1.私、6歳
「やたら白い手だなぁ」
後から聞いた話では、どうやら階段から落ちてまる二日、意識が戻らなかったらしい。
「うん、全く何も覚えていない」
いや、全くとは言えない。私の記憶の中では、私は幼児ではなく成人してやや社畜寄りの会社員だった。
「確か、美鈴に勧められて漫画を読んでいたような」
10も離れている妹は、PCを前にプログラミングやネット内をそれは楽しそうに飛びまわり、もはや私よりも世間を知っているように見えた。
『めっちゃ、顔色悪いじゃん。仕事以外、なんか見つけなよ。干からびちゃうよ?』
なんだかんだで可愛い妹にあれよあれよとネット登録されてベッドに寝転んで目を通していた。
それが目を覚ます前の記憶だ。
「うーん、転生というやつなのか、のっとりなのか。はなまた、頭がおかしくなったか」
その三つくらいしか浮かばない。
にぎにぎ
「ちっさい手だなぁ」
……分かることは、私は幼児で6歳。そして周囲を見渡す限り、かなり裕福な家にいる。実際、メイドや侍女が先程までいたから間違ってはいないだろう。
あと、もう一つ。
「ここには、私の知る人は誰もいない」
悲しくなってきて、泣いた。それはもう豪快に。泣き叫ぶ声に侍女だというミレーと両親と教えてもらった煌びやかな二人が息を切らしてこ部屋に入ってきたのが、涙でぼやけた目に映った。
✻〜✻〜✻
静まり返った夜。
「うしっ」
小さな両手を握りしめ気合を入れる幼女がいた。
私、レイラ・ノウェールは、生きる為に適度に緩く頑張ります。
「手始めに出来る事と出来ない事を書く」
両親から新しい鍵付きの日記帳をもらい、書いてみた。
「まずは、字からか」
日本語は書けても、この国の文字は書けなかった。
「もう、挫折しそう」
この歳で(記憶では25歳)いわゆる平仮名から学ぶなんて目眩がする。それだけではない。
「この国の事、親や親族、礼儀作法……全く分からない」
ゼロスタートだ。
「いや、会話はできたから、かなりマシかもしれない」
これで話が成り立たなければ、もうアウトだった。
「まだ6歳、巻けば間に合うはず」
脳は若い。この身体の脳みそレベルは未知だけど、成長はするはずだ。
「うしッ」
ムチムチとした手でペンを握る令嬢は、再び自分に気合を入れた。