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85.沿革

ユァン=サイフゥは、ここより北の大陸で生まれた。

その家は代々、一子相伝の暗殺拳を継承していて、

王家を裏から守護する役目を担っていた。


だがある時、王家から逆賊として吊し上げられる事になる。

全く身に覚えのない罪を着せられて、両親は公衆の面前で処刑され、

まだ10歳だったユァンは、小舟で海に放流されるという刑に処された。


本来であれば間違いなく海に沈んでいただろう小舟は、

少しの幸運と、ユァンの執念でもって、ヴェントの海岸へと辿り着く。


既に多くを会得していた体術でもって、

犯罪に手を染め生き延びていたが、15歳の頃にあえなく御用となった。



ユァンは牢の中で8年の時を過ごし、ようやく釈放された時。

メディウム=シュヴァルツァと名乗る、聖騎士の青年に声をかけられる。

彼はユァンの技に興味を示していた。


その内、メディウムに仕事も斡旋してもらい、

気が付けば、サイフゥ家が行っていた事と似たような仕事をやり、

8も歳が離れているのに、2人は親友となっていた。


それから12年。ユァンがヴェントでの裏稼業を生業とする事にすっかり慣れた頃、

メディウムには娘が生まれ、ローゼッタと名付けられた。


ローゼッタは15歳を迎えると、聖騎士隊へと入隊を果たす。

更に3年程で頭角を現し隊長へ昇進した。

メディウムが現役引退で隊長から退くと同時だったか、

皆が実力で成ったのだと納得していた。

その日は、盛大なパーティーが開かれた。


そして翌年、両親が行方不明となる。


理由も未だに解っておらず、その調査のために、

直接の関わりがあった訳では無いユァンと共に行動するようになった。


ロゼはユァンの、犯罪さえ平気でこなすやり方をあまり気に入ってはいない。

ユァンはロゼに、未だにどう接するべきなのかを掴みきれていない。


行方も知れないメディウムが、そんな2人の絆を繋いでいるのだ。




――――――



「なぁママル、その…。お主、最近キレやすくなってないか…?」

「えっ……………………」

「何か理由があるんですか?」


「確かに、思い返してみると、そうかも……。なんでだろ…………」

(直近では、野盗と、ユァンか……)

ママルはこれまでの記憶を思い返し、自問自答を繰り返す。



「ママルちゃんは、お馬が好きだからなのよね~っ?」

「え、いや、まぁ、そうなんだけど…………。いや、そうか。そう言う事か」


「話してみぃ」

「ユリちゃんも言ってたけど、良い人が意外と多いって解ったからだよ」

「解る様に話せ」

「えっと、だからつまりさ、この世界の普通が、思ってたよりちゃんとしてるから。だからこそ、平気で人や動物に危害を加えられる奴らが、意味わかんないって、腹が立つ。みたいな感じ」


加えて、良い意味でも、悪い意味でも、ママルは人を殺すと言う行為に慣れて来ているのも理由だ。

人を攻撃するときの恐怖は次第に薄れ、当たり前になりつつある。

それはママル自身も自覚しているが、それを言葉にする事は憚られた。



「なるほどのぅ」

「なんとなく、言いたい事は解りました」

「モンスターは腹が立つわよね~」


4人で道を歩きながら会話していると、メイリーが少し遅れている。

(そういえば足遅かったな…)


距離が出来ると小走りで近寄る。それを繰り返していると、

メイリーはついに根を上げた。

「ご、ごめんねっ、皆っ、つ、疲れちゃって……はぁ…はぁ……ごめんね?」

「あ、あぁ、一旦休憩にしよっか」

「だな」


「ご、ごめんねぇ…」

「良いんですよ」

「そんなに気にするでない」

「そうよ、病み上がりなんだし。ってか、ユリちゃんより先にバテるとは…。

体力って、レベルと比例してる訳じゃないのか…」


「わしだって、最近は大分歩けるようになっただろが」

「え、いや、そういう意味じゃないんだけど…」

「わ、わかっておるが、ついな」


「あ!いえ!大丈夫だわ!気にしないで!このまま皆で歩いて行っていいわよ!」

「ん?どうして急に」

「≪潜闇≫」

「うおっ!」


メイリーはスキルを唱えると、

その足元にストンと落ちる様にして姿が消えた。


「………わしらの誰かの影に潜ったな…」

「めちゃくそ便利なスキルだなぁ……」

「じゃぁまぁ…、このまま歩きましょうか」


「ですね。……闇の中ってどうなってんだろ…」

「こっちの声とか聞こえてるんかの?」

「聞こえてなかったら、次いつ出て来るか解らないね……」

「そうですね……」


その後、メイリーに何度か呼びかけて見たが、反応は無かった。


「あ、そうだ、忘れてたんだけどさ」

「なんだ?」

「盗賊が、今は兵士来ないみたいな事言ってたんだよね。

流れでつい聞く前にやっちゃったんだけど…」


「結構暇がありそうにしてた印象がありましたが、ここ数日だけで何かあったんですかね?」

「…思ったより、事態はひっ迫しているのかもしれんな……」

「嫌だなぁ…アルカンダルとか、ディーファンみたいなのは結構心労が…」

「結局その2か所も、今回も、同じような奴らが人為的に起こしてる感じがするしのぅ」

「そうだねぇ……あいつらを殲滅するのが最優先な気がするな」

「ヴェントにも居るのなら、次はもっと情報を吐かせたいですね」

「ですねぇ…」


そのまま暫く歩いていると、村が見えて来た。

「む、あれが、エイチャス村か」

「ローゼッタさんが、獣人は行かない方が良いって言ってた所だね」

「わざわざ助言を貰ったくらいです。このまま通り過ぎましょう」


公道から右手側に村の入り口と、そこに立っている衛兵を見るでもなくそのまま歩いていたが、通り過ぎる前に、その衛兵はユリに向かって話しかけた。



「奴隷でも、これは付けて貰えないと村には入らせないぞ」


そう言いながら衛兵は足元にある箱から、首輪とそれに繋がっている縄を2つ見せて来て、ユリは思わず怒りをぶつけてしまう。


「お主!!自分が何を言っとるか解っとるのか!!」

「ん?あぁ、ちゃんと手枷もあるから心配するな」

「そんな事の心配をしてると、本気で思っとるのか!」

「…あぁ?何の話を?!」


「ゆ、ユリちゃん、いいよ。構わなくて」

「そうですよ……」

「そうだな、こんな村に用はない。じゃあの!」


「な、なんなんだ、一体…」



一行はエイチャス村を後にした。


「腹立つけど、俺達でどうこうできる問題じゃないからねぇ…」

「まぁ、解っとるが。何をどう考えたら、あんな風な思考に至れるのだっ……」

「私たちの代わりに怒ってくれて、ありがとうございます」


「そ、そんなつもりでは。ない…」

「サンロックで奴隷を無くしたところで、まだまだ駄目だなぁ…。

差別意識に染まってる奴が多い。人種がどうのって気にする思考がもう意味解んないよ。人なんて、それぞれなのに」

「そうですね……」


「人間でだって、良い奴もいれば悪い奴もいる、それは当人達が一番解んだろって、でもまぁ、解ってないんだろうね。馬鹿共がよ~。良い人が多いなんて話したばっかなのに」


「あんがとな……」

「ははっ、ユリちゃんにそう言われるのは、変かも」

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