63.進路変更
≪人避けの守り:人認識阻害≫を使いつつ、周囲の様子を見ていたユリの元にママルが駆け寄った。
「だ~れもいない」
「ふむ、ではやはり、あのテントの中だけか」
「どんな感じ?」
「戦闘音は聞こえたが、わりとすぐに止んだな」
「ちょ、それってどっちが勝ったか解んないじゃん!」
テントに向かって駆け出そうとするママルに、ユリが声をかける。
「いや、解るだろ」
「え、何で」
「万が一があったとしたら、盗賊達がすぐに顔を出すはずだでな」
「あぁ、まぁ、そっか」
「それに、やばそうだったら逆にテフラが出てくるはずだし」
「じゃあ、とりあえず待ちだね」
「うむ。決着をつけさせてやらねば………」
「だね」
それから数分の後、テフラがテントから顔を出したので、
ママルとユリが駆け寄った。
「お待たせしました」
「どうだった」
「思った通りでしたよ。やっぱり、私達の村を襲った奴らでした」
「そうか」
「なんと言うか、スッキリしましたよ!…でも、不快です」
「それは、そうですよ…」
「……むしろ、そう思えるお主でいて良かったと思う」
テフラは手足を血で濡らしたまま、
イライラしているような、悲しいような、晴れやかなような表情でつぶやいた。
「ママルさんの気持ちが、ようやく解ったような気がします」
人殺しなんかしたくはない。
だけど殺すしかないし、殺したい。
矛盾しているようでいて、どちらも本当の気持ちの果て、
結局は殺すことを選ぶ。
肉を割き、骨を砕く感触は、昔から狩りをしていたテフラは知っていた筈のものだし、これまで人間等を殺してきたときも、感覚としては同じような物だった。
だからいつも急所を狙う攻撃をしていたのに、今回は相手を甚振る様な真似をしてしまった。
恨みをぶつける相手をこうも一方的に蹂躙できてしまうと、
一体、命とは何なのか、その感覚が揺らいでしまう様な感覚を覚えた。
「あぁ、それから、その……、私はこれから山の方に行こうと思います」
テフラは盗賊から聞いた竜人の話を告げる。
「当然、わしらも付いて行くでな」
「勿論」
「…でも、モンスター退治とはちょっとズレちゃうような気が」
「…ふぅむ。そういえば、わしら最近は野生モンスターを全然倒してない気がするでな~」
「そ、そうだよ!」
「それに、竜人が悪い奴なら、やっぱり見逃せないと思うでな~」
「そゆこと!」
「……ふふっ、ありがとうございます」
「以前も言ったが、元々行く当てもない旅なのだ、遠慮はするでない」
「そう!」
「お2人に出会えて、本当に良かったです」
テフラが川で血を洗い流した後。
一行は、入って来た道とは別の、山の方に続く道を見つけて歩き出す。
フローターが置いてあったのを見るに、盗賊は普段はこちらの道を使っていたのだろう。
外周は岩肌だったのに、こちらは土の上に樹々が広がっている。
(どういう環境なんだろうか…)
「それこそ、山と言ってもものすごく広大だけど」
「人の気配を見逃さないようにしましょう」
「とりあえず、上を目指すとするかのぅ」
山道を歩き、約1時間、少しずつ道が険しくなってきている。
「あ、そうだ」
「ん?」
「久々に上から見てみようかと思ったんだけど」
「あぁ、よいではないか、飛べママル!」
「ははっ、いやそれでさ、ユリちゃんのあれ、理障壁。あれってさ、好きな位置に出せるじゃん」
「目視できて、かつあんまり遠いと無理だがの」
「基本は俺の魔法と一緒だね、ターゲット先が空間で良いのは違うけど。
いや、それでさ、俺が飛んだら、俺の足元に出してみて」
「…なるほど、その発想はなかったわい」
「空中で停止できるかもって事ですね、良さそう」
「そうそう、じゃあ。よい~しょっ」
思い切りジャンプして一気に上空へ昇り、展開された理障壁の上に着地した。
「おー、うまく行ったな」
(てか、改めて見るとやっぱ高ぇな、結構、いやかなり怖いな…)
周囲をよくよく見渡してみると、山頂付近の山肌に1軒の小屋が見えたので、2人の元に戻る。
「っしょっと」
「どうでした?」
「あっちの方に小屋が見えました、そのくらいかなぁ気になったのは」
「では、そっちに向かおう」
「思ったんだけどさ、俺かテフラさんがユリちゃんを持ってさ、
理障壁に乗って、ジャンプして、空中でまた出してもらってそれに乗っかって、
ってやれば空中移動できそうじゃない?」
「…いや、まぁ、出来そうではあるが…展開位置を一手ミスったら真っ逆さまだろ?わしはお主らの様に頑丈ではないで」
「ま、まぁ、そうね」
「私が負ぶっていたとしても、落下の衝撃を完全に消すのは無理ですからね」
「まぁ、面白そうな案ではあるがな、堅実に歩いていこうではないか」
「はーい」
そして再び歩き出した直後、テフラが戦闘体制を取った。
「お2人共っ!」
「≪魔弾≫!!」
ユリの手元に魔法陣が展開され、そこから魔力の弾がいくつも連続で飛び出す。
ドドドドドドドドッ!!!!
巨大な鹿に魔法が着弾し、鹿は唸り声をあげる。
「グォォォォオオオオッッ!!!」
怯んだ鹿の元にテフラが駆け出して、その首を掻き切った。
「お、おぉ。2人共、反応早いなぁ…」
「ユリさん、私より早くなかったですか?」
「この鹿、スキルを発動しようとしとったからな」
「てか、今の連射も凄いじゃん」
「ふふん。詠唱がいらないからな、編み出したのだ。3発目だけは詠唱が乗っかって強いのが撃てる」
「魔力切れるまで無限に出せるの?」
「いや、それがそうもいかなくてな、集中を持続させなくてはならんから」
「いつの間にそんな練習してたんですか?」
「暇なときにちょいちょいと。魔障壁で練習しておったで」
「あぁ、その辺の扱い一緒なんだ」
「微妙に違うが、まぁ似たようなもんだでな」
それから魔弾の最大連射数を記録しておこうとママルが言い出し、
マジックポーションを飲みながら数回チャレンジした結果、16連射まで出来たのだった。




