90.要旨
「メイリー、なんかお主、目が赤くないか?」
翌朝、宿の1階で朝食をとっていると、ユリがメイリーを見て言った。
「えへへ…、恥ずかしいけど、昨日の夜泣いちゃったの」
「!!!ママル!お主!!」
「え?……い、いや!違う!!!」
ママルは必死に昨晩あった事を簡潔に伝えた。
「ふぅ、そう言う事か」
「ユリちゃんにあらぬ疑いをかけられて、俺がショックで泣きそうだよぉ…」
「くっ……、す、すまんの……」
「んまあ?いいけどねぇ~」
「む……。てっきりまた、お主のいや~な言葉選びで、メイリーを泣かせたのだとばかり思っとったわい!」
「あっ!それユリちゃんの方がいや~な言い方してるじゃん!」
「ふふふっ」
「2人も、とっても仲良しねっ」
「え、いや、まぁ、そう、かな」
「な、なんだお主!急にしおらしくなるなっ……」
「あ、そうだ、折角だし、部屋割りをローテしよう」
ママルは昨晩あんまり寝られなかったのを思い出して、そんな提案をした。
「まぁ、よいが」
「構いませんよ」
「なんだか楽しそうだわ!」
4人は朝食をとり終わったあたりで、一枚の手紙が宿の主人から手渡された。
良く見ると、他の席の何グループかにも手紙が配られている気配がある。
(この宿の人達の多くが、ローゼッタさんが集めた人なのか?)
先日と同じように、またもや1部屋に集まり手紙を読み始めるが、
そこにはたった一行の文字が書かれていた。
[今夜、決行する。準備を整えておいてくれ]
「え、流石に情報なさすぎじゃない?やたら急だし」
「何をどうするのか、改めて説明があるのだろ」
「ローゼッタさんが、一度ここに来たりするのでしょうか」
「なるほど、十分あり得るな。もしくは代わりの者とかな」
「何にせよ、いよいよか……。今回も呪術師や黒魔術師が敵対する可能性がある。気を付けよう」
「そうだな……結局わしだけは、まともに会ってはいないが…」
「メイリーさん、武器の手入れは大丈夫ですか?」
「え?お手入れがいるの?」
「ちょっと、見せて貰っても大丈夫ですか?」
「ええ…いいけれども、私、何にもした事ないわ…」
「………大丈夫そうですね、刃こぼれが一つもない。気力とかで覆ってるんですか?」
「え、ええっと……多分、そんな感じだと思うわ」
皆がそわそわし始めた。ただその時を待つしかないと言うのは、なんとももどかしい。
――――――
死体の軍勢は、やはりまだまだ居た。そしてその居場所をいくつか特定できたが、
他にも居る可能性が十二分にある。
そして、下手に先手を打てば、黒幕に逃げられる可能性が高いため手が出せなかった。
だが、ついに掴んだ。
「先日、兵の招集を強行したのが裏目に出たみたいだね」
「一体、何を焦っているのでしょうか…」
「解らない。だが、急ぐ理由があった。と言う事実だけで、むしろ動きやすかった。何かが起こっているという事を教えてくれた様なものだからね」
「では、あとは例の仕事屋次第ですか…」
「君は、そろそろ彼を知っておいても良いかもね。盗みや情報操作、殺しまでやってのける彼の事を」
「………以前から噂は聞いてますが、と言うか姿も見た事はありますが、
そんな人とローゼッタさんが親しいのは、私は良く思ってません」
「まぁ、解るよ。だがね、いくら美しい景色を保ちたいと願っても、人が生きていれば、ゴミは出る。そういうモノの片付けをする人間は、必ず必要なんだ。
私も、最近ようやくそれに気づいて来たよ」
「……………。理解はしますが、納得いきません」
その時、扉がノックされた。
ココン。コン。
「噂をすれば、だ」
「退出しますか?」
「先程も言っただろう。オレット」
「解りました…」
ローゼッタは扉を開け、ユァンを迎え入れた。
――――――
「少し、わしの考えを聞いてくれるか」
「もちろん良いけど、何について?」
「近隣の国についてだな」
「では、是非」
「ユリちゃんのお話?私も聞くわ!」
「…あくまで、今知っている情報を、辻褄を合わすように繋いだだけの話だで」
「うん」
「シーグランがグラスエスを奪ったのは、少なくとも18年以上前だ。理由は、ルゥの両親が旅をしていた時は、まだルゥは生まれてなかった筈だからな」
「そうなんだ」
「そして、グラスエスからサンロックへの侵攻は、確か10年くらい前だと聞いた」
「イーツでの話ですね」
「うむ。その頃にグラスエスは実質的にシーグランの支配下にあった。その上でサンロックに仕掛けた。だが、ここが色々引っかかる」
「うん?」
「イーツで聞いた侵攻ルート、わしらも見ただろ。あそこを通ったのだとしたら、
イーツから北側へは殆ど行っていない。と言うか、ディーファン等を見るに、
イーツでの戦だけで終わった可能性も高い。
国が国に仕掛けて、前哨陣地での戦だけで終わる物なのか?」
「あー、まぁ、確かに?」
「そして、グラスエスには聖騎士隊がおる。ローゼッタを見るに、近年出来た隊でもなかろ。サンロックに仕掛けた時、おそらく聖騎士隊は参戦しなかったのだ。
と言うか、参戦しないからこそ、グラスエスがやった事にして、
何か、威力偵察の様な意味で仕掛けたのではないか?」
「説得力あるね」
「そしてサンロック側の話だが、簡単に勝てたと思ったとしたら、
以前のバルバリス国王が報復を仕掛けない訳はないと思うのだ」
「……まぁ、確かに」
「そうですね」
「バルバリス国王はおそらく、グラスエスではなくシーグランだと気づいておった。そして聖騎士隊が参戦していない事に憤慨した。舐められていると。
そういった怒りを呪術師らに利用され、モンスター化、コープス作成と言うものに手を貸した。
それが、サンロックが他国を呪っていた正体、と言う事なのではないのかと…」
「お~。なんか、色々情報が纏まった感じで、スッキリした気がする!
ユリちゃん凄い!天才!」
「お…、お主の褒め方は、何とも煽られてる感じがするのだが…」
「賢い!かわいい!ありがたや~!」
「……くっ!この…、いや、まぁよい。まだ話は終わりではない」
「あ、そうなんだ。水差してごめん。続きを是非」
「お願いします」
ずっと黙って真剣に話を聞いていたメイリーは、
チンプンカンプンと言った様子で目を回しそうになっていた。




