97.VSドローニ
「私はドローニ。お察しの通り呪術師だけど…、ローゼッタと、ワーウルフと、女。少し私の話を聞いてみない?」
「……問答無用。と言いたい所だが。言いたい事があるなら言ってみ給え…」
「あなた達、勘違いしてるのよ。私達はね、このヴェントで平和に暮らしたいの」
「……城や、王を、こんなにしておいて…、…城内の衛兵達はどうしたんだ?!」
「う~ん。それはまぁ、後で教えるわ。あのね。本当の事よ。実際ヴェントは平和そのものでしょ?」
「……………」
言葉に詰まるローゼッタを見て、テフラが口を挟む。
「それは、私も少し不思議に思っていました…。一体何が目的なんだ?」
「だから、平和に暮らしたいのよ。食事に雑貨に生活用品に、そういう物を好きに買えない生活なんてまっぴらだわ。勝手に、自由に回っている街の中で生きてこそ人生に価値がある、そう思わない?」
「であれば、なぜ城や王をこんなにする必要があるんだと…」
「自由に暮らしたいからよ。それに大きな目的のために、利用したかったの」
その言葉を聞いて、再びローゼッタが口を開く。
「埒が明かないな。推し通らせてもらう」
「おっとっとっ!ダメダメ、あなたが手を引かないと言うなら、もう一個大事な話をしなきゃ」
「……話したいのなら、勝手に話せばいいだろう」
ローゼッタは剣を抜き、スキルを発動する構えをとる。
「あなた達聖騎士の様な、ハイクラスのコープス化は難しいの。その精神の強靭さが逆に災いするのか、単純にコープス化させただけでは普通のクラスの様な力しか出せなくなる。だけどその完成形と言うべき個体がいてね。ほんの偶然だったらしいけど…。それを必然にしたいのよ。それに近づけるために、あの手この手を尽くしていた」
「どうでもいい。排除する。≪アタッチ:聖装≫!」
「≪反転≫」
ドローニが魔法を唱えると、その体から湧き出る様に、1人の男が現れた。
「なっ………!!」
「コープスですね、1体出されたところで」
「いや!待ってくれ!……あれは……」
「アッハ!良い顔するじゃ~ん。てか、腐ってても直ぐ解るんだ?キモっ」
「……父さん……っ!!!」
「コレが完成形、ハイコープスよ。私達が意のままに操れて、
かつ、生前のスキルは全て使える。さらに生前以上の膂力!」
「き、貴様……っ!」
「てか、想像もしてなかったワケ?考えれば解りそうなもんだけど。
あんたら聖騎士隊は、本当に頭がお花畑なんだから…。≪反転≫」
ドローニがもう一度同じスキルを使うと、また1人湧いて出てくる。
「母さん!!!」
「アッハッハ!!あ~面白っ…」
「こっ!……殺してやる!!!」
「こっちのセリフよ。溺没のドローニが命じる。目の前の女共を殺せ」
ドローニの声に応じる様に、2体のコープスは剣を振るう。
ローゼッタの母親の方は特に剣術の心得がある訳でもなく、
ただ暴れていると言った印象だ。
そんな2体の剣撃を受け止めながら、ローゼッタは声を上げる。
「くそっ!!なんでっ!!こんな!!」
「くっ、ローゼッタさん!私達が手を貸しても良いですよね!?」
テフラの声は、ローゼッタの両親の死体を、手にかけてしまっても良いのかと言う確認だ。
「ま、待って…くれっ!」
「…っ!ローゼッタさん!!ご両親だろうとも、もう亡くなっているんですよ!!
その亡骸を好きに使われる事を、止めるべきです!」
「だがっ…」
猛攻に怯んだローゼッタを、母親が抑え込む様にして膠着状態が出来た瞬間。
父親のメディウムがスキルを発動した。
「≪アタッチ:聖装≫」
(これは、ローゼッタさんが使っていたのと同じ強化スキル!まずい!)
「恨むなら、恨んでください!」
まず母親の方の首を飛ばそうとテフラは爪を振るうが、メディウムのスキルによる光の盾によって弾かれた。
「≪エイジス:蕾冠≫」
「なっ!」
(コープスがコープスを守った?!)
「こいつらは連携がとれるのよ、面白いでしょ」
場が混乱に陥ったタイミングを見計らって、息を潜めていたメイリーは、
≪潜闇≫でドローニの背後へと移動した。
そして出現と同時に、ナイフによる超速連続突きを行うスキルを発動する。
「≪除連殺≫!」
その刃は、確実にドローニを幾度も突くが、何れも体に穴を空けるに至っていない。
「い゛っ!!!てぇなぁ゛!!!!」
「なっ、なんで死なないの?!」
「≪呪詛・膨漸水」「≪巣蜘血≫!」
メイリーのスキルは、ドローニに触れるとその体に吸い込まれて行く。
(またっ!王様に撃った時と同じ!こいつは何もしてないのに!)
「・流転≫!!」
ドローニの掌がメイリーへと向けられる。
すると、メイリーは指先から皺で覆われていった。
「いっ、痛っ!!」
「何分もつかしら?」
「≪瞬爪≫!」
コープス2体をスルーする形で、テフラはドローニに攻撃を仕掛ける。
その連撃で全身を攻撃する。手応えはあるが、切り裂けてはいない。
(くそっ!単純に魔力が強いのか?!この魔力防御を削らなければ!)
「い゛っ!クッソが!!!てめぇら!!!よくもこの私を!!」
「≪廻穿脚≫!!!」
ドパンッ!!!!!
斬撃から打撃へと切り替えて、ドローニの腹を蹴りつけた瞬間、
明らかな違和感と、人体では有り得ない音が響いた。
(こ、こいつはっ!!いやっそれより!)
「メイリーさん!大丈夫ですか!!」
「い…痛い…痛い…っ!!」
その皺は、何時間も水に浸かった時の様に、皮膚がふやけて出来ている事が確認できた。その皮膚から溢れた水が、メイリーの足元に薄い水溜まりを作っている。
「私の魔力は特別製だ。無駄なんだよ!!
お前ら、全身グズグズにして殺してやる!!」




