78.再会
翌朝、最初に目を覚ましたユリの朝支度の音を聞き、
ママルとテフラも目を覚ました。
「お主ら、昨晩は大分きてたな」
「あ~……、でもまぁ、ちゃんと記憶あるし、大丈夫」
「そ~ですね……」
「わしは正直、動けない相手を攻撃してる時、ジィヘンで石を投げてた民の姿を思い出して、ちょっと嫌だったで」
「……まぁ……、でもあのくらいは…必要でしょ……」
「そ~ですね……」
「………お主ら…。さっさとベッドから起きんか……」
「うぅ~ん」
ママルがもぞもぞと起き上がろうとした時、何か違和感を覚えた。
(なんか…臭うな…)
ガバッと掛布団をめくり上半身を起こすと、
同じベッドの中に、メイリーの姿があった。
「はぁ?!!!!」
「なんだ、デカい声だして……なんだ!!!」
「ど~したんですか…」
メイリーの姿は、酷くやつれていて、
餓死でもしたんじゃないかと疑うほどだ。
「ちょちょっ、ど!どうしよう!」
「ま、待て、とりあえず息があるか確認せねば!」
「どうしてこんな所に…」
――
「とりあえず息はあるようだが…、どうする?」
「………一応、1回見てみようかな…≪アプライ:鑑定≫」
●モンスター:人間:スイーパー:メイリー Lv90 スキル:検眼 魔覚 潜闇 除連殺 糸蜘血 その他不明
その他詳細不明
モンスター化している
「どうですか?」
「モンスターのままだね…」
「まぁ、そうか…生かすかころ…と言うか放っておくか、決めるべきだな……」
「……………ちょっと、閃いた。いや、このタイミングは出来すぎてて怖いけど」
「どう言う事だ?」
「…スキルブック。それをメイリーさんに読ませる」
「……………なるほど…。お主は、今メイリーのカルマ値は大きく下がっていると、そう思っているのだな」
「そう…。ここでスキル獲得という肉体変化を起こせば、モンスター化を解除できるかもしれない」
「なるほど…でもそのスキルの内容次第によっては、ちょっと考えたいですけどね……」
「それはそうだな。それに、そもそも適正外の物であれば、獲得は難しそうだしのう。だがまぁ、モンスター化の仕組みについて、わしらの推察が合っていたかの確認にもなるか」
「じゃあ…≪レジデントマジックⅥ:魔法常駐化最大延長≫≪アンデス:不死≫」
ママルは魔法を唱えた後に、メイリーの口にポーションをゆっくりと含ませた。
「延命措置か。その間にまず医者でも探して来るか」
「いえ、その前に服を脱がしましょう」
メイリーの衣服は、様々な老廃物によって汚れてガビガビになっていた。
それらを脱がせると、その体をユリとテフラが綺麗な水と布で拭き始める。
「1人でこっちの方に来てたのかなぁ」
「確か、潜闇とかいうスキルで、闇に沈んで行ったのが最後だったかの」
「だね…」
「ともすると、もしやずっとわしらの影にでも潜んでいたのか?」
「……なるほどね。沈み続けることも出来たのかもって事か…」
「闇の中と言うのがどういう状態かは解らんが、飲まず食わずでいたかのような症状だな」
「それで、いよいよ死ぬ間際になって、スキルが解除された。という感じですかね?」
「かもな。あれから一月近く経っておる、もしそこからなら、普通ならとっくに死んでおるのではないか?」
「…………そうだね…」
「お主も、神妙になってないで手伝わんかい」
「いや、その、服洗ってくるわ」
ママルは1人、風呂場でメイリーの服を洗濯していたが、
途中で新しい物を買った方が早いと気づいた。
――
「では、私は闘技場に行って来ます。何にせよ優勝賞品が必要そうですから」
「いや、俺が行った方が」
「お主、アンデスの効果は、最大延長してどのくらいだ?」
「……30分持たないくらいだと思う…」
「それに、闘技場が裏闘技場と似たような作りだとしたら、
リングアウト判定がある可能性があります。
裏でも殺し合いじゃない試合がある時は、そんな感じだったので…。
ママルさんそう言うの苦手ですよね?」
「あ、あぁ…確かに…そうですね……」
「とか言って、もし私が負けても怒らないでくださいね…」
「ははっ、その時はその時。優勝者と話でもしてみましょう」
「ではわしは医者を探して来る。あと服もな」
「とりあえずここの店主に聞いてみて。あとこれ、もう1人分の追加の宿代」
「ふむ、しっかりしとるの」
ユリとテフラは、それぞれの目的のために部屋を後にした。
(1人になってしまった…。久しぶりだな。いや、メイリーさんはいるけど)
「すぅ~…………。すぅ~…………」
メイリーの浅い寝息だけが室内に響く。
(本当にずっと付いて来てたのか?だとしたら、なんでだろう。
………友達になれて嬉しい、そんな事を、言ってた気がする…。
本心だったのか……。両親と友達も殺したって言ってた。
心の拠り所………正直。少し解ってしまう。
俺だって、ユリちゃんやテフラさん達に出会ったから、今が楽しいんだ。
居なかったら、とっくに神様のお願いだろうと、投げだしてた気がする。
俺は………。贔屓してるんだろうな………………)
――
「極度の栄養失調と脱水症状が見られますね」
「ど、どうすればよいのだ?!」
「この魔法薬である程度は…ただ、ちょっと高いですよ?
それに、不衛生な所に居たのでしょう。皮膚にも少し炎症が……」
医者からいくつか錠剤のような魔法薬を買い取り、
ユリと2人でメイリーを眺めていると、テフラが戻って来た。
「大会は明後日だそうです。とりあえずエントリーを済ませて来ました」
「ありがとうございます」
「やっぱりリングアウトのルールがありました。頑張りますね」
「お願いします」
ユリはテフラが持ってきた闘技大会の資料を読みながら声をかける。
「武器が使えるのだな…」
「えっ、危なくない?」
「一応、急所狙いとか、明らかな殺しの技とかは禁止ではありましたね」
「まぁ、少なくとも賞品欲しさで来る奴は、注意を払うとは思うがの…」
「心配だなぁ」
「大丈夫ですよ。メイリーさん、さっきよりも結構表情が和らいでますね」
「薬が効いておるのだな」
「やぶ医者じゃなくて良かったぁ」
「……テフラの魔法薬耐性は、こういった薬も無効化するのかの……」
「多分、しちゃうと思いますよ」
「そっか!…大きな怪我とかしそうだったら、すぐ辞退して下さいよ?」
「ふふっ。そうですね。ありがとうございます」
そんな話をしていると、メイリーの寝言が聞こえて来た。
「ぅ…ぅぅ…………ママル…ちゃん………」
「!!」
「お主、モテモテだのう」
「いや、まぁ、そっかぁ。そんなに何か特別な事をしたわけじゃないんだけど…」
「ほんの少しの思い出でも縋ってしまうくらい、追い詰められていたんでしょう」
「そう言うものか」
「私も、お2人に付いて行きたいと思った動機は、似たような物でしたから」
「そ、そうか…」
「なんとか、助かって欲しいなぁ」
「……頑張りますね」
「あ、いや、すみません、プレッシャーをかけるつもりじゃ」
「ふふっ。解ってますよ」




