64.キャンプ
目的の小屋に向かっている途中、そろそろ暗くなってきたので、テントを張ろうという流れになり、
張り方に四苦八苦しつつも、なんとか形にしたタイミングでママルはふと思った。
(い、1個か…いや、別に普段も同室で寝てるんだけど……)
「火を起こすか」
そうユリが言うと、テフラが準備を始める。
折角鹿を倒したという事で、その後ろ脚一本を頂戴してきている。
一本でもかなりの大きさだ。
以前森を歩いていた時とは違って、モンスターとそうじゃない動物とで、食べる際に何かしら違いがある訳では無いと解ったし、今は狩った獲物の調理等の知識はテフラが持っているので、
本当は全身をちゃんと保存食等に加工した方が良いのだろうが、
手間暇を考えると、申し訳ないが捨て置かざるを得なかった。
きっと、様々な動物等が綺麗に平らげてくれるはずだ。
「薪を集めてきますね」
「俺も手伝いますよ」
「あ、じゃあお願いします。出来るだけ太いのと細いのをバランスよく。私は竈を作っておきます」
「獣除けを張っておくでな~」
「あいよ~」
テフラは石を拾い集めて竈を作っている。
「器用に積み上げるの~」
「慣れてますから」
「ワーウルフもワーキャットも、狩猟が基本だものな」
「野菜や穀物もとりますが、やっぱりお肉が一番好きです」
「そういえばエールも作るんだったのぅ」
「いつかユリさんとも、ちゃんと飲んでみたいな」
「わしは…、まぁ、そうだなぁ」
「3回だけ付き合ってください、きっと好きになります」
「やはり、最初からは好きにならないんだな…」
「ふふっ、まぁ、好きな味とか、飲める量とか、人によって全然違いますから、
試してみて欲しいってだけですよ」
「お待たせ」
「おお、随分沢山持ってきたの」
「ありがとうございます」
テフラは、手頃な枝をババッと切り裂き最適な長さに揃えると、
細い枝から順に竈にくべて行く。
テフラの爪先から、気力の塊が硬質の刃物の様に伸びているのを見てユリが呟いた。
「気力と言うのも中々便利な力だのう」
「かっこよくて羨ましいなぁ」
「ふふ、最近どんどん扱い方に慣れてきている感じがします」
「それはよいな。っと。火をつける魔道具は、確かリュックに入ってたと思うが」
「そうなんですか?でも大丈夫です。折角なのでやらせて下さい、火起こし」
「まぁ構わんが」
「その、今の力を身に付けてからやるのは初めてなので、どうなるのか自分でも興味がありまして」
「なるほど、面白そう」
「ふむ」
テフラはそこそこ太めの枝でフェザースティックを作ると、
そこにもう1本の枝を押しあてた。
「普通こんなやり方しないんですけど、なんか行けそうな気がします」
そう言うと、押し当てた枝を、両の掌で挟み持つ。
「お、見たことある」
「そうなのか?どうするのだ?」
「擦ります」
それから、掌をほんの数往復、超高速で行うと枝から煙が立ち昇った。
「おお!すご!」
「魔道具もなく、こんな簡単に火が起こせるものなのか?!」
――
水で洗い、塩と野草を揉み込んだだけで焼いた鹿肉と、
付近で摘んだ山菜を食べながら3人は談笑している。
日はすっかり暮れていて、焚火の明かりだけが辺りを照らす。
「結構イケるね」
「こんなデカいのに、よう中まで火が通ったの」
「コツがあるんですよ」
「胡椒とかもあれば、より最高だったんだけど」
「高級品だろ?」
「そうなんだ」
「私の村でも希少品でしたね」
「じゃあ、栽培して一儲けしよう」
「簡単にいかないから高いのだろ?」
「いいじゃん、ゆっくりやり方を探そう」
「ふふっ、そんな日が来たら最高ですね」
「なんか、結構楽しいな」
「意外と不便がないからのう」
「……こんな風に、ただ暮らしていけたら良いのに」
「そうだな。普通に、ただ平和に暮らして行きたいものだ」
「やばい……」
「どうした?」
「めちゃくちゃビール飲みたい」
「ビール?エールとは違うのか?」
「似てるけど、ちょっと違うのよ」
「気になりますね」
「ってか、あるんだよね、実は…」
「お主の巾着の中のやつか?であれば、好きに飲めばよいではないか」
「その、飲み物系はそんなに数多くないんだよね、それに、
ポーションとかよりも効果が高いのよ。回復量も多いしバフも付くから」
「バフ、は強化の事だったか?なるほど。それで勿体ぶって、手を付けていないと」
「き、気になります…」
「………い、1杯…だけ」
そんなママルのつぶやきを聞いて、ゴクリとテフラの喉が鳴った。
「1杯だけ!もしそれ以上飲もうとしてたら、ユリちゃん!
魔弾でもなんでも撃って俺を止めてくれ!!!」
「…お主よ……普段は結構理性が強い性格だと思っているのだが…」
「酒には魔力があるんだ!」
「無いわい」
「わ、私も飲みたい」
「…さっきのセリフ、テフラも同じだで」
「えっ」
「くっく…、ユリちゃんよ。お主は甘いのが好きだな?」
「うざ…、なんだ。そういう飲み物もあるんか?」
「ある!てことで、飲む!オラァ!!」
テフラと自分にビールを、そしてユリにはチョコラテを差し出した。
「くぁぁあああっ!!」
「これはっ!」
「おいし~~~~!!」
それぞれが飲み終わり、ママルがもう1杯くらい、などと戯けた事を思っている時、雨が降って来た。
「山はやっぱり天気が変わりやすいですね」
「もういい時間だ、寝るで」
「そ、そうだね…」
3人が、多少濡れた体を布で拭き、歯を磨き、
就寝の挨拶と共にテントで川の字に横になる。ユリが真ん中だ。
「流石にちょっと寒いわい」
ユリがそんな事を言うと、テフラがギュっと抱きしめる。
「お……、おお、温いな」
「温かくしてください」
(うっ……。最近、テフラさんのスキンシップが多い気がする。
でも当人の感じを見るに、多分獣人では普通の事なんだろうな。
俺達と居る事に慣れて心を開いてくれているんだろう…おそらく…)
「ママルさんは大丈夫ですか?」
「あっ、だ、大丈夫です、お酒も飲んだから…」
「ふふっ、いつでも良いですからね。おやすみなさい」
「おやすみなさい…」
(いつでも良いって何……………………。
いや、おい、何じゃねぇ!解るだろ!変な反応すんな俺!カス!ボケ!シネ!)




