79.闘技大会
闘技大会当日。テフラは1人闘技場へとやってきていた。
「おんし、やっぱ出るんじゃな!」
いつかのセクハラ爺が声をかけて来るが、顔やらが結構腫れていて、
テフラは、あの時のユリさんの魔法、大分効いてたんだなぁとか思った。
「事情があって、優勝賞品が欲しいので」
「そうか、他の娘は出んのか?」
「事情がありますので…。あなたは出るんですか?」
「そのつもりだったんじゃが、この有様じゃからのう。見させてもらう」
「そうですか」
テフラは大して興味なさげに、選手が待機する大部屋へと移動し、
壁にもたれてその時を待っている。
闘技大会は、トーナメント形式らしい。
「君が例のワーウルフか」
甲冑で身を包んだ剣士の女が声をかけて来た。
「……何の話をしているんですか」
「あぁ、いやすまない。ユァンさんを知らないかい?なんと言うか、その、不道徳な爺さんなんだが」
「………心当たりはありますが」
「あの人が、かなり見どころがありそうな人がいると言っていてね。興味があるんだ」
「…そうですか」
「いや、邪魔して済まないね。大会で当たったらよろしく頼む」
「……はい」
そして本戦が始まり、
テフラは対戦相手を次々と、投げ飛ばしたり突き出したり、
リングアウトにさせて簡単に勝ち上がって行き、
気づけば準決勝となり、先程の女剣士と対峙する
「やぁ、やっぱり君と当たる事になったね」
「なんですか…?ずっと馴れ馴れしいですが」
「そうだね。まずは戦おう」
そして2人が構えると、試合開始のゴングが鳴る。
剣士は即座に間合いを詰めて斬りかかるが、
テフラは気力を纏った左腕でそれを受け流すと、そのまま相手の腹部を蹴り上げた。
大きく上空へ飛ばされた剣士の落下を目掛けて、テフラが爪を構える。
「≪来晄≫!!!」
上空から光の斬撃を飛ばされ、テフラは思わず横へと回避すると、
剣士は着地して更に距離を取った。
「ふぅ、これは…思ったより…」
テフラは剣士に向かって駆け出し、そのまま右手の爪で攻撃を仕掛ける。
「≪覇衝≫!」
剣を地に突き立てると、剣士の周囲に衝撃波が奔り、テフラは大きく後退した。
「チッ……≪空刹≫………」
お互いが睨み合う状態の中、
テフラは数呼吸の間を置いた後、一気に剣士の上空へ移動した。
「!!!」
「≪尖裂爪≫!!」
気力の爪は、空中から地面ごと切り裂く様に剣士を斬り上げた。
またもや剣士が宙を舞う、この軌道で飛べば、間違いなくリングアウトだ。
「≪一閃≫!」
剣士がスキルを使用すると、空中だと言うのに、
一気にテフラを目掛けて加速し突っ込んで行く。
その剣の斬撃を気力を纏った両腕でガードし、2人はもつれる様に地を滑走する。
このままではテフラが先に場外に出る。
「≪廻穿脚≫!!」
テフラは地面を蹴る反動により剣士を突き飛ばし、場外ギリギリで耐えると、
またお互いの距離が開いた。
「…ふぅ。やはりこのルールだと、リングアウト狙いの動きになるね、お互い。
そして期待以上だ。でも悪いけど、勝たせてもらうよ。≪アタッチ:聖装≫」
「!!!」
剣士がスキルを発動した瞬間、
テフラは気力と魔力が入り混じったような、異質な波動を感じる。
そしてそれは、メイリーのスキルに感じた時の物と近い。
「≪クレセント:来晄≫!!」
先程見たような光の斬撃だが、その大きさと質量が全く違う。
テフラが上空に飛んで躱すと、背後の観客席にあたる壁に触れる直前に斬撃は消えた。
「飛んだね!≪クレセント:来晄≫!!」
「≪瞬爪≫」
瞬爪の、そのほとんど不意打ちのような特性によって、
一瞬のうちに剣の間合いの内側、密着状態にまで間合いを詰めると、
そのまま剣士を場外へと突き出す事が出来た。
「!!!な……、そんな加速が出来るのに、ギリギリまで使わないなんて、中々人が悪いな…」
「まだ準決勝です、奥の手は出したくなかったのですが…。あなたはかなり強いですね」
「……はははっ、負かした相手にそれを言うかね!」
「し、勝者!テフラ~~~!!」
「「「ワアアアアアァァァァァ!!!!」」」
歓声が上がる中。観戦していたユァンが目をパチクリとさせている。
「おいおい、ロゼが負かされたじゃと?実戦ではないとは言え…これは…」
結局、決勝の相手は難なく倒すことが出来、
盛大な歓声の元、テフラに優勝賞品が授与された。
「ふぅ……」
(闘技場の感じが、どうにもアルカンダルを思い出して嫌だったけど、
とりあえず目的は達成できた…。2人とも喜んでくれるかな)
スキルブックを抱え、宿へ帰ろうとすると、
ユァンと剣士が2人そろって声をかけて来る。
「君。ちょっと話があるんだけど、いいかな」
「あのチビっちゃいのはどうしたんじゃ?」
「……何…。文句でもあるの…」
テフラは当然、2人を警戒してスキルブックを守るように抱く。
「すまないな。私はローゼッタ。シーグランの聖騎士だ。ちょっと話をしたくてね」
「ワーウルフってのは皆そんなに強いんか?」
「ユァンさん、ちょっと黙っててください」
「…………」
「そんなに警戒しないでくれ、賞品は君の物だ。
もっとも、元々は私が勝って国に返却する予定だったんだが」
「?……何のために」
「出場者を増やすためにね。そしてその目的は、スカウトだ」
「スカウト……」
「私の部隊に戦力が欲しいのさ。そのため募集を国内だけに絞ってでも、
数年ぶりに開催させてもらったのさ。知人に頼み込んでね。
それで、どうだろう。相応の報酬は約束するが」
「私が、パーティーを組んでいると知ってて言ってるんですか?」
「勿論。当然、君の仲間も誘わせて貰うよ」
「…………。明日、南の宿に来てください」
「解った。何と言う名の宿かな?」
「……お、覚えてない、です」
結局、宿の近くまで同行を許したのだった。




