は、私の記憶している場所では普通だったから落ち着く。
「今日は、ロイと兄妹みたいね」
この国の人間の髪色は、ピンクや青など明るく目立っ色ばかり。変装の為に明るい茶色を黒くしているので兄妹に見えると思う。
「お兄ちゃん」
「こんな面倒な妹は無理っす」
「そこはのるべきよ」
「え〜」
そんな心底嫌そうな顔しなくても。
「ねぇ、まだ時間が早いし皆にお土産買って帰ろうか。オススメ教えてよ」
せっかく街に出てきたので、手ぶらはもったいない。お菓子とか可愛い小物とか欲しいな。
「え、婚約者と話さないで終了?」
不思議そうなロイが面白い。もしや私が手合わせでもお願いすると思っていたのかな。
「ええ、もう充分よ」
近々お見合いの席で会う前に素を知りたかったのだ。まぁ、今も外面仕様かもしれないけど。
陽キャは遠目から眺めるのが良いのであって近くにいる必要はないと再認識できた。
「うしッ。沢山見て良いお土産を買うぞ。行くよ!まずはお菓子屋さん!」
「あ、逆っすよ〜」
「先に言ってよ」
「言う前に曲がったからですよ」
「違う!」
ギャーギャーとロイと言い合っている姿を婚約者、ケイン・ヴァースが見ていた事をレイラは知らなかった。