表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

63/181

62.グレムズ

「なんかさ、こないだのユリちゃんじゃないけど、思ってたより良い人って多いね」

「解ります。やっぱり人が集まってる場所ほど、問題が多い気がしますね」

「そうだな…」


翌朝、イーツの村を発って歩いている。

この辺りはもう道がある様な景色では無くなっているが、

芝生のような背の低い草原が広がっているだけで歩きやすい。

右手方向の先には木々が生えてきている。


「ユリちゃん、まだ具合悪い?」

「いや、気分が悪いという事はないんだが、なんか、ちょいっと、ふわっとしとる」

「足取りとか、なんかちょっと不安だなぁ」


ママルがそう言うと、テフラがユリを肩車した。


「おわぁ!」

「ふふふ」

「せ、せめて負ぶってくれ!」

「まぁまぁ、いつもと見る高さが変わると、結構楽しいらしいですよ」

そう言われて、ユリは改めて周囲を見渡した。

「ぬおっ…た、高い…」

「せっかくだし、ちょっと速度を上げましょうか」

「いいね、俺も最近少し慣れて来たし」

「ちょ!ちょい!お主ら!」


最初必死にテフラの頭にしがみ付いていたユリだが、

5分程したら、もうキャッキャとはしゃいでいる。


「うおおお!!フローターよりも速いではないか~~!!」

「楽しそう」

「ふふふっ」



「いつの間にかアルダイト山脈が近いのう」

「アレがそうかぁ」

「そう言えば、(ふもと)といっても広大ですが、何か当てがあるんですか?」

「ディーファンから東に行った先のアルダイト山脈、かつ、

おそらく国内だと考えれば、それほど範囲は広くないはずだで」

「なるほど」


アルダイト山脈は、シェーン大森林の北側一帯を含み東西に延びており。

その西側の麓に当たる部分に向かっている。

その麓は南北の距離はそれほどではなく、その6割程度を過ぎたあたりでシーグランとの国境になる。



「広くないって言っても、広いでしょ?」

「まぁそうだが、人の出入りがあるとするならば、近づけば手掛かりはあるだろ」

「サーチスネークのアジトを見つけた時も、そんな感じでしたね」

「そういうわけだ」

「なるほど。あれ、もしかして、このまま山脈沿いに南に下って行けば、アルカンダルの方に行くのか」

「人攫いとかもやっとる盗賊なら、結局売り先になる街へ行く必要があるという訳だな」


「……今回、私1人で行かせてもらっても良いですか?」

「…………理由を話してくれるか?」

「なんか、この辺の景色、見覚えがあるんです」

「そ、それは…」

「ふむ、そうか、もうお主なら大丈夫だと思うが、悪意に飲まれるでないぞ」

「はい…」

「基本任せるけど…、後方から見守りますからね、流石に」

「解りました」


山肌はほとんど岩のようになっていて、その岩壁に沿ってしばらく歩くと、

地面の草が禿げてきているのが解った。


一見すると何もない壁を通り過ぎると、テフラが反応する。

急に、人や水の匂いが流れて来たと。

振り返ると、岩壁に人が通れるような隙間があるのが解った。

来た方向からでは見えない角度になっている。


テフラを先頭に、いくらか恐る恐ると言った感じで踏み込むが、自然の洞窟の様にも見える。

だがそこからほんの数メートル進むと、今は火の灯っていない松明や木箱など、

明らかに人の手が入った形跡が見えた。



それから少し歩くと、奥から自然光が入って来る。

先を急ぐと辺りが開けた。空が見える。洞窟を抜けたようだ。


岩山をほぼ円形にくりぬいた様な地形は広く、小川が流れていて、

そしていくつかのテントが張ってあるのが見えた。

加えて戦闘の痕跡も見受けられる。


「完全に人がいるね…」

「今いるかどうかは解らんがな…」

「…いえ、あそこの一番大きなテントから、話し声が聞こえます」

「お主、そんなに耳が良いんだな」

「内容が聞き取れるほどじゃないですよ。では、お2人は逃げ出す奴とか、他のテントを見張っておいて下さい」

「何かまずそうだったら、すぐに呼んでくださいよ」

「はい。必ず」



テフラが1人、大きなテントへ、あえて正面の入り口から堂々と入って行く。

ここは敵の拠点だ、裏を掻こうとすると、罠等にかかってしまう可能性があるが、

正面戦闘ならば勝てる自信がある。


テント内には8人の男たちが見えた、その中でボスと思しき男が声を出す。

「!おい、なんだてめぇは…」

「お前らはっ…!」

(こいつらだ、間違いない!私の村を襲った奴らだっ)


テフラに、当時の恐怖が蘇る。

家々が焼かれ、皆が叩きのめされ、連れ攫われ、何人も殺された。

はっきりと顔を覚えているわけではない。

それでも、脳裏に焼き付いた景色と、目の前の男たちの姿が重なる。

だがその恐怖ごと、怒りが感情を塗りつぶしていく。



「攫ったワーウルフとワーキャット達はどうした……」

「あぁ?はっ、てめぇはあん時の奴か。

逃げ出してきたのか?そんでわざわざ俺達のとこに帰って来たって?」

そのボスの言葉を受けてか、部下たちが騒ぎ出す。

「ははは!バカじゃねぇのかっ、まぁもっかい売れるって考えたらありがてえ話ですね」

「この辺りじゃレアもんだからな」

「こんなとこまで来て、無事で済むと思うなよ」



「……質問したんだが、耳が聞こえないのか?」

「なんだぁ?舐めてんな。いちいちどこに売ったかなんて覚えてねぇんだ。

とりあえず、ちょっと大人しくしてもらうぜ」


盗賊達は、それぞれ武器を手にして、ニタニタと笑う。

そして奥に居た1人が、テフラの肩に向かって手斧を投げつけた。

「≪狙投撃≫!」


テフラは投げつけられた斧を片手で掴み取り、

投げて来た盗賊にそのまま投げ返すと、頭に手斧が突き刺さった。


「体を狙ったつもりだったんだけど…、まぁいいか」

「!!てめぇら!ぶっ殺せ!!」

ボスは相手の戦力を見誤った事を即座に判断して檄を飛ばすが、

結果は変わらなかった。


盗賊7人の死体が転がり、

ボスは右腕と右足を負傷して尻もちをついている。


「攫った人たちはどうした」

「ちょ、ちょっと待ってくれ!…そ、そうだ!アルカンダルの奴隷商に売った!」

その言葉を聞いた瞬間、テフラは盗賊の左足首を思い切り踏み抜く。


「ぐあっ!!あぁぁぁ…!!!」

「アルカンダルの方に売られたのは、私とコヤコの2人だ。言ってる意味は解るな?」

「うぅ!ぐうう……他の大人はシーグランの奴隷商…どの街かは知らねぇ…、

が、ガキ共は、あいつらに、売るはずだった…」

「…残った左腕もダメにしたいのか?詳しく話せ」

「じ、呪術師に売る手筈だったんだよ!!でも、竜人が来て、攫われちまった!

こんな情けねぇ事、簡単に言える訳ねーだろうが!クソ!!!」

「竜人………何者だ」

「変人だよ!!山に住んでる、聞いた事ねぇか?

俺はてっきり、ただの噂話だと思ってたけど、いやがったんだよ!」

「攫われた時の事を、詳しく話せ」

「急に現れたんだ…それで、俺達は殆どやられちまった」

「どんな奴だ、どこへ行った、良いから知ってる事を全部話してっ!」

「お、ゴツイ竜人の男だ…!!行先はしらねぇけど、山に帰ったんじゃねぇか…。

他は知らねぇ!本当だ!!」


「………噂話と言うのは」

「山暮らししてる、むちゃくちゃ強え竜人がいるってだけだ!

もう良いだろ!!もうグレムズは終わりだよ!!クソぉ!!

なんだってこんな奴らが続けて出てくるんだよ!!畜生!!!!

立て直そうって、少ない仲間達で頑張って行こうって話してたのによぉ!!」


グレムズのボスは、体の痛みと、本当に悔しいと言う面持ちで、

目に涙を滲ませながら叫ぶ。


「……なんだそれ」

「な、なんだよ………」

「どこまでも自分の事。こんな状況ですら。私たちに謝罪の一言も浮かばないんだな」

「い、いや!違う!すまない!!違うんだ!!」

「チッ…もういい」

「やめてくれ!話しただろ!何でもするぅ!!!」

テフラは軽く飛び上がると、≪廻穿脚≫で盗賊の頭部を踏み抜いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ