68.VSヴリトラ
「ユリちゃん!遊ぼう!!」
「お、おう。メイン。何がしたいのだ?」
(か、可愛い…)
獣人の子供達は、ワーウルフの男のリティ、女のレート。
ワーキャットの男のフォル、女のメインとベルの5人だ。
「追いかけっこ!」
「仕方がないの~~、外で遊ぶなら、あんまり遠くへ行くでないぞ?」
「やったー!皆~!追いかけっこしよ~~」
「ユリさん、ありがとうございます」
「いや、構わん」
「ユリちゃーん!!早くーーー!!」
「今行くでな~!」
「ふふっ。なんか、嬉しいな」
「何をしとるテフラ、お主も来るのだ」
「はいっ」
子供達と追いかけっこをすること数分。
「はっ、はっ、お主たち!素早しっこすぎるだろ!!」
「ユリちゃ~ん!こっちこっち!」
――――――
「…来たぞっ!」
クラレンドがそう言うや否や、2人の目の前にヴリトラが姿を現した。
空から現れ、ゆっくりと目の前に着地する。
(うおっ!でっけぇ!!)
『貴様、何のつもりだ?』
(!!?頭に直接っ。これが念話か)
「…久しぶりだな」
『尻尾を巻いて逃げて行ったトカゲモドキが、今更何のつもりだと聞いている』
(いきなり攻撃せず、わざわざ姿を現した…やっぱり会話の余地ありそう)
「あ、あの、すみません、ちょっとお話、良いですか?」
『何だ、お前は…』
「えっと、ママルって言います。俺がその、話してみたいなと思って、呼んでもらったんです」
『………。竜人、お前の名を名乗れ』
「……クラレンドだ」
『クラレンド…。クラレンド。覚えたぞ』
「あの、それで」
『舐めるな!!俺を、俺様を!!こんな獣人と組んで、対等に立ったつもりか!!!!』
「う、うるっさ!!」
ママルは頭に響く大声に、思わず悪態をついてしまった。
それを聞いたヴリトラは、怒るかと思いきや、逆に冷静さを取り戻す。
『獣人、随分と自信があるようだな』
「いや、その、て言うか、話が聞きたいんですけど?
なんでクラレンドさんに20年も粘着してんの?って」
『………うるせぇ。俺だってな、こんな事いつまでもやってたくねぇんだよ…、
だから、クラレンド、お前は絶対に殺す…。いい加減、追いかけっこは止めにしよう』
「話す気はないって事?なんで戦争なんかしたのとか、聞きたいんですが」
『…………クラレンド、今度は逃げるんじゃねえぞ』
ヴリトラは、ママルの言葉を無視して羽ばたき、高度を上げて行く。
「もうっ!≪アプライ:鑑定≫!!」
●ドラゴン:ヴリトラ Lv118 その他不明
「あれ?なんか、クラレンドさん1人でも勝てそうじゃない?」
「だと良いがな……≪練気≫!」
「ま、やっぱモンスターじゃないみたいだし、一回ボコろう」
『≪サンダーブレス:雷龍の息吹≫!!』
ヴリトラは上空から巨大な雷の弾を吐き出すと、ママルに直撃した。
クラレンドは横に飛び回避している。
「い゛っっでっ!!!」
(一応レベル差は倍以上あるハズだけど、流石にダメージは通っちゃうな)
「≪パラライズ:金縛り≫!!」
ヴリトラを包むパラライズの霧は、ヴリトラ自身の羽ばたきと、纏う雷気により文字通り霧散したように見える。
だが、完全に全てを消し飛ばせた訳では無いのか、少し動きが鈍った。
(微妙な効果だ、麻痺耐性でもあるのか?)
「≪練気≫……………。≪練気≫……!」
(おお…重ね掛け出来るのか)
『チッ…≪サンダーストーム:招雷≫!!』
空中を飛行するヴリトラの軌跡に、雷の玉がいくつも現れる。
(くっそ、射程外だ…ジャンプして魔法打つか?でも着地まで無防備になるしな…。完全に空に居る相手に、竜人達はどうやって…)
「≪竜っ……撃≫!!!!!」
クラレンドは両腕を突き出すと、
青白いエネルギーが、ヴリトラ目掛けて超速で延びて行く。
「バッ…」
(バトル漫画かよっ!)
ヴリトラは回避を試みるも、片翼に当たってしまい高度を落とす。
(よし、射程内!)
「≪ペイン:痛覚刺激≫!!」
『グァアあッ!!!!』
(おっけ、この魔法なら行ける!……てかこれ、この魔法って改めて考えてみると、クァダバルがやった様な遠隔直接攻撃だよな。そういう意味では、呪術らしいのか?)
半ば墜落するように地面に着地したヴリトラの元に、クラレンドが駆け出す。
「おおおおっ!!」
雄叫びを上げながら飛び掛かると、そのままヴリトラの頭部を殴りつけた。
バチィッ!!!!
ヴリトラが纏う雷気と、クラレンドの気力が弾ける。
『ッッ!クラレンドォ!!!』
今度はヴリトラが爪を振るうと、クラレンドは大きく吹き飛ばされた。
『≪サンダーブレス:雷龍の息吹≫!!!』
「≪烈波≫!!!」
2つの弾がぶつかり、爆ぜる。
「≪セカンドマジック:魔法ヒット数+1≫、
≪サードマジック:魔法ヒット数+1≫、
≪コンテマジック:魔法効果連続発動≫」
ヴリトラは再び飛び上がると、新たなスキルを唱える。
『≪ライトニング:落雷≫!!!』
空中にあったいくつもの玉から雷が落ちた。
狙った位置に落とす事は出来ないものの、
雷の速度に反応できる者など、この世には存在しない。
ドドドドドドン!!!ピシャーーーン!!!
――――――
「ひあっ!」
ユリは頭を抱えて蹲った。
「雷の音が聞こえますね」
「ユリちゃん、雷怖いの?」
「へっ、俺は怖くないぜ!」
「リティ君、またかっこつけてる!」
「ち、違うよ!なあフォル!」
「そうだ!俺達は怖くないぞ!」
「わ、わしも怖くはないぞ!ただ、危ないでな!一旦家に入ろう、そうしよう」
「そうですね…」
テフラは空を見上げたが、雷雲があるようには見えなかった。




