73.手紙
1日かけて、移住する準備や、別れる前の思い出を作り、
そして翌朝。クラレンドとテフラが戦った広場へと全員でやってくると、
クラレンドは竜魔笛を吹き鳴らした。
程なく、ヴリトラが姿を見せる。
『おうおう、ぞろぞろと』
一部の子供ははしゃぎ、一部はちょっと怯えた様子だ。
「うわー!すげーー!でっけーー!!」
「食べない?大丈夫?」
「お主がヴリトラか。皆の事、よろしく頼むで」
『人間、お前にわざわざ言われるまでもない。それに俺は運ぶだけだからな』
「絶対に、安全に飛ぶのだぞ」
『うるせぇな…』
「ヴリトラよ、感謝する」
『クラレンド…。まさかお前を背に乗せて飛ぶなんて事になるとはな……』
「後でお前が好きな食事でも用意しよう。何が良い?」
『いらねぇよ…。礼ならママルからポーションを先払いで貰ってるからな』
「そうか…」
『……今度、暇だったらよ、また戦おうぜ。どうやら俺は大分鈍ってるみたいだからな』
「…ああ!」
子供達に皆が手を貸しながら、ヴリトラの背に乗って行く、
最後はクラレンドとシャスティを含め、7人全員の腰とヴリトラを縄で巻き繋いだ。先頭がクラレンドで、最後尾にシャスティという形だ。
『鞍なんかねぇからな、気をつけろ』
「うわー、カッチカチ!かっけー!」
『…鱗の棘にも気をつけろよ。それに、指とか挟むなよ、危ねぇからな』
(ヴリトラさんめちゃ優しいじゃん、すっかり牙が抜けたって感じか?
とか言ったら怒られそうだから黙っとこ)
「それじゃあ、クラレンドさん。よろしくお願いします」
「あぁ、ありがとうママル。またいつかな」
「はいっ」
「ママルさん、本当にありがとうね。あなたに助けて貰った事は、絶対忘れないわ」
「シャスティさん、良いんですよ別に。村の皆と仲良くしてあげてください」
「うん。楽しみだわ。ユリさんとテフラさんも、またね」
「村の者達を、よろしく頼むで」
「勿論だ」
テフラが珍しく大声を上げる。
「ベル!それにメイン!フォル!リティ!レート!皆、いつか絶対、また会いに行くから!」
「うん!絶対だよ!待ってるからね!!」
「テフラおねーちゃーん!ママルちゃんとユリちゃんも、またね~~!」
「泣くなよレート~~」「だってえ~」
『じゃあ、行くぞ』
ヴリトラは、ゆっくりと高度を上げ、そのまま空を駆けて行った。
「ふぅ。行っちゃったなぁ」
「……………………」
「テフラよ。大丈夫か?」
「あ、はいっ、少し、しんみりしちゃいました………。その、コヤコの形見、
ベルに結局渡せなくって…。死んだことも、言えてなくって…」
「ベル達も察してはいるだろうから、聞けなかったのだろ。聡い子だ」
「あの子達が、…もう少し大人になった頃に伝えれば良いと思いますよ」
「だな。また必ず会うと、約束したのだしな」
「……はい…。はいっ!そうですね!」
「次に酒場とか見つけたらさ、たらふく飲みましょう」
「ふふふっ…。良いですね!それ」
「まぁ、その時ばかりは止めんでな」
3人は山を降り、来た道を帰った。
次はシーグラン国方面だ。
――――――
「父さん!!!ドラゴンが!!!」
村を少し外れた所へ狩りに出ていたハンが、大慌てで父親のソウに告げた。
ドラゴンは更に少しだけ向こうの、多少開けた地に着地すると、程なくまた飛び立っていく。
「よ、良かった、見つかってはいないか…」
「以前、空を飛んでる姿を見た事はあるが、この辺りに降りることがあるとなると危険かもな」
「戻ったら村長に伝えましょう」
そうこう話していると、1人の男が声をかけて来た。
「君達は、シイズ村の者か?」
「今度は?!竜人か??!」
(は、初めて見た!!)
[ルゥさんへ。
今俺達は、シーグランとの国境付近の、アルダイト山脈に居ます。
あれからユリちゃんとは大分仲良くなったし、
もう1人、ワーウルフのテフラさんって人と仲良くなって、3人で旅をしてます。
ルゥさんが言ってた通り、嫌な事も色々あるけど、
それでも楽しいって思える日の方が多いのは、皆のお陰です。
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クラレンドさんも、子供達も皆良い人達なので
仲良くしてあげてください。
シャスティさんなんか年も近いと思います。
それでは、お体に気をつけて。
ってか、どうか元気でいてね。ママル]
「ふふふっ、元気でやってるんだ。良かった…」
ルゥはその手紙をそっと抱きしめた。
「ママルちゃんからの手紙!?あたしも見たい!」
「後でねっ、リンにはこっち、ユリちゃんからだよっ」
「師匠~!!!」
そう叫ぶリンの元に、獣人の子供達が駆け寄って行った。
読んで頂きありがとうございます。
これにて6章と、サンロック国での話は終わりですが、
このタイトル自体はまだ続きます。
ここまで毎日更新出来ていましたが、現在、続きを執筆中のため、
以降は不定期更新となります。すみません。
しばらくは、最低でも週一くらいで出します。
ブクマ等してお待ちいただけると、非常にありがたいです。




