70.石化
ママルはクラレンドに、戦いについて教えてもらっている。
「例えばこのように…」
クラレンドは、調理用のナイフでママルの腹部を突いた。
「うおっ…。お…。おお…」
「精神力の強度が保てていれば、相手の攻撃に干渉できる。
言い換えれば、精神力の削り合いこそが戦いという事だな」
「お、おお……なるほど…?」
(ヴリトラさんにパラライズが微妙に効いてなかったのも、実はこの理由か?
いや、でも俺の精神は前世の、一般人のものじゃないのか?)
ママルが思考の沼に落ちていると、テフラが答えた。
「言われてみたらそうですね。私はなんとなく感覚でやってただけですが」
「俺の魔法は、デバフが通るか通らないかでしか考えてなかったですよ…」
「これが、常人では死んでしまうようなスキルでも、耐えられる者がいる理由という訳だな」
「じゃ、じゃあ、ちょっと違う話なんですけど」
ママルはそう言いながら、小石を空に放った。
「上に投げたら、下に落ちてきますよね。これが当たり前の現象だと思うんですけど。そうじゃない軌道を描くようなスキルがありますよね?
そういうのって、どういう事か解りますか?」
「…そうだな。例えば、魔力等をただ打ち出す。というスキルは、
そのままその者の中にある力をぶつけているだけだが、
それによって何か、特別な事を引き起こす。君のアプライと言うのもそうだ。
それは、君が言う当たり前の現象ではないだろ」
「あぁ……、まぁ…、確かに…」
「つまり、当たり前の現象ではない現象を引き起こすのがスキル。そういう事では無いのか?」
「うぅ~ん……その通り、ではあるんですけど…」
(魔力やスキルと言う物が当然にある世界の人だと、結局こういう感じの答えになっちゃうかぁ。そもそもクラレンドさんはスキルの数自体少ないしな。
……いや、少ないからこそ、解る事が…)
「例えば、練気というスキルは、どうやって身に着けたんですか?」
「…毎日、己の中の気力をどう昇華すべきか、鍛錬を重ねていた時に身に着いた」
「なるほど…。反復か…」
「例えば剣を毎日振り続けると、それを効率的に、効果的に行えるようにするためのスキルを覚える、みたいな感じかのう」
「そう言われてみると、身に覚えがありますね」
「ありえる…じゃ、じゃあ、竜撃はどうですか?」
「それは教わったんだ。戦時中に編み出した人が居てな、実際誰だったのかは解らんが、気づけば殆どの竜人は使える様になった」
「スキルは人に教える事は出来るでな。スキル名と、発動のコツ、練習、あとは適性があれば獲得できるはずだで」
「なるほどなぁ」
「で…、その、どうだ…?」
「すみません…。とっても助かりましたが、発動方法のヒントとは違う感じでしたね…」
「そうか…。魔法とは難儀な物だな……」
「ちょっと、色々試して来るよ」
「おう、気を付けるのだぞ」
「ママルさん、いってらっしゃい」
――
ママルは一応皆の元を離れて、1人、木に向かって魔法を唱えた。
「≪ぺトロ:石化≫!」
(やっぱり発動しない…)
ターゲティングをしてみても、目を閉じても、
この木を石にしてやるっていくら意気込んでも魔法は発動しなかった。
(あと何かあるか…?)
ママルは、これまでの経験を思い出す。
(自分が動かないでいる事。特定の道具を使う事。見つめる事。
一歩踏み出す事。武器や腕を振るう事…。
死体…、触媒を使う事…これは、流石にヒントが無さすぎて無理だな…。
あくまでも、自分が、何か現象を引き起こす…。
霧が、相手に向かい、覆った結果、皮膚が焼け爛れる…)
そしてヴリトラとの対戦へと思いをはせる。
(そういえば、ヴリトラさんが落下したとき、
クラレンドさんはなんでわざわざ拳で殴りに行ったんだろう。
テフラさんみたいに、スキルにインターバルがあったのか…
いや、あの時は烈波はまだ使ってなかったハズ…。
普通に相手の精神力を削りに行っただけか)
「まぁ、この辺は聞いた方が早いか…」
(いや…待てよ…。飛び掛かった拳で、あんなにデカいドラゴンの頭をぶっ飛ばした…。同じように、ヴリトラさんの爪を食らっても、切り裂かれる事なくクラレンドさんは吹っ飛んでいた。
もし俺が同じように殴ったとしたら、多分腕が突き刺さって穴を空けるだけだ。
いや…。最初、この世界に来て最初に倒した虎は、頭が吹っ飛んだ。
気力や魔力の操作…。)
例えば≪烈波≫は、高速で打ち出すスキルで、気力の塊自体は自力で作っているらしい。
(気力を込めた拳で、相手の気力、もしくは魔力を殴る…)
「直接か…………………………」
ママルは、地面に生えている草を掴んで、魔法を唱えた。
「≪ぺトロ:石化≫…………で……、出来た!!!!」
――
「出来た~~~!!!皆~~~!!!!」
「うおっ、存外早かったな!」
「ほ、本当か?!!!」
「ママルさん、流石です」
このスキルの発動条件は至って単純であった。
それは、直接触れている事。
強力な呪いは、直に呪力を流し込む必要があったのだ。
しかも、武器である水晶を介さずに。
シンプルすぎるが故に、ゲーム知識だけでは絶対にたどり着けなかった。
「ほらっ!石になった草!!すごくない?!!」
「お、おう…」
「ママル~~~!何やってんだ?」
ワーウルフの男の子、フォルが興味深そうに覗いて来た。
「なにこれ?!!」
「あ、あぁ、俺の魔法でさ」
「す、すげ~~!!皆~~~!!」
フォルは他の子供達に興奮気味に話すと、
ママルはたちまち5人の子供達に囲まれる。
「石作れるの?」
「カチカチの草!かっけぇ~~!!」
「魔法で石作れるの?」
「あ、あぁ、そんな感じ…」
(か、可愛い…)
「そうだ、なぁなぁママル、知ってるか?」
「何を?」
「ユリのやつ、雷怖いんだって!」
「ほ~~~~う」
「こら!フォル!!」
「逃げろ~~~!」
(いや、でも待てよ、俺は、何か、それ知ってた気がする……)
「……………アプライだ!」
「な、なんだ?」
「アレで見る弱点って、そういう事か!シンプル苦手な物か!そっか~~~」
(正や邪は、正しい事とか、邪な事が苦手?みたいな話か、多分)
「お主!なんだ、ちゃんと話せーー!」




