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76.ジィヘン村

「3人部屋を1つ」

「……獣人か…」

「え」

「部屋を獣臭くされちゃ叶わん。他あたれ」

「……他の宿屋はどこですか?」

「出て右手の方、村の端っこだ」

店主は、しっしっと手を掃うように追い出すジェスチャーをしていた。


店を出る際アプライで覗くも、特にモンスターと言うわけでもない様だ。


「腹立つなぁ…」

「腹立つのう」

「これまでの村の方が、むしろ寛容だったんだと思いますよ」

「そんなもんかなぁ」


「次の宿屋は、わしが行くで」

「いや、いいよ、後から何か言われる方が嫌だし」

「そうか…」

「であれば、むしろ私が行きますよ」

「いーからいーから」


2件目の宿屋に着くと、カウンター奥に初老の男が座り本を読みふけっていたので、早速ママルが声をかける。

「すみません、3人部屋を1つ」

「…………」

「ねぇ」

「あんたら、どっから来た?」

「サンロックの方ですけど」

「そうか、まぁ良い」


男はそう言って部屋の鍵を渡してきたので、料金を支払った。

一行は2階の部屋に入り荷物を降ろすと、ママルが口を開く。


「なんか、変じゃない?」

「そうですね」

「あの口ぶり、つまり、サンロックの方じゃなかったら、良くない、という事かの」


「あ~、グラスエスと戦争してるとしたら、ああいう感じになるか」

「でも戦時中にしては、平和じゃないですか?」

「確かに…」

「地理的に遠い場所とは言え、か。ううむ、やはり情報を集めるべきかの」


「じゃあ、あのおっさんに聞いてくるわ」

「お、おう。お主、やるようになったな」

「なったってか、なんだろ、この村嫌いだからかも」


好かれたいと思わない相手には、適当に当たる事が出来るし、

嫌な感じになっても、この村を出たらもう会う事もないから。



「あのー、すみません」

「…………」

「今この国って、戦争してるんですか?」

「……そうだ。そんな事も知らんのか」

「何も知らないので。これから王都の方に行っても大丈夫ですかね?」

「………知らん」


「ここって、そんな隔絶されてるんですか?規模は結構大きいと思いますけど」

「………チッ……ヴェントがどうにかなったなんて話は聞かねぇ、そんだけだ」

「ヴェント?」

「王都だ!!おい、お前、本当に何も知らねぇんだな」

「だからそう言ってるじゃないですか」


「はぁ~~……。しょうがねぇ、良く聞け小娘」

(小娘!!!)


「グラスエスは、昔はエルフの国だった。それを我が国シーグランが、一方的に奪った」

「ふむふむ」

「奪ったと言うのは、支配下に置いたと言う意味だな。

だから未だにグラスエスという国が存在しているわけだが」

「なるほど…?」


「グラスエスの東は、未開の地、暗黒森があるだろ」

(そうなんだ)


「その暗黒森に、ダークエルフがいたんだとよ、

それでもエルフとダークエルフは仲が良くなかったと聞いていた。

にも拘わらず、グラスエスが人間に支配されてるのが気に食わなかったのか、

グラスエスに攻め入った。」

「えぇっ…と」

「つまり、戦争はうちとダークエルフでの、グラスエスの取り合いだ。

ここジィヘンの村辺りには、戦火は届いてない」

「あ~、なるほど~」

「だがな、だからこそ、特に最近は人間以外を敵視する声が大きい」

「あ~、そういう事かぁ。グラスエスって土地にそんなに価値があるんですか?」

「知らねぇよ。小娘、何をしにヴェントに行くつもりか知らんが、今はやめておけ」


(なんだ。このおっさん結構いい人じゃん)

「ありがとうございます」

ママルは頭を下げた。


「やめろ。無知なガキが不幸に巻き込まれたとなりゃ、飯がまずくなるってだけだ」

「いえ、それでも助かりました」

「チッ。もう部屋で大人しくしとけ」



――



「って事だったんだけど、もしかして聞いてた?」

「あぁ。割と話せば解る奴だったようで、良かったわい」

「ユリさん、ダークエルフの話は聞いた事あります?」

「いや、ないな…」

「私もないんですよね。まぁ、知ってどうにかなる事でもなさそうですが」


「とりあえず、今日はここで飯食って寝たら、明日早くに発とっか」

「だな」

「そうですね」



その夜、食事も済ませて、早いけどぼちぼち寝ようかと言う頃に、

外から声が聞こえて来た。



「この者は!盗みを働いた上に、暴力まで働いた!被害にあった村民も多いだろう!この悪魔憑きに対し!今から処刑を行う!!」


窓を開け、声の聞こえた広場の方の様子を伺うと、

1人の男が地に突き刺さっている木材に縄で縛りつけられていた。

(処刑…こんな夜にやるのか…)


ママルは興味本位で、男と周囲の人間達にアプライをかける。

縛られている男はモンスターで、それを囲っている人達はモンスターではない。

それならば、まぁ仕方ないかと静観し続ける。


処刑人と思しき男が、縛られている男に火を付けようとした。だが。

「俺にやらせろ!俺の店がやられたんだ!!」

「うちの子が殴られたんだ!!俺にやらせろ!!」

「俺の彼女が犯されたと言っているんだ!!」

そんな声が次々と投げつけられる。


気が付けば、縛られている男に向かって石が投げ込まれていた。


「悪意の伝播、かぁ…」

ママルはそうつぶやき、神様の話を思い出していると、

投げられた石が男の顔面に当たり、投げた女が笑い声を上げた。


『だって、私はね。殺してる時、嬉しいんだもの…』

そんなメイリーの言葉が、脳裏に蘇る。


「くっそ………」

「お主よ、あまり見ない方がよい」

「……ただ殺すんじゃなくて、甚振るような真似、俺もやった事があるんだ………」

「………私もありますよ」


「……………わしだけ、この手を汚さぬまま、こんな所まで来てしまって、すまないな…」

「やめてよ…。良いじゃん、その方が」

「そうですよ、やらなくて済むなら、その方が良いです」


「………ママルには、人を殺す覚悟をしろだのなんだの言っておいて…」

「いーってばっ!……ホントに、気にしないで」

「窓を閉めましょう」



3人は暗い雰囲気のまま、浅い眠りについた。

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