72.やりたい事
その日は、ママルが全員分の食事を出し、
ちょっとした宴を開いた。
「食事まで…、ママル、俺はお前に何を返せばいい?」
「そんな事…、あ、いや、後でちょっと話します」
「なんでも遠慮なく言ってくれ」
シャスティとテフラは、ママルが出した料理を温めている。
「あなた、あの子たちのお姉さんなの?」
「いえ、直接血は繋がってないんですが、昔、同じ村で暮らしていたので…」
「……なるほどねぇ、あなたも大変だったのね」
「…そう、ですね。あなたに言われると、そうだと答えていいか複雑ですが」
「私は、そりゃ戦争は怖かったけど、あとは石になってただけだもの」
「ふふ、だけって事もないでしょう」
「あはは、まぁね」
ワーキャットの男の子フォルが、ママルに抱き着く様に掴まってくる。
「どーーんっ!」
「おわっ!」
「なぁ!なんでママルは人間みたいな顔してるんだ?」
「えぇっと…」
他の子達もちょっかいをかけ始めた。
「なんでそんなに尻尾が大きいの?」
「私達より小さいのに年上って本当?」
「石の草出してくれよ!!」
程なく食事が並べられ、食べ始め、
ある程度落ち着いて来たタイミングで、ママルが今後についての話を切り出した。
「クラレンドさんと、シャスティさんは、どうしたいですか?」
「…そうだな…」
「私は、もう安心して暮らせる以上の事は、今は望まないかなぁ…」
「俺は……無論、この子達への情もある。だから、このままここで暮らすのも悪くない」
「私、クラさんと離れたくない!」
レートがそう言うと、他の子達もそれに続いた。
「俺も!」「私も!!」「俺だってそうだ!」
そんな光景を見ながら、ママルが考えていたことを話す。
「なるほど。じゃあ1つ提案があるんですけど、皆でシイズ村に移住するってのはどうですか?」
イーツ村も近いし候補に考えたが、やはり人間社会に獣人の子を住まわせるのは不安が残る。
「なっ!いや、まぁ、確かに…なるほどのう…」
「シイズ村とは?」
「俺とユリちゃんの故郷の、エルフの村なんですけど、ここよりは色々便利かと」
「あなたたちの故郷がエルフの村なの?ふふ、なんか面白いわね」
「そんなワケなので、種族とかそんな気にしない人達だと思いますし、結界があって安全ですから」
「まぁ、それでも一度盗賊達に侵入されたのだがな。
だからこそ、クラレンドが住んでくれると、より安心できる。という訳か」
「そゆこと!」
「今はエルフだけだし、人によってはもしかしたら多少の抵抗感はあるやもしれんが…、それでも、用心棒が居る安心感の方が勝ると言うものか」
「ちゃんと誠意は伝わる人達だし、皆なら大丈夫でしょ」
「そうだな」
「ふむ…、であれば、俺は全力でその村ごと守らせてもらう」
「…だが、子供達を連れてあの森を歩くのは危険ではないか?」
「そこもぬかりなし。一回だけ、ヴリトラさんが運んでくれるって」
最初は、俺を馬替わりにするつもりか!ってめちゃ怒ってたけど、
子供達の事情を話したら、一度だけなら良いと了承してくれた。
「ふぅむ。やるのう。ママル」
「ふふん!」
「わしの真似をするでない」
「ヴリトラが…………そうか………そういえば戦闘後、何か話していたな…」
「そういう事であれば、私は賛成かなぁ。山小屋暮らしよりは、
この子達も良い暮らしが出来るでしょうし。勿論私達もね」
「じゃあ、決まりかな」
「結界があるが、お主が案内するのか?」
「ヴリトラさん、看破系のスキルあるって言ってて、
なんなら村があるのは知ってるみたいだったからね。
ユリちゃん、村長宛てにでも手紙の用意しておいてくれない?」
「そういう事か。解ったが。お主もルゥ宛てにでも書いてやれ」
「ま、まぁ、そうね。そのつもり」
「わ、私は…」
「……実はテフラさんの話が一番聞きたかったんです」
「えっ……と」
「テフラよ。ママルはこう言っておるのだ。
子供達の安全は確保したよ~!だから、まだ一緒におってくれよ~と」
「ちょっ!…ま、まぁでも。そうだよ。間違ってない」
「くっ…素直に言いよる。まぁ当然、わしもそう思っとる」
「……………」
「だがな、わしもママルも、皆も、どうしたいかを言っただけだ。
だからテフラも、望みを聞かせてくれるかのぅ」
コヤコの妹のベルが、テフラを見つめている。
「テフラお姉ちゃん…」
「ベル…」
「ちゃんと言わなきゃダメだよ?」
「…………ベル達は、…どうして欲、…いや、ごめん」
「テフラお姉ちゃんと一緒にいたい…」
すると、他の子達も先程と同じように俺も私もと続くが、
ベルにはまだ続く言葉があるようだ。
「だけどね、それでお姉ちゃんが、何か我慢しなきゃいけないのは、ヤだな」
「……そう、立派になったんだね」
(村を焼かれた恐怖は、もしかしたら私以上かもしれないのに。
ベルは、他の子達も、今は皆こんなに元気に暮らしている……。
…………だったら…)
「私は。まだ……、この旅を続けて行きたいです」
「うおおおお!!」
ユリがテフラに突進するかの如く抱き着き、
ママルは安堵のため息を漏らした。
「はぁ~…。良かった…」
「ふふふ、お2人共、大袈裟ですよ」
「そんな事ないですよ!」「そんな事ないわい!」
2人の声がハモった。
「ママル。何から何まで、本当に。ありがとう。
この恩は返しきれるとは思えないが…、子供達やシャスティ、
そしてシイズ村の人達も、この命に代えても守らせてもらう…」
クラレンドが、再びママルに感謝の言葉を言う。
(そんなに言ってくれなくても良いのに)
そろそろ居た堪れなくなってきたママルは、クラレンドを指さして言った。
「大袈裟ってのは、こういう人の事を言います」
「お、俺か!どこが大袈裟なんだ!!」
「あはははっ、兄さんが揶揄われてるなんて、あははははっ」
「茶化すんじゃないっ…」
「はは、頼りにさせてもらいますね」
「あぁ!任された」




