91.会合
「サンロックに呪術師の奴らが入り込んでいたのと同じように、
シーグランにも入り込んでいるのは間違いないでな」
「そうだね」
「戦争を起こそうとしとると言う話もあった。各国で暗躍し、荒らしまわっておるのだろう。だが、ここで肝心なのは、モンスター化についてだ。
サンロックのバルバリス旧国王は、元からモンスターだったのだろ?」
「あんま自信ないけどね。確かそうだった気がする」
「元からであれば、まぁ、何と言うか、どうしようも無かった面もあると言うか…、だが魔法薬によってモンスター化させる。と言うのがこれまで以上に危険な話になっとる気がするで」
「特にユリちゃんとメイリーさんは気を付けてね…」
「そうですね、お2人は特に対抗策も無さそうですし…」
「あの粉みたいなのを吸わないようにしたら良いのよね…?」
「うむ…。実際の効果は解らんが、相当危険だと思うで。
それと、先程話したが、聖騎士隊はかなり誠実な奴らの集まりなのではないか?
神聖力と言う名の力を扱うだけあって」
「そうだね、少なくとも、不必要な戦いはしないようにしてる感じするし…、
って、そう言う事か…。兵士を無理やり集めようとしてるらしいから」
「だな。モンスター化させ、戦争に加えたり、殺し合いをさせたりするのではないかとな」
「十分すぎるくらい、あり得る……」
「そう言う意味でも、今日動くと言うのは納得が行くでな。早いに越したことは無いし、おそらくわしらが到着した事を知ったのではないか?」
「…なるほどね」
――そして、その日の晩
部屋の扉をノックして現れたのは、宿屋の主人だった。
殆ど無言の彼は、付いて来いと言うジェスチャーをした後、
1階の部屋の1室へと案内する。
内装はママル達が泊まっていた物と殆ど同じだが、
ベッドが1つとカーペットが、部屋の隅にズラされていて、地下へと続く扉が見えた。
今、目の前でベッドを動かした訳では無い。
と言う事は、直近で既に何度か使われたのだろう。
宿屋の主人は、地下へ降りる様に顎で示した。
通路は微弱な明かりを発する魔道具によって、薄っすらとしか周囲が見えない、
降りる階段は長く続き、ママルがポソリと呟く。
「暗いなぁ…」
「なんだか、安心するわ」
「メイリーさん、暗い所が好きなの?」
「なんかね…、見えないのは不安だけど、周囲からもこっちが見えないでしょ?」
「なるほど…」
「潜闇のスキルなんかも、自在に使えそうだのう」
「そうね、どこからでも潜れて、どこからでも出られそう」
「心強いですね」
「えへへ…やったっ」
暫く歩くと照明の魔道具の明かりが強い場所が見えて来た。
その明かりの元が行き止まりになっていて、左側に扉が見える。
「じゃ……じゃあ、開けるよ…」
「お主、びびっとるのか?」
「び、びびってねーし!」
扉を開けると、広場が見えた。
階段通路の壁は土だったのにも関わらず、この部屋は石壁で覆われている。
照明がいくつか灯されており、そこそこ明るい。
室内には、多くの人が見えた。
(何人いるんだ…?)
「…なんだ、女共か…。しかも獣人まで。あの聖騎士は何考えてんだ…」
「馬鹿が。スキルを使う実戦において、性差など無に等しいのを知らんのか」
「んだとコラァ?!」
「ローゼッタですら女だぞ、勝てると思ってるのか?」
「や、やめましょうよ!揉め事があったらローゼッタさんとの契約もなくなるかも!」
「チッ!」
入室するなり、なにやらママル達をさして揉め事らしき声が聞こえて来たが、
その後すぐに1人の男が駆け寄って来る。
「あ、あんたは!テフラ!よろしく頼む!」
「ぇ、ええっと………」
「あんたが居るなら心強い。闘技大会では惜しくも敗れちまったが、
俺だって準優勝まで出来たんだ。手柄全部は渡さないぜ」
「…あのワーウルフ、トゥージェスに勝ったのか…」
「トゥージェス。ジェイコフで名を馳せた傭兵か」
「やはり、女や獣人だからと言って甘く見るのは間違いだな」
「相当な手練れだぞ…」
そんな周囲の声が聞こえてくるが、テフラは目の前の男に覚えはない。
ただ、今の会話から誰かは推察出来たので、慌てて答えた。
「あっ、あぁ!えと、よろしくお願いします…」
「あぁ!お互い頑張ろう!」
トゥージェスはそう激励を飛ばすと、仲間の元へと戻って行った。
「コルセオで知り合ったんですか?」
「え…と…、しょ、正直、あんまり覚えてなくって…」
テフラは出来るだけ小さい声で答え、ママルも声を落とす。
「え?あの人準優勝だったんですよね?」
「その前にローゼッタさんと当たって、彼は、その、直ぐに倒してしまったので…」
「えぇ…」
「ふむ…なるほど」
「何が?」
「特段に強い者だけを集めてる訳では無いのだろ。ある程度の戦闘が出来る兵士が欲しいのだ」
「なるほど…」
それから5分程したら、背後の扉がまた開かれた。
姿を現したのは、ローブで身を隠した3人。
3人は入室するなりローブを脱ぐと、ローゼッタとユァン、そしてもう1人の女が確認できた。
「やぁ、待たせたね」
ローゼッタはそう言いながら部屋の中央へと足を運ぶ。
周囲の人達は、無駄に騒ぎ立てることなくローゼッタが口を開くのを待つ。
「さて皆、よく来てくれた。報酬はこの件が片付いてからで頼む。
それで、早速だが今回の出来事について説明に入る。
君達は、死体の兵士と言うのを見た事があるかな?
見た事が無い者もいるかもしれないが、それは存在する。
私を含め、ヴェントの多くの者は見ているからね」
「噂には聞いたが…」「悪趣味だな」
「俺らは、それと戦闘するのか?」
「まぁそうなんだけれど、順序立てて話すので聞いてくれ。
まず、我々聖騎士隊は王の意見にさえ対等に話せるだけの立場がある。
そんな我々に業を煮やしたのか、どうやら我が国の王は、
いつからか代わりの兵士となる物を製造していたみたいなんだ」
「それについては俺から話す。ユァンだ。まぁ、便利な戦闘員だとでも思っちょくれ。死体の兵士、コープスと言う名らしいのじゃが、それを亜人を利用して製造しておった。適当に捕まえて来ただろう亜人を薬漬けにし、ひたすらに子を産ませ、
子に呪いをかけ早期に成熟させる。
ゴブリンであれば10歳くらいだな。それに殺し合いをさせるのじゃ。
死体はコープスになり、生き残った者がまた子を作る。
それを随分昔から繰り返していたようでな」
「おいおい…」
「俺は亜人は嫌いだが、流石にそこまで命を弄ぶ真似は反吐が出るな」
「うむ。それでつまりな。相当数のコープスが、ここヴェントの地下に格納されておると言うことじゃ」
「街の地下に?!」
周囲が流石にザワついて来たタイミングで、またローゼッタが話始める。
「つまり作戦はこうだ、本隊が城の内部へと進行、黒幕を仕留める。その時、ほぼ間違いなく街がコープスで溢れるだろう。他の者はこれらを討伐して欲しい。
コープスはしぶといし数も多いが、1個体単位での戦闘力は君達の遥か格下だ。安心してくれ」
「基本的には首を落とすまで動き続けるらしいからな、各々戦闘方法を考えとくのじゃよ」
「亜人の死体に刃を向けるのか…中々キツイな」
「いや、雑魚なら安心だろ。それで多額の報酬が貰えるんだ」
「その本隊と、黒幕の正体についても教えてくれないか?」
「正体か…。これもいくつかの段階に分かれるのだけど。
まず、世界を混沌に陥れようとしている奴らが居るらしい。
訳の解らない、馬鹿みたいな話だけど、実際に居るらしいから始末が悪い。
そしてそいつらに協力した、魔法薬の研究機関。
それから、そんな奴らにまんまと踊らされたヴェント城内の売国奴共。
この3つに分けられる」
「それらが全部城の中にいるって?」
「1番目は半々、他は確実に居るね。だが、3番目の売国奴。
それの人物の特定が、まだ確信には至っていない」
「現在調査中じゃが、貴族や王族はとんずらこくと言う訳にもいくまい。
そうなったらなったで、丸解りじゃしな」
「そう言う事だね。なので、まず裏口から王室へ攻め入る。
ヴォヌエッタ王と対面してやろうと思ってね。
王はここ数か月、姿は見せても、まともに対話も出来ていないんだ。
それで1番目や3番目を釣ろうという訳さ」
「なるほど…。まぁそういう、内部のヤバそうな件は任せて良いって事だな?」
「そうなんだけれど…。すまない。本隊に、ママル君のパーティーに入って貰いたい」
ローゼッタはそう言いながら、視線をこちらへ向けて来た。
(やっぱそう来るか…)




