7.盗賊団
森の中に、幅5mほどの道が通っている。
巨木を避けるように蛇行して通る道は、ところどころでT字や十字に分岐していて、正しいルート以外は、行き止まりだったり、
他の道の十字路に繋がっていたりして、道に沿って歩いていても大半の物は迷うだろう。
そんな中を、2台の車が通っている。
車と言っても形状的には馬車をイメージしてもらえば解りやすいだろうか。
違う所と言えば、車輪が無く、車体は宙に少しだけ浮いている。
そして馬はおらず、車体に繋がった手綱をひく御者がいる。
つまるところ言ってしまえばただの箱のようなもので、
ここではフローターと呼ばれる。
仕組みは至って単純で、板の四隅に≪フロート:浮遊≫の魔法陣を彫り込み、
そこから伝わる魔導線と呼ばれる紐を通して、御者が魔力を操作しているだけだ。
その2台のフローターの後方で、数時間ぶりの会話が始まった。
「おい、ザック、あとどれくらいだ」
後方のフローターの中から、御者へ声がかかる。
「は、あと、2時間ってところでしょうか、日没までには間に合います」
「順調だな。くっく…」
左腕に蛇が巻き付いたような刺青をした、スキンヘッドの男が笑った。
大柄で、実戦で培われただろう筋肉は無駄がなく、何も知らない物でも避けて通るような風貌だ。
そんな男に、同じフローターに乗っている別の男が、ニタニタと笑いながら会話を向ける。
「今回は運が良かったですね」
「あぁ、まさかあんなとこにエルフの村があるなんてな、新拠点探しがこんな形で報われるとは」
「村人は売っぱらって、村は新拠点に、まさに一挙両得!ですね」
この盗賊団、サーチスネークのボス、グスタフは、
こういう、いかにもなおべっかを使う奴は嫌いだったが、
有能な詐欺師が居ると聞き、配下の推薦の元、このダンと言う奴を最近入団させた。
「おい、つかてめぇは前方だろうが、道案内があんだろ」
「ボスとお話したかったんですよぉ、それに大丈夫です、ここから30分くらいは簡単なので、ちゃんと御者に伝えてあります」
ダンは運が良いのか、入団後一旦様子見がてらに雑用を任せたつもりが、
まさかエルフの隠れ里を見つけたときたら、
流石にグスタフも気分よく会話をするつもりになったし、
ダン自身もこの幸運を逃すまいと、悪名高いこの盗賊団に気に入られることで、
これまでの詐欺師としての生活から、
もっと上へ行けるんじゃないかと心を躍らせて、グスタフと会話が出来るタイミングをずっと伺っていた
「エルフつったらどれも高値で取引出来ますからねぇ!」
「老人はいらねぇけどな、金にならん」
「それもそうですね、女は…あちしらにもお恵みありますかねぇ?」
「ある団体や貴族がよ、特に欲しがってんだ、純潔のエルフ。高く売れるぜ」
「まず検査がいると?」
「そりゃそうだ、ま、純潔じゃなきゃ何人やったかなんて解んねぇ、好きにしな、その後売る」
「ありがてぇ!でもそうなると、どっちが多い方がいいか迷いますね、ぐぇへへ…」
適当に話を盛り上げようとしてたつもりが、
自身の幸福な未来を想像して、ついゲスな笑い声が漏れる。
「馬鹿かてめぇは…、エルフの純潔売った金ありゃ、奴隷や娼婦買っても釣りがくるっつんだ」
「あ!天才!」
「ガキが沢山いりゃてっとり早いんだが、あいつらは長寿だからな。よっぽど運が良くなきゃそうはならん」
「ガキ?性奴隷用じゃないんですか?一部には、そういう趣向の奴らもいるとは聞きますが」
「…それは貴族の方だな、団体に売る方が色々都合が良い、そして団体が欲しがってるのが純潔の血だ、しかもあらゆる種族の男と女の、だってよ、イカれてんだろ?」
「……自分で言うものなんですけど、ちょっと気味が悪いっすね」
「ハッハ!ま、理由なんか知ったこっちゃねぇ、金出してくれるんだ、ありがてえ奴らさ」
「確かに!いやぁしかし、そんな怪しい奴らとどうやってツテ持ったんです?」
「……まぁいいか。裏闘技場って知ってるか?アルカンダルの」
「噂には」
「そこで俺はキングだったんだよ、昔な。あとは想像すりゃ解んだろ」
「あれって!噂話じゃなくて!マジなんですか!すげぇ~~~~!!!
ボスの強さは勿論、懐の広さ!顔の広さも本当に尊敬しますわ~!」
そんなあからさまな世辞を遮るように、先ほどザックと呼ばれた御者から、切迫した声がかかった。
「モンスターです!」
前方のフローターからは6人が既に戦闘態勢で外に出ている。
そして後方からはボスとあと2人、短杖を持った男と、道中一言も言葉を発していない男が素早く降りた。
「なんだありゃ、雑魚ばっかだが、数が多いな」
「ちょっとめんどいですが、ボスが出なくても大丈夫ですよ」
と前方の剣術士が声をかける。
「いや、俺が行く、ちょっと暴れたい気分だったし丁度いい」
「おぉ…!!」
と前方の6人が、感嘆の声を上げた。
ボスの戦闘が見られる事が喜ばしかったのだ。
「他は待機!フローター守っとけ!」
グスタフは言うな否や、背に担いでいた巨大な斧を手にする。
そしてモンスターの群れに向かって走り出した時の表情は、
つい先ほどの下卑た表情から、
闘争心を露わにした戦士のモノへと変わっていた。




