69.終戦
「≪ペイン:痛覚刺激≫!!」
『ゥグウアあッ!!』
大量の雷はママルとクラレンドに直撃したが、
クラレンドも一撃であれば耐えることは出来た。
そしてヴリトラは強化魔法を重ねたペインを受けて悶絶する。
「ハアアァァ…≪竜っ!」
『わ、解った。俺の、負けだ…』
「ふぅ…。クラレンドさん、やりましたね」
「あ……あぁ……………」
ヴリトラは地面に横たわりながら、声をかけてくる。
『ぐゥ……クソ……ママルと言ったか、お前の魔法はなんだ、気味が悪い…』
「はは、よく言われます」
『竜撃もそうだが、折角の俺の鱗が何の意味も成さん…忌々しい。
それにクラレンド…お前は……腕を上げたんだな……』
「いつの間にか俺は、ヴリトラと戦えるくらいにはなっていたのか…」
『毎日グータラしてた俺との差ってワケかよ』
「それで、ヴリトラさん。聞きたい事があるんですけど」
『あぁ、そうだったな……………ハァ……。もう、どうでもいいか…』
「そもそも、俺達の戦争は終わっているんじゃないのか…」
『……そうだな、…そうかもな』
「じゃあ何でずっとこんな事してるんですか?」
『そもそもで言うならよ…、俺達の国の王がイカレちまったのが始まりだ。
いつからか攻撃的になって…。戦争を始めた理由はな。
竜人が、竜と呼ばれてるのが気に食わなかったんだとよ。
ふさわしくないと、トカゲモドキと言い出して』
「は?」
「そ、そんな理由でか……」
『理由なんて、何でもよかったのさ。王とその取り巻きが攻撃命令を出した。
それだけだ。逆らえば、俺達が攻撃される』
「最強の竜でも、そういう風になるんですね」
『ハッ、最強ね…。ありがてえ称号だがよ。そんなのはあくまでも個としての力だ。同じドラゴンが数体も集まりゃ勝てねぇよ』
「…なるほどね」
『だが、別に俺達だってそこまで嫌じゃなかったのさ。闘争本能って奴か。
命を懸けて、お国のために戦うってのもよ。だがな、………アレは駄目だ』
「アレ?」
『悪魔の力を借りちまったのさ。クラレンドなら知ってるだろ』
「あ、あぁ……カトブレパス…」
『戦場に投入されたのはそいつだが、何もそれだけじゃねぇ。
圧倒的で、奇妙な力。王はそれに魅了されちまったのさ』
「……悪魔召喚ってのは、ドラゴン族に伝わるものなんです?」
『…聞いた事ねぇ。王がイカれちまってすぐ、
妙な人間と懇意にしてた。そいつが怪しいと俺は睨んでるがな……』
(人間…呪術師の奴らなのか?それとももっと別の何か…)
『悪魔との契約ってのは、絶対らしい。竜人を根絶やしにする。
そう約束して力を借りた王は、逃げ出したお前らに焦って俺達を差し向けた。
だから俺達は、死体の1つでも持っていかないと、国に帰れねぇって訳さ』
「そうか……」
『だがな…、もう……、どうでもいい……。
俺の国が今どうなってるかも知らねぇし。俺ぁこの島で暮らすわ。
南の方にある滝がな、打たれると、結構気持ち良いからな…』
ヴリトラは、クラレンドに逃げられてから、しばらくは真面目に探していたが、
そのうち諦めの気持ちが勝る様になっていた。
悪魔の手を借りた自国に、それほど未練があった訳でもないし、
竜人達に、特別な恨みがあった訳でもないからだ。
自国に帰るにしろ、帰らないにしろ、その決定をする切っ掛けがないまま、
ただただ流れる時を過ごした。
そして今、その切っ掛けを得たのだ。
そんなヴリトラを見て、クラレンドは独り言のようにつぶやいた。
「………聞けて、良かった………」
「あの、ヴリトラさん。これを」
ママルはハイポーションを差し出した。
『なんだ?…まだ何かあるのか…』
「ポーション。回復薬です」
『っ…ふざけるな…。確かに俺は負けた。だがな、舐められるのは嫌いなんだよ』
「いえ、その、お願いがあるんです」
――――――
「ただいまぁ…」
真夜中に、ママルとクラレンドは帰ってきた。
「「「おかえりなさい!!!」」」
獣人の子供達が、元気いっぱいに出迎える。
「はは、可愛いなぁ」
「ママルだっけ。可愛いとか言うなよ!」
(俺の事、ユリちゃんかテフラさんから紹介されたのかな…。
可愛いって言われるのが嬉しくない年頃の男の子か。可愛いじゃん)
「あぁ、ごめんね。つか、まじで眠い…」
「フォル。何も問題なかったか?」
「うん。ユリとテフラねーちゃんが遊んでくれたし!」
「そうか」
「クラさんも眠い?」
「…そうだな」
「おう、ママル。大丈夫だったか」
「うん。思ったより良い人。じゃない。良いドラゴンだったよ」
「まじでかっ!気になるが。まぁ、とりあえず寝るで」
「…うん。そうだね、待っててくれて、ありがとね」
そんなママルとユリのやり取りを聞いて、テフラが就寝の挨拶をした。
「おやすみなさい…」
この小屋は、元々打ち捨てられていた物を、
素人芸ながら改修して使っているらしい。
2部屋しかなく。寝床にしてる広い部屋と、それ以外だ。
子供達は眠気を我慢して待っていたのか、今はグッスリと眠っている。
ユリとテフラも同様だったようで、寝息が聞こえて来た。
ママルとクラレンドだけは、ある種の興奮状態から、眠りに落ちるまで時間がかかる。
「クラレンドさん…良かったですね…」
「…あぁ……ありがとう…」
「起きたらちゃんと…、石化魔法の練習します…」
「…あぁ……………ありがとう………」
クラレンドは。今日、死ぬ可能性も考えていた。
約20年、悩んで、耐えて、鍛えて来た。
だが、わけも解らないうちに、流されるように因縁の相手と対峙して、
最高と言って差し支えない結果を得た。
喜びと、混乱の気持ちが半々。
しかもシャスティの石化まで解けるかもしれないと言う。
(なんなんだ、これは)
クラレンドは天井を見つめ、独り言を漏らす。
「こんな、都合の良い事が………あって良いのか……」
「……良い事なら、いくらでもある方が、良いと思うなぁ」
半分寝ているようなママルの言葉を聞いて、
クラレンドはその目を閉じた。




