71.着地点
一応、石化を解いた時に何かあってはいけないので、
ユリと2人で山中を歩き、動植物で実験をすることになった。
「待っててくれても良かったのに」
「……なぁ、お主よ」
「ん?」
「テフラは。その…、ここに残ったりするのだろうか」
「………俺もそれちょっと思ったよ。まぁ、直接聞いてみるしかないよね…」
「まぁ、そうだな…」
「一応考えてる事はあるから、テフラさんいる時に一緒に話すよ」
「…うむ」
草に石化と解除を繰り返したり、
ちぎってみたり、石化状態を砕いてみたりしてみる。
「ちゃんと石の時は中まで石だし、解除後は普通に葉っぱのままっぽいな」
「そういえば、お主に一つ、謝らんといかん事があったのだ」
「えっ。何。怖いな」
「そんなに構えるでない。あの、以前いつだったか。わしはお主に、
この世界のモンスター全てを倒すのだ、みたいな事を言った気がする」
「あ~、まぁ、言われた気がする」
「それは間違いだった。すまん」
「どういう事?」
「ヴリトラの話や、これまで会った人達を見て気づいたのだ。
モンスター化している者は、なぜ王など、立場が強い者に多いのか」
「言われて見れば確かに。なんでだろ」
「例えば、10人のコミュニティーがあったとする。
その中に1人モンスターが出て来たとして、1人を殺してしまったとする」
「ふんふん」
「そしたらこのモンスターはどうなるか。8人にしばかれるだろ。
あるいは法や規則によっては、何らかの刑に処されたりな」
「確かに」
「要はバランスの問題だったのだ。ある程度自治が出来る規模までモンスターを減らせれば、この件は終わらせられる」
「た~~しかに!!」
「ただ、このモンスター化した奴が、強い立場等を有していた場合はどうなるか」
「……しばかれない?」
「そういう事だ。そしてそういう奴らが無茶苦茶してると、
同じような奴らが集まって徒党を組んでいくと」
「なるほどなぁ…。そして無茶苦茶され続けると、モンスター化する人も増えるみたいな」
「だな」
「小さい村なんかにはモンスターが居ないのも納得だね」
「≪理障壁:物理結界≫!」
「うおっ!」
見ると、蛇がママルに噛みつこうと飛び掛かった所を、
障壁でガードしてくれたようだった。
「≪パラライズ:金縛り≫……あ、ありがと」
「ふふん。よい」
「じゃあ早速こいつを……≪ぺトロ:石化≫」
「動物の石化を間近で見ると、中々に恐ろしいのう」
「そういえば、悪魔ってマジでいるんだね…」
ママルは蛇の口の中を覗き込んだり、口内を触って、全部石化されてるかを確かめている。
「なんで悪魔召喚なんかさせたんだろうかのぅ」
「俺もそんな感じで召喚されてたりして。
≪リリース:呪力反転≫≪ぺトロ:石化≫」
「…本気で言っとるんか?」
「はは、冗談」
「趣味の悪い冗談は好かんでな」
「え、ごめん。てか、今のは神様にも申し訳ない冗談だったな」
「悔い改めよ」
――――
シャスティは、小屋から30分程度歩いた先の洞窟内に、
石の棺桶の様な物が作られ、それを密封し保管してあった。
蓋を閉じる際に使ったのは、粘度の高い液体が出る植物の物で、
いつまでも完全に密閉出来るものでも無いだろうと言っていた。
松明で照らされた洞窟内で、早速その蓋をクラレンドがそっと破壊する。
「シャスティだ…。ママル。頼む」
シャスティのその顔は恐怖で引きつっているようで、
いかに恐ろしい目にあったのかを物語っている。
衣類等は石化していないようで、ボロボロだ。
「はい」
(流石に緊張するな…)
石の手を握り、魔法を唱えた。
「≪リリース:呪力反転≫……≪ぺトロ:石化≫……」
「…ハッ!…あっ!な!あれ…何…」
「お、無事解けたみたいです。良かったぁ」
「シャスティ!俺だ!クラレンドだ!解るか?!」
「兄…さん?え、と、ここは…あの悪魔は?!」
「大丈夫だ、ここには居ない…。安心しろ…」
「ど、どう言う事!!ねぇ!」
「落ち着け、ちゃんと全部説明する。今は安全だ。ゆっくり、深呼吸だ」
その後、洞窟から出て小屋への道を歩きながら、
クラレンドは現状を説明していた。
「そ、そう……。じゃあ皆は、もう…」
「あぁ…すまない……でも、お前だけでも助かって、
本当に…良かった……すまない……」
「………兄さん、ううん。謝らないでよ…」
「……だが……」
ようやく望みが叶ったと言うのに、暗い表情を見せるクラレンドに、
ママルは思った事を素直に伝える。
「クラレンドさんは、ずっと頑張って来たんでしょ。20年間もさ」
「!……」
「良い事が起こった時は、喜びましょう」
「兄さんも、あと、ママルさんも。ありがとう。本当に」
「うっ……俺は…っ」
クラレンドのその声はうわずり、その瞳に、薄く涙を滲ませている。
失った者も、過ぎ去った月日も戻りはしない。
それでも、この時ようやくクラレンドは、人生が再び動き出したように感じた。
「兄さん。老けたねぇ。お父さんそっくり」
そんなシャスティの言葉は追い打ちとなり、
クラレンドは目頭を押さえ、暫く立ち止まっていた。




