8.遭遇
とりあえずの目的地は、ジャンプした時に正面に見えたあの大樹に決めた。
所謂、有名スポットになっていそうな、
人が居るかもしれないと感じたのがアレくらいだったからだ。
一応、最初のジャンプ時に見られなかった後方は、やけに刺々しい岩山が見えただけだった。
何度かジャンプしながら方向を調整しつつ歩いているが、特に景色は変わらない。
異世界だとは思う、でも植物には全然詳しくないし、
元の世界との違いは解らない。
良い加減この景色も見飽きて来た。
ちなみに、基本的には歩いている。
軽く走るくらいなら良いのだが、どうにも気がつけば速度が出すぎてしまって、
結果として木とかにぶつかり、自分の形に凹ませた彫刻を掘り、上から沢山の虫が落下してきた。
ついでにその時の衝突音に釣られたモンスターが集まってきて、かなりめんどくさかった。
(しかし最近なんかモンスターが減ったな……。
最初の頃はアホみたいに次々襲い掛かってきてたのに、
流石にモンスター達も学んだんだろうか…。
また木にぶつかった時みたいな音でも出してみたらどうなるかな)
そんな事を考えながら暫く歩いていると、ふと、森の一部に違和感を覚える。
(特に気にしてなかったけど、今まで見てたのとこの辺じゃ樹木の種類でも違うのかな?)
そう考え振り返ったりしてみるが、特に違いはない。
気のせいか。とまた歩き出し、数分経ったその時、
明らかに、何か、
水の膜でも通過するような感覚。
直後、景色は変わった。いや正確には、増えた。
一部の樹木は大きく膨れていて、穴が開いている。丁度窓のように。
そして樹木同士を繋ぐ、縄で出来た橋。
いくつかの橋には獣の肉や毛皮と思しきものや、
葉を編んだような物が吊るされているし、
何より膨れている樹木は家にしか見えない、玄関扉らしき近くにある物は、
どう見ても弓だ。
「ッ!!!!!!!!」
声にならない声を上げてしまう。
突如目の前に現れた明らかな人工物、そしておそらく家。
(居る!人が!付近に!!)
思わず草葉の陰に身を隠してしまった。
カース・ウルテマ一式装備は地肌が1ミリも露出していないため、
こういう時くらいは、ある程度は虫が居ても我慢できる。
一旦心を落ち着けよう。
(いや、耳と尻尾は出てるな…。いや、気にするな俺…)
こんな感じの景色、何かで見た事がある。
エルフとか、獣人とか、そういうのが住んでそうな景色だ。
転生初日は、こんな事が自分の身に起こるくらいだから、
この世界の人に会っても、言葉の壁くらいなんとかなるように出来ているんじゃないか、
なんて思っていた。でもここ数日で、
なんかそう都合よく行かないんじゃないか、という気がしてきている。
(しかも日本人云々どころか、エルフや獣人?ますます怪しい、
いや、絶対言葉通じない。そんな人と会って何か出来るか?
そもそも。そもそもだ。俺はコミュニケーション能力が低い!)
気配を殺すように深呼吸しつつ、思考を巡らせる。
最もこういった場合、どれだけ考えようと正解などないのだが。
まずは状況整理か…。
15分程度考えた後、結論を出す。
(………保留だ)
まず、ここはいわゆる隠れ里という奴だろう。
広大な森の一部に里を作り、魔法で結界を貼って見えなくしているんだ。
なんとなく違和感を覚えることが出来たのは、おそらく結界魔法のレベルが低いためだ。
隠匿系スキルは基本的に、上位になるほど完全不可視に近づくはず、
アドルミアの経験なので、この世界でどうかは知らないけど…。
まぁ、一旦そういう事にしておく
そして今はこのまま身をひそめながら、まずは状況を伺う。
本当に人が居るのかどうか、いるのならば、どこかで会話もしているはずだし、
隠れたまま≪アプライ:鑑定≫で探る事も出来る。
(いや、実際さ、人はいるんだろうけど、変な奴らかもしれないじゃん?
だからこれは妥当な判断、逃げてる訳じゃないぞ…)
と誰に言うでもなく、なんとなく自分に言い訳をしてしまう。
草葉や木の陰を度々移動しながら様子を伺うこと約1時間。
全然人影が見えずに、流石に不審に思っていたところ、
遠くから妙な音が聞こえ心臓が跳ねた。
バゴォォォォォッン・・・…
大木でも殴り倒したような音。
この里の、もっと奥の方からだ、見に行ってみようか…。
でもこの先はもう、周囲を完全に家のような樹々に囲まれる形になり、
地面もある程度整地されている。
【隠れたまま様子伺い作戦】は出来そうにない。
(いや!もう行こう!堂々と。なにか非常事態が起きたのだとしたら、
コソコソしてると変に疑われかねないし)
バッ!と効果音が出ているような勢いで草葉の陰から飛び出し、歩き出した。
(ううむ。緊張する。でもこれ急いだ方がいいのかな?
いやでも、走ってる人ってなんか怪しく見られるかも、どうだろ。
ま、まぁいいか。このペースで、あっちの方からだったはず)
数分歩いていると、少し景色が変わる。
(なんか樹の家が立派になってきた気がするな、この村の中心部に向かってるんだろうか)
と、上の方に視界を移していた時…。
「おい!なんだァ!てめぇ!」
「!!!!!!」
(心臓が飛び出すかと思った、な、何?)
「そこの、黒いやつ!止まれ!!」
声のした方向を見ると、道の10数メートル程先に男が二人立っていた。
(ひ、人だ!!!めっちゃ人間だ!!!
てか今、日本語しゃべってた?!止まれって言った?!)
「止まったな、言葉解ってるのか?おい、ツラ見せろ」
「え、は、はい。」
言いながらローブのフード部分を下ろし、頭装備を外す。
「!!おい!なんだ、今の!被ってたマスクはどこやった!」
「えっ………っと…………」
返答に困っていると、もう一人から声が飛んでくる。
「獣人のガキだな。メスか?見た事ねぇ種族だ。どっから来た」
「え、っと、あっちの方です」
言いながら来た道の方向を指で示した。
「はぁ?そういう意味じゃねぇ……。チッ。おい、どうする」
すると男二人は、こちらから目を離さないままでコソコソ話を始めた。
「あの種族、解るか?」
「いや、耳や尻尾を見る限り獣人だとは思うが、顔が人間。見た事ねぇ」
「連れてくか?何にせよレアもんだろ?」
「なんか裏の繋がりとかあったらどうすんだ?」
「もうちょっと情報聞くか…」
「うむ……いや、そうこうしてるうちに逃げられたら面倒か。
拠点にする前から位置情報が漏れたとあっちゃ、ボスに申し訳が立たねぇ」
「それもそうだな」
(何話してるんだろ…、いやしかし、ついに第一村人発見ってやつだ。
何か言葉も通じるし、意外とやっていけるかも。
でもなんかこの人ら態度悪いんだよな……。
いや、カース・ウルテマ装備の見た目で警戒させたのかも?
知らん種族とか言ってたし、こっちも色々現地の人に聞きたい事あるし、
そう考えたらいきなり攻撃されなくて良かったかも。
まずは警戒をといて貰うようにしたいなぁ……、まぁガキじゃねぇけど)
「じゃ、ここは任せるぞ」
「おう」
「そこの!ちょっとこっち来てくれ、話をしよう」
言いながら一人が歩き出した。付いて来いって事だろう。
(大丈夫だろうか、ちょっと怖いかも…アプライ使いたいけど、見られたら余計警戒されちゃうよなぁ)
「…来ないのか?」
(こいつはちょっと物腰柔らかいか?もう一人はずっと睨んでて特に嫌な感じだ)
「あっ…行きます」