67.整理
ママルとユリとクラレンドが、ヴリトラとどう対面するかを話し合ってた所に、
テフラが声をかけて来た。
「ちょっと、良いですか?」
「おう、子供達は…。皆寝たか…」
「はい」
「いやぁ、無事で良かったですね…」
「はい…。あ、いえ、それで、少し話してみたい事があるんですが」
「ふむ、遠慮するでない」
「子供達と話している時に、昔話になったんです。
その時、私が狩りで使ってたスキルの話になって」
「ふんふん」
「確か、≪促爪≫とか≪連牙≫とかって。でも私そんなスキル使えないんですよね…。それに、この2つだけで、他のスキルは見た事もないって」
「……ふむ…。なるほど……では、一回整理しようではないか」
「何を?」
「クラスについてだ」
「なるほど…」
「まず、恐らく、自らのこれまでの行いによって、クラスと言うのが与えられる」
「まぁ、そんな感じするね」
「畑いじりをしていれば農家とか、剣を振り回していると剣術士、と言った具合だな。それに加えて、なんでかは解らんが、その上位、ハイクラスと言うのになる事がある」
「私のスレイヤーとかですね」
「俺の呪術師とか、多分クラレンドさんの求道者もそうだと思う」
「俺が?そういうクラスなのか?」
「あ、はい。」
「敵、と言ったら良いか。グリッチャーだの、ワールドなんちゃらだのの口ぶりを聞くに、奴らはそのハイクラスを作ろうとしているのだと思う」
「そんな感じしたね」
「ハイクラスのコープスが欲しい、みたいな感じなんですかね」
「コープス?」
「あ、まぁ後で説明します」
「それで、そのハイクラスと言うのにはどうやったらなるのか」
「え?ユリちゃん解ったの?」
「いや、解らんが…。例えばそうだな。剣術士が、呪術師に変わると言うのは考えられん。グリッチャーは黒魔術師だったか?」
「そうそう」
「つまり、現クラスが一段上に上がるのだ。おそらく」
「なるほどね」
「そうか……。私は実際自分の事は、以前は猟人だと思ってました」
「では、猟人から派生して、スレイヤーになった。と言った所か」
「魔法薬や闘技場で、精神的に追い詰められた事は、まぁ、関係ありそうですね」
「うむ。それで、スレイヤーに変わった時、お主のスキルは上書きされたんじゃないか?」
「上書き?」
「≪促爪≫は≪瞬爪≫へ。≪連牙≫は≪双牙砕≫へ。どうだ、それっぽくないか?
そして他のスキルは、クラスが変わると同時に獲得した」
「な、なるほど…」
「あー、スキルは記憶ごと上書きされるのか。それなら俺も解るよ。言語中枢を書き換えられたから」
「なんか…。なんと言うか、ちょっと不安になりますね…」
「記憶が信じられないと、そうですよね。まぁ俺の場合は説明してもらってるから良いんですが。あと、クラスについて気になってる事、実はもう一個あってさ。
例えばユリちゃんなら、俺には結界術師と確認できる。巫女じゃなくて」
「なるほど」
「斧を使う盗賊は、斧術士じゃなくて、盗賊だけ。この基準が解んない」
「ううむ…。活動時間か?巫女としての仕事量は、そんなにこなしてないからのう」
「あー、斧振ってる時間より、盗賊してる時間の方が長いからか…」
「まぁ、これはクラスと言うより、アプライと言う魔法についての話になってそうだが」
「た、確かに」
「君達の話は…。難しいな」
「す、すみません…」
「…整理と言ったが、結局これ以上の推理も出来んし、ヴリトラの話をするとしようか」
ヴリトラの件についての情報を、テフラにも共有して話始める。
「こっちから見つける、もしくは見つけてもらう手段、と言う事ですか…」
テフラの言葉に、クラレンドが答える。
「俺は正直、まだ賛成出来んがな」
「まぁ、わしもそう思う。…わざわざ藪を突く必要があるか?」
「…クラレンドさん。しばらくは、逃げ回ってたんですよね?
でも、今はこの小屋に居る」
「……あぁ」
「それはやっぱり、子供たちが居るから動けない、だからなんですよね?」
「………そうだな」
「じゃあやっぱり、ヴリトラに対処できるならした方が良い」
「なるほどのう。同じ場所に居続けたら、見つかる可能性は大きく上がるしの」
「だから、俺がやる。って言うか、俺を使ってくれ」
そんなママルを見て、クラレンドは意を決したように言葉を出した。
「それは………。解った………。俺とママルの2人で行こう」
「わしらはこの小屋を守っとればよいのだな?」
「野生モンスターとかいるからね」
「私はっ…」
「テフラさん。大丈夫。あの子達、絶対に守りたいでしょ。そうして下さい」
「…ありがとう…ございます」
「それで、じゃあクラレンドさん。何か方法があるんですか?」
「確実とは言えないが、ある…。準備が出来たら立とう」
――
翌朝早くに、ママルとクラレンドは小屋を後にした。
山道をそこそこ早い速度で移動する事、数時間。
「このくらい離れたら良いだろうか…」
「まぁ、流石に大丈夫だと思いますが」
殆ど岩場になっている開けた場所を見つけると、2人は足を止めた。
「それが、竜魔笛ですか」
ドラゴンは、細かい発声が出来ない。
そのためか、念話と呼ばれる手法で会話をしている。
クラレンドが取り出した魔道具は、その念話に干渉するような念波を、
広範囲に拡散するものだ。
戦時中に、ドラゴン側の連携を崩す目的で開発された。
勿論、この大陸全土に轟く訳でもないので、
あまり遠い所に居た場合は不発に終わるかもしれないとの事だが、
逆に、付近に居ない事が確認出来るだけでも良い。
「では、早速やるか。準備は良いだろうか…」
「あ、は、はい…」
(結構大見栄を切っちゃたけど、緊張して来た…)
「……俺は…。いや。覚悟を…。決めるか」
「あ、なんだったら、俺だけで魔道具使いましょうか?」
「フ………。そういう訳にも行くまい。では、やるぞ…」
クラレンドは、大きく息を吸い込むと、竜魔笛を吹き鳴らした。
キイィィィィィィィン…………
(変わった音がするな、ちょっと耳が痛いくらいだ)
「ふぅ、こんなものか…」
「お疲れ様です」
「後は、どうなるかな…」




