61.イーツ村
「ここがイーツの村かな」
「おそらくそうだな」
「宿なんかなさそうな雰囲気ですね」
ボロ屋が十数件と、畑が並んでいるだけの村を見て、
それでも泊まれる場所があったら野宿よりは良い筈と、
とりあえず人を探して村内に入った。
ほとんどの村は、野生モンスターから自衛するために、
柵や罠で囲い、武器を使える人がいることが基本だが、
ボロボロな木の柵で本当に守れているのか、一行は不安に思う。
一軒目の家の扉をノックした。
「すみませ~ん、旅の者ですが~、どなたかいらっしゃいますか~?」
ママルが声をかけるが返事はない。
扉に手をかけて見ると、鍵もなく開く事が確認できた。
「あれ、開いちゃった、すみませ~ん!」
「あ~?!誰だ~!」
(人いるんかい!)
奥から現れたのは老爺だったが、その体つきから鍛えられている事が解る。
「あ、すみません、旅の者ですが、この村に宿とかありますか?」
「あぁ?随分珍しいな。宿なんかねぇぞ」
「あ、そ、そうですか…」
「いや、ある」
「え?」
「忘れてた、民宿をやってたはずだ、2軒先のクノリって婆さん家だ」
「あ、ありがとうございます」
ママルはペコリと会釈をして、その場から立ち去ろうとすると、
ユリが老爺に話しかけた。
「なぁお主、この村はその、大丈夫なんか?」
「あぁ?」
「いや、失礼を言っていたら申し訳ないがの、その、自給自足できるほどの規模にも見えんし、守りも随分薄いように見えたのでな」
「あぁ~。まぁ、若者は知らんか」
「と言うと?」
「……爺の昔話に興味があるのか?…折角だ。ちょっと上がってくか?」
そう聞かれたユリ達は、3人で目を合わせてから、老爺に向かって頷いた。
「お~~~い!!婆さんや!!客だ~~~!!」
「!!」
(急にでかい声だすからビビっちまった)
「ま、上がってくれ」
「お、お邪魔しま~す」
通されたリビングで、それぞれが椅子に座るが、4脚しかない。
「皆様は、どうぞ」
テフラに促され、一瞬いやいやどうぞどうぞの合戦が始まりそうな気がしたが、
背の高さ的にも、目線を合わせるならこれが最適かと思い直して、大人しく座った。
「はい、どうぞ、お茶です」
「ありがとうございます」
「あんがとな」
「助かります」
お茶を持ってきた老婆がテフラに茶を渡した時、1席開いている椅子を見て声をかける。
「あら、お客さん立たせるなんて出来ないわ、お掛けになって」
「ご老人を立たせておくなんて、もっと出来ませんよ」
「でもねぇ」
「………では、こうしましょう」
気づけば、ママルはテフラに抱き抱えられる形でその膝に座っていた。
(俺はぬいぐるみか何かか!いや、なんか、かなり良いけども)
「よし、じゃあ、この村の事についてだが」
「ふむ」
「この場所は、昔は前哨陣地だったんだ」
「いつ頃の話だ?」
「確か…、10年くらい前か?」
「位置的に、シーグランか」
「…お前ら…どっから来たんだ?何も知らんのか?」
「知らん。正確には、何を知らないのかも知らん。
わしらは、そう。外界と隔離されたような村で育ったものでな」
「…この大陸の国については?」
「ここサンロックと、北のシーグラン、その東のグラスエス。
どれも、少し言葉で聞いたことがあるだけだで」
「サンロックが、ほとんど森と山脈に囲まれてる事は?」
「一応、地図を見て知ったわい」
「南の険しい山々の中には、ドワーフの国、ダーントがある。
シェーン大森林を東に抜けると、オーガの国、テンザン」
「えっ、そんな感じだったんだ…」
「で、確かにここはシーグランとの国境付近だが、
戦があったのはその隣、グラスエスとだ」
「シーグランを挟んで戦ったんか?」
「グラスエスからサンロックまで、ほぼ草原だけで通れるルートがあるらしいんだが、それをシーグランが一時的にグラスエスに明け渡した、と言われてる」
「…どういう事だ?」
「グラスエスは、昔はエルフが住む小国だった筈だ、だが攻めて来たのは人間達だった。それ以上の事は解らんが」
「あぁ、ルゥの両親。わしらのエルフの知人なんだが、
グラスエスを捨てて逃げて来たと聞いたことはある」
「やっぱりな、どこの国かは知らんが、もう人間が占拠してるんだろ。
それでシーグランとの間で、何らかの取引があった筈だ」
「まぁ、そう考えるのが自然ではあるか…。シーグランからしたら、もしグラスエスが勝ってたら、両隣を取られることになる、それに助力したんだものな」
「ちょっと本題からズレちまったな、それでまぁつまり、戦ったわけだ。
結局はこっちが追い返す形で終結したんだけどよ」
「なるほどの」
「何が言いてえかって言うとだ、未だにこんな所に残っている奴らは、鍛えられてるって事よ」
「あ、お爺さん強そうですもんね」
「俺ってか、全員だ、今村人はたった21人だが、全員強え」
「それは凄いのう」
「以前、城側から何度も甘い言葉で誘われたが、それでも残り続けた変人の集まりだがな、ガハハッ!」
サンロックは、戦闘スキルを持ってる人を殆ど徴兵していて、
実際それ故、国家としては強くなっていたが、城側と一般の民との格差が広がっていた。
もしかしたら、この2人にも子供とかが居たのだろうか。
そして、もしかしたら、城の兵士とかになっていたのだろうか。
ママルはそんな事を思ってしまったが、怖くて何も聞けなかった。
「ま、だから、野生モンスターが来ても返り討ち、と言うかむしろ、
いい食い扶持になってるってワケだな。食えるもんは食うし、
たまにくる行商人と取引したりな」
「えっと、すみません、人の能力を見る魔法があるんですけど、使っていいですか?」
「ほう。やってみせろ」
「失礼して、≪アプライ:鑑定≫」
●人間:斧術士:ジェイド Lv58 スキル不明 その他詳細不明
●人間:魔法士:ミト Lv59 スキル不明 その他詳細不明
「何が解った?」
「えっと、お爺さんが斧術士、お婆さんが魔法士、確かに強いですね」
「おぉ、便利な魔法だな。というか、よく見るとお前らも中々強そうだ」
「あ、ありがとうございます」
「こいつの魔法がまたおっかねぇんだこれが」
「あら、やめてよ~」
「ははは」
「お2人は、仲が良いですね」
「あら~、そう見える?」
「よせよ。しかしもう結構暗くなってきたな、民宿に行くならそろそろ出るか?」
「そうですね」
「ジェイドさん、連絡してきて頂戴、私はもうちょっと皆とお話ししたいわ」
「あぁ~………、お前らはどうだ?」
「え、その、はい、では」
「わしももうちょい話したいな」
「ちっ、しょうがねぇな。あ、アレがあっただろ、俺が戻るまでに準備しといてくれ」
「あら、随分ご機嫌なのね」
「うるせぇなっ!じゃあお前ら、もうちょいゆっくりしていけ」
数分してジェイドが戻る頃に、テーブルには古酒が用意されていた。
「チビっちゃいの!お前飲めるのか!」
「あ、はい、こう見えてもちゃんと大人なんですよ」
「へ~、面白いわね~」
「これ美味しいですね、何で作ってるんですか?」
「おお!お前もいけるクチか!これは確か、芋だっ」
気づけばユリ以外が出来上がってきていて、ユリは少し不満気だ。
「嬢ちゃんはいくつだ」
「わしか?14だが」
「じゃあもう変わらん!飲め飲め!別に違法ってわけでも無し!」
「………じゃあ…少し…だけ…」
「えっ、行くの?やめた方が…」
ユリは小さいグラス一杯を、そのままグイと口に含んだ。
「あっ!そんな一気に飲む物じゃ!」
「……うっ……く………………ふあ…」
その後フラフラになったユリを、テフラが負ぶって民宿に向かったのだった。




