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おめでとうが言えない僕

作者: 紫月

 今、兄ちゃんの婚約者が来ている。母ちゃんはその人をチヤホヤして、父ちゃんはヘラヘラ笑ってやがる。母ちゃんは僕を無理やり引っ張ってその人の前に出した。視線が僕に集まる。

「…こんにちは」

僕は仕方なく、挨拶をした。そしたらその人はわざわざしゃがんで、仲良くしてと頼んできた。

(嫌だね!)

僕は強くそう思ったけど、兄ちゃんの顔を見たらそんなことは言えなかった。

 僕は兄ちゃんがとても好きだ。背の高い兄ちゃんが僕を抱きかかえてぐるぐる振り回すのが好きだし、兄ちゃんの給料日に漫画とチョコを買いに連れて行ってくれるのが好きだ。兄ちゃんは僕が生まれたことをとても嬉しかったと言っていたし、実際、僕に優しくしてくれた。だけど兄ちゃんが僕にこんな期待を込めた顔をするのは初めてだった。

 兄ちゃんとその人の結婚式、僕は朝早くから式場に連れていかれた。僕の気分は最悪。兄ちゃんは少し前からその人と一緒に暮らし始めたからだ。なんだよ、それ。僕と漫画、買いに行く約束はどうなるわけ?僕はそう思ったけど兄ちゃんには言えなかった。

 その人がドレスに着替えたらしく、挨拶をしに控室に連れてこられた。久しぶりに兄ちゃんに会えたのに兄ちゃんはその人に夢中で、僕を見ない。ポケットには兄ちゃんの好きなチョコを入れて持ってきてるのに。僕は悲しくて唇を噛んだ。

 大人たちがスタッフの人に呼ばれて俺はその人となぜか2人きりになった。その人は僕に手招きしてきた。僕が首を振るとその人は悲しそうな顔をした。僕はしまったと思った。だから仕方なく僕はその人にチョコを渡した。少し溶けていたけれどその人は笑ってそれを食べた。何を笑っているのかと聞いたら、困った時にチョコを渡すのが兄ちゃんと同じだったから面白いらしい。

「なんだよ、それ」

俺もつい笑ってしまった。その後、みんなが戻ってきて、その人の口についてしまったチョコに大慌てをしていた。僕はまずかったかなと思ったけれどその人は僕を見てまた笑った。

 兄ちゃんの結婚式、たくさんの人がおめでとうと言っている中で、僕は黙っていた。おめでとうなんて言わない。だけどあの人にはまたチョコをあげてもいいかなと思った。

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