59.アフタートーク
約3週間が過ぎた。
結果として、元々5千人以上いたらしい人口から20分の1程度の住民が発見され、
住民の意見を纏めて、ディーファンの街は縮小し継続する事になった。
城から派兵された兵士達が、空き家から物資をすべて回収し。
それらの資金でもって援助するとシモンヌが約束したらしい。
ちなみに派兵された兵士達の中には、元ヒポグリフのメンバーだった者も居て、
兵士となる者を熱心に募集していた。
ディーファンの領主は既に亡くなっているため、暫定的にシモンヌの領地とされたらしいが、
シモンヌは、そもそも貴族と領地みたいな話自体なくなりそうだと言っていた。
「そろそろ、出て行った方が良いね」
「そうだな、お主の食料を当てにする者達も出始めてると聞く」
「無限じゃないと伝えてあるはずなんですが、まぁ状況的に仕方ないのかもしれませんね」
「まぁ、人とはそういう物なのだな、良い面も、悪い面もある」
「えっと、とりあえずデックさんが街の代表的な役割だったよね、伝えて来るよ」
「じゃあ私が行って来ますよ。多分私が一番、引き止められにくいと思うので」
「え?あ、ありがとうございます」
「……すまんな、頼んだ」
「では」
「わかるか?」
「何が?」
「はぁ…。まぁそこがお主のよいところではあるが」
「えっ、何…」
「テフラが引き止められにくいと言ったのは、獣人だからだ」
「え、一応、俺もそうだと思うけど」
「お主は見た目がワーウルフと比べて人間に近いからな」
「え…いや、そうか…そっかぁ」
「ま、実際ここの民達にどう思われてるかなどは解らんが、
テフラはそう思われるのが当たり前だと思っとると言う話だな」
「そっか。はぁ、ほんと…」
「…すまん。いらない事を言ったかもしれん」
「いや、いいよ」
「……そういえばさぁ」
「どうした?」
「聖堂があったって事はさ、なんていうか、そういう宗教的なのがあるって事だよね」
「そうだな」
「なんか知ってる?」
「知らんが、名は知っとる。モスマン教だ」
「モスマン…え?モスマンって、あの?」
「あの、が何を指してるのか知らんが、蛾人間のモスマンだ」
「え、いるの?モスマン」
「さぁな。いないから崇めとるんじゃないか?」
「あ~…」
「そこそこメジャーらしいぞ」
「ま、まぁ、良いんじゃないかな…あっ、てかさ」
「ん?」
「スキルって何なんだろうって、まぁ前からずっと思ってる事だけど」
「さぁな」
「色々知るほどに、なんでもありすぎない?」
「まぁ、そうと言えばそうだな」
「同じ呪術師でも、全然使える魔法も違ったし」
「まぁ、例えば黒魔術でも、火系統と水系統では全く違うと思うが…いや、というか……」
「というか?」
「お主がそもそも呪術師というクラスである確証は無いんでないか?」
「えっ、いや、呪力を使ってるって、皆言ってるし」
「だからと言って、という話だ。アプライは自分に使えないんか?」
「出来ないんだなこれが」
「じゃあただの自称だな。自称呪術師」
「なんかそれ嫌だな」
「ついでにレベル250とかいうのも自称だでな。
まぁレベルに関してはそもそも、全部お主が言っとるだけだが」
「や、やめてくれ~~っ」
「はっはっは」
――
「姐さん方~」
「ん、テフラと、パンラムではないか」
「デックさんと話していたところを見つけたので連れてきました」
「南の方に行ったとばかり思っておったぞ」
「アルカンダルにも行きましたよ!でもここディーファンで何か起こってそうだと聞いて来たんですよ」
「何か新しい情報でもあるの?」
「ありますぜ!!買いますか!」
「とりあえず、何の情報か教えてよ」
「サンロックの新国王です!」
「シモンヌだろ」
「えっ!あ…、はい。折を見て元国王の訃報と同時に発表されそうです…」
「他には?」
「ハルゲン村ってとこで行われてた、怪しい実験の話が」
「わしが送った書類の話だな」
「え…」
「他には?」
「フォルネルって街が、放棄された話は…」
「お、それは知らん、買った」
「お!いやあ!私の情報網も中々でしょう!良かった良かった!」
「いくらだ」
「では、大型銀貨1枚のところを、小型2枚でどうでしょう!」
「…高くないか?」
「えー…」
「いやそれで良いよ、ただ、パンラムさんのスキルの事も教えて欲しい」
「………嫌ですが、良いでしょう」
「どういう事?」
「手札を晒すのは、普通に危険ですよ。でもまぁ、あなた達の事は信頼します、という事です」
「あぁ、ありがとう」
「おほん。ではまずフォルネルですが、あそこは元々魔道具の開発が盛んでしたが、そこのお偉いさん、学者のインザルって人が城に来て話してたらしいんです。
街の中に不審な魔法薬製造場があったって。しかもそこからアルカンダルの城に送られてたと」
「ほう…」
「だから、関わった人物等の調査をしていたら、化け物達に襲われて、街がぶっ壊されちまったとか」
「化け物…?」
「なんでも、亜人達の死体が暴れまわってたとか、ゴブリンとかコボルトとか」
「コープスか…、ってかゴブリンとかいるんだ」
「なんですか?コープスって」
「動く死体、なんていうか、そういう兵器だね」
「うへぇ…、あいや、それで、避難した住民を周囲の街や村で受け入れてくれって、そしたら、アルカンダル自体人口不足だから、全員アルカンダルで受け入れるってなって」
「あぁ、街に出入りする者の中に、そう言った者を見かけた覚えはあるな。今なら、ここディーファンでも受け入れられそうだのぅ、こっちの方が近いしの」
「確かに…。あいや、それで、肝心のインザルとその一派は貴族として受け入れろって言いだしたらしくって、でも貴族自体無くなりそうだって話もあるでしょう?城では均しって呼ばれてましたが」
「均しか…でも王政は続くんだよね」
「代表は必要ですからねぇ、それで、そしたらインザル達はどっか行っちまったらしいです」
「いかにも怪しいですね」
「ですね」
「その亜人達はどうなったのだ、街を占拠しとるんか?」
「なんか、気が付いたらいなくなってたらしいですよ。まぁ、そもそもそんな状況で街中の動向を観察する物好きなんて、居なかったと思いますが」
「ふむ、いや、大分有用だ。中々やるではないか」
「ありがとうございます!!あとは、私のスキルですけど、
前に話した≪速足≫≪ヘイトロス:敵視外≫、それと≪健聴≫だけですよ」
「速足は足が速くなる、健聴は耳が良くなる。だと思うんだけど、聞きたいのはヘイトロスについて」
「どうぞ」
「敵視されなくなる、で合ってる?」
「ん~。例えば、私が今あなたをぶん殴ったとして、そしたら怒るじゃないですか」
「そりゃそう」
「そしたらヘイトロス使っても意味ないです。なんていうか、わざわざ狙われる、という事がなくなるというだけで」
「なるほど…」
「だから野生モンスターなんかも、例えば空腹で襲ってくるような奴からは、普通に襲われたりします。ただこういう場合は、餌を出してヘイトロスを使えば逃げられる、という感じですね」
「ふぅむ」
「お主は何をそんなに気にしとるんだ?」
「いや、完全に敵視を外せるとしたら、不特定の対象の精神に完全に干渉してる事になるから、実はやばいスキルなんじゃないかと思ったんだけど、まぁちょっと違ったみたいだね。周りをどうこうするんじゃなくて、自分の見え方を変える、ユリちゃんの結界みたいなやつだ」
「…なるほど、お主の≪アンガー:憤怒≫の逆版、それを範囲指定もなく長時間発動してると思った、的な事か」
「そうそう」
「魔法って難しいですね」
「結構面白いですよ、まぁ俺も良く解ってないですけど」
「こんな感じで、大丈夫ですかね?」
「大丈夫、ありがとう」
「今後とも御贔屓に~」
「結局あれからメイリーさん見てないなぁ」
「生きてるからこそ見つかってないのだと思いましょう」
「だな」
「…そうですね」
「ってか、やっぱり生きてた人達の数考えたらさ、
なんか、モンスターになる方は結構簡単に変異しちゃうんだねぇ」
「先に薬やらで攻撃衝動を与えられて、実際に暴力等をふるっていると、
肉体と精神が同じような事を望むから、それでスキルが発現しやすい、
と言う風な仮説を考えておった」
「なるほどねぇ…。死体も出来るだけアプライしたけど、そう言えば確かに、普通の人は基本的に攻撃スキルがないけど、モンスターは大体攻撃スキルっぽいの持ってたような気がするな…」
「結局、今回の相手がモンスター化騒動の大本の様な感じはありましたが、
フォルネルの件を聞くに、魔法薬製造場はすでに証拠ごと消されてそうですね」
「そうなんですよねぇ…。まぁ、結局色々動いて行くしかないって感じかぁ」
「よし、では、盗賊団グレムズのアジトに行くか」
「だね」
「行きましょう」
「国境付近になるな」
「そうなんだ」
「シーグランですね、行った事はありませんが」
「わしも」
「俺も~」
「グレムズを片付けたら、行ってみるか」
「そんな簡単に行けるの?」
「解らん」
「行ってみるって、そういう事か、良いんじゃない?」
「フォルネルも気になるが、わざわざ足を運ぶ程かと言われるとな」
「まぁ、解る」
「暫く徒歩ですしねぇ」
「また野宿もありそうだなぁ」
「テントを貰っといたぞ」
「まじ?良いね~」
「お主が今背負っとるだろ」
「まじ?良いけど」
読んで頂きありがとうございます。これで第5章は終わりです。
一か所での話としては、気づけば一番長くなってしまいました。
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