92.ポーション
「この子は、副隊長のオレットだ。他の者はこの子から段取りを聞いてくれ」
ローゼッタはそう言って、ママル達を連れて部屋を後にした。
そして長い階段を半分程戻った所で、右手側の土壁に鍵を差し込む。
「おぉ~、隠し部屋の隠し部屋か…。凄いですね。全く気付かなかった…」
「この街の建築家の多くが土系統の魔法士でね。そのため、地下空間はどこにでも広がっているし、その上で、海も近いのに地盤が頑丈で安定しているのも彼らの力だね」
「ふむ…。だからコープス達もこの街の地下のいたる所におると」
「そう言う事だね、じゃぁまぁ、座ってくれ」
先程の部屋と違って、こちらは椅子やテーブルは勿論、
ある程度人が生活できそうな物資が揃っている。
ローゼッタが部屋奥の、大きな机の椅子に座り、
ユァンは部屋の扉の近くで待機している様だ。
「さて、わざわざ別室に移動した理由だが、まずコレについて聞きたくてね」
ローゼッタはそう言うと、1本の小瓶を取り出した。
「あれ?ローポーション?!」
「ふむ、やはり君か。いやすまない、別にカマをかけようとした訳じゃなくて。
これはコルセオで買ったんだ。店主に事情を聞いたら、君の姿しか浮かばなくてね」
「な、なるほど…、えぇっと…それで」
(何か良くない事でもしてしまったんだろうか…)
「これ程の魔法薬を、どうやって手にした、と言うか、なぜ売ったんだい?
もしかして、製造法や入手手段、在庫に心当たりがあるのかなと思ってね」
「えぇっと…、…そんなに凄い物なんですか?」
「ふむ、効果を知らないと?」
「いえ、回復薬なのは知ってますけど…」
「回復系の魔法士に見て貰ったところ、三日三晩かけて行うような回復効果を、
こんな小さい瓶を飲み干すだけで行えるのではないかとの事だ。
例えば腕が切り落とされたとしても、繋ぐことすら出来るかもしれないと」
「マジ?!」
(そ、そんなのを水代わりに飲んじゃってたのか…)
ママルと同様に、ユリやテフラも驚きの表情を見せている。
「その様子じゃ、本当に知らなかったみたいだね…。それで、入手手段についてなんだが…。コルセオにあった分は全て買い取ったが、正直いくらでも欲しい」
「なるほど、そう言う事ですか…。えぇっと…、在庫なら…まだあります。
ただ、理由はちょっと話すと長くなりすぎるので端的に言うと、数は絶対に増やせないと思ってます」
「ふむ…。ちなみに、何本くらいなら用意できるかな?」
「あまり減らしたくないんですけど…。えっと、何本くらいが理想ですかね」
「オレット達の部隊は、3、4人で1組、そこに聖騎士隊が2人ずつ付く形で、13隊程になる予定だ。コルセオで買った7本と差し引き6本、そこにユァンの分含めると7本で、各隊に渡ればと」
「ユァン……。さんは……」
「俺は単独行動だ。おんしらに付いて行き、途中で別れる」
「あぁ、そう言う事でしたら、了解です、7本出します」
(本当は全員に1本ずつとかでも良いんだけど、流石に大量に渡すのは惜しいし、怪しく思われる気がする)
「って言うか、ユァンさん。その、先日ボコったの、謝りませんけど。でも怪我は大丈夫ですか?もしまだ痛みとかあるなら、もう1本追加しますけど…」
「くっく…もう完治しちょる。平気じゃ」
ママルは、アイテム袋から7本のローポーションを取り出す。
「あ、ありがたい!しかし、今どうやって…」
「ま、まぁまぁ…」
「………ふむ。では、小型金貨10枚でどうだろうか」
「え、いや、7で良いです。店に売る時はそのくらいなので」
(普通にあげる気だったけど、折角だし頂いておこう)
そしてローゼッタはオレット達に届けてもらう様、ポーションを袋に詰めてユァンに渡した。
「ポーションの件についてだけではないけれど、君達が早く来てくれて本当に助かったよ。正直、まだ結構余裕があると思っていた時間が無くなってしまったからね」
「2枚目の手紙の話ですか?」
「そうだ…。明らかに様子が変わった。兵士達は殆ど招集されたし、
私はおそらく、敵に監視されている。なので家にも色々細工をして来た。
もう予断は許されない状況だ。
君達が到着したと言う報告を聞いて、即座に動くことにしたのさ」
「であれば、こんなとこで悠長に話していてよいのか?」
「1時に決行すると伝えてあるからね。後1時間くらいか」
「なるほどのぅ…。ところで、コープスが地下に居たとて、どうやって動かすのだろうか?」
「遠隔の魔法で命令できるみたいだよ。実際そうやってグラスエスへの侵攻を操っている」
「黒幕の姿を見たものがおると?」
「2、3人、まるで羊飼いの様にコープスを従える魔法士を見たと言うだけの話さ」
「…なるほどのう」
「私からも良いだろうか。君は初めましてだね」
「わ、私?そ、そうね、メイリーよ…。ょ、宜しくね……」
「あぁ、よろしく頼む。メイリー君は、戦闘はどうだろう?」
「ぇ…えぇっと………」
言葉に詰まるメイリーを見て、ママルが援護した。
「メイリーさんは拘束系と、潜入や暗殺系に向いてる感じですね」
「ふむ。それはとても助かるな」
「そうなんですか?」
「勿論、基本的に敵と見なしたら殺してしまう方が簡単だが、拘束出来るならその方が良いからね」
「な、なるほど、それはそうですね…」
「出来れば、ちゃんと法にのっとって処分を下したい」
(法にか…。理想論ではあるが、それはある意味手加減するような物じゃ…)
「例えば…、拘束した相手が、抜け出して誰かを殺すなんて事もあるかも…。
どういうスキルを持ってるかなんて解らないし…」
ローゼッタはママルをジっと見つめ、数呼吸の後に話す。
「………君は、殺しに慣れているのかね?」
「ま、まぁ、そうですね…。と言うか。モンスター化について、詳しく伝えていないこちらの落ち度もありますが、基本的にモンスターになった人は、常に誰かを攻撃します。そんな欲求が湧く様になる。自分に危害が及ぶ段階になった時だけ、ようやく反省をした気分になる、そういう生き物になるんですよ」
ママルはなんだか責められた様な気がして、強い語気で反論してしまう。
「……………だが、どのみち命を奪うとしても…私は」
「それを誰が殺すかは、そんなに重要なんですか?
俺は、殺しなんて損な役割だと思ってます。だから俺がやるんです」
「ロゼ、ママルの言う通りじゃ」
いつの間にか、オレット達の元から戻って来ていたユァンが口を挟む。
「より多くの人を救おうと思ったらどうするべきか。冷静に、合理的に判断せい」
「…………ユァンには昔からそんな事を言われていたけれど、
私は私の方が正しいと、ずっと思っていた。いや、今でも思っているが、
…………正しさだけでは、人は救えないのかもしれないね………」
「何をもって正しいとするかは人それぞれじゃ。人によっては当然、俺を悪人と見なすだろう。それはつまり、敵だってそういう風に考えておると言う事じゃ。
…俺が大事だと思うのはな。信念を貫く事だ。
ロゼは、誰を救いたいのか。誰を裁きたいのか。
例えばヴォヌエッタ王を法で裁くなんて事は不可能だと、以前も言ったじゃろう」
「…そう、だね」
「こんな状況をわざわざ作り出してる奴らなんかは、邪悪そのものじゃ……。
おまけに戦闘力も高いと聞く。聖騎士隊の能力は高いが、それ故、同じかそれ以上の者達と命のやり取りをする事が殆どなかったじゃろ?
戦闘スキルを使った実戦なんてのはな、正直、如何に先手を取り、相手に自身の能力を悟らせないまま殺すか、これが最重要なんじゃ。スキルを見せた相手を生かして置くなんてのは、己の命に係わる愚行。
今からでもオレットに伝えて来い。先程見た感じ、あの娘も大分解っちょらんかったからな。このままでは、無論勝つ前提の上で話したとて、俺らの内からも死人が出るぞ」




