57.VSクァダバル
「オルゥァ!!」
ママルは大聖堂のドアを蹴破ると。中には大きな肉塊が一つ鎮座していた。
そして、その更に奥の方から男の声が響く。
「あぁ!来ましたか!丁度そろそろ探しに行こうかと思ってたんですよ!」
「やっぱりてめぇがいやがったか…」
ママルは、前回大量の人殺しをしたアルカンダルでの記憶や、
もしくはアドルミアで暴言を吐いていた記憶に習い、
半ば無意識にこのような口調で話している。
「私はクァダバルと申します。ちゃんと覚えて下さいよ。
これからもっともっと、恨んで憎んで、恐怖する相手なのですから」
「しょうもねぇ…」
「あのワーウルフは連れてこなかったんですか?」
「うぜぇなぁ、俺一人で十分だろ」
「まぁまぁ、折角なんで話しでもしましょう、私ね。今気分が良いんです」
「はぁ?……言ってみろ」
(聞きたくもないが、何かしらの情報を勝手に出してくれるというなら、
一旦従ってみるか…それに、時間を稼いだ方が良い)
「そこの肉塊、コープレックスと名付けました。複数体の死体の融合がついに出来たんですよ!やはり、精神の融合は不可能でした、だから、上位存在を含める必要があったんです!」
「コープスか…」
「あぁ、そういえばアルカンダルの方から来たんでしたっけ。
納得、納得。なるほどぉ」
「…何が」
「レッサーではないコープスを色んな所に放置したりしてるんですが、
トワイト付近の奴が倒されてたって聞いたので。アレあなた達でしょう」
「…多分な」
(あのスキルを使うコープスの事か…だとすると、ハルゲンに居たのがレッサーコープス?)
「まぁ、あの世代のは結局、徘徊するだけで自動侵攻しない失敗作でしたから、
どうでもいいんですが、いやぁスッキリしました。そうそう、それで」
「ペラペラと…良いのか?そんな事教えて」
「良いんですよ、私が勝つんですから、それにコープレックス等、
やはり自分が頑張った成果というのは、誰かに話したくなるものです」
「ってか死体に拘りすぎだろ…」
「……あなた、馬鹿なんですか?」
「あぁ?」
「ふぅ…ふっふっ。今、この世界で最も強力な力、それは呪力です」
「まぁ、そうかもな…」
「我々は、呪術に気づき、生みだし、発展させている。
その情報を複数の国に流すんです。勿論教えて良い部分だけですがね。
するとどうなるか解りますか?各国で呪術の研究が進み、
やがて呪術による戦争がはじまるのです。
これまでの戦争とは比較にならない規模になるでしょう」
「……………」
「そこでコープスです。戦争で死体が増えるほどにコープスの数は増える。
しかも呪術無効!正に天敵!!そして我々は、以前の光によるコープスの制御方法ではない、完全に操る術を!既に持っている!!!
解りますか!!正に!あなたの様な存在こそが!我々の養分になるのです!!
さあ!絶望しましたか!!私に楯突いた事を、存分に後悔するがいい!!
コープレックス!!屍肉のクァダバルが命ずる!殺せぇ!!」
すると突如コープレックスが大きく膨れ上がった。
「≪バニシック:燃焼≫!」
咄嗟にクァダバルを狙って魔法を放つが、やはり何も起こらない。
「馬鹿め!!すでに契約は済ませてあるんだよ!!」
コープレックスから、一本の腕が生える。
よく見るとその腕は、いくつもの腕が絡み合って出来ていたし、
肉塊だと思った物には、いくつもの目と口が付いていて、
それらが開く事によって確認できた。
「ぶアでぇ!!≪殴打≫」
長い腕が初速から最高速度で振り下ろされ、ママルに直撃する。
上からまともに衝撃を受け、ママルは足が床に埋まった。
コープレックスから更にいくつもの腕が生える。
「べあァグ!!!≪乱打≫」
ドドドドドドドドド!!!!!!!!
「す、素晴らしいパワー!速度!!雑魚50体弱でこれなら、もっともっと集めて作れば!!」
コープレックスのスキルが終了した時には、
ママルが居た場所は、もはやクレーターの様になっている。
「ま、まだ死ぬんじゃないぞぉ?お前はもっともっと苦しめてから殺さないといけないんだ!コープレックスを作るのに、私の左前腕を使ったんだぞ!
お前は、苦しめて苦しめて、呪力を溜めさせて、そしたら端から刻んで素材にしてやるんだからなァ!!」
「≪マジックスフィア:魔力球≫」
ボグッ!
クレーターの底から、ママルが放った魔法がコープレックスに直撃すると、体の中心部が半球状に抉れる。
クァダバルは一瞬何が起こったのか解らなかった。
「え、は?」
「≪セカンドマジック:魔法ヒット数+1≫≪マジックスフィア:魔力球≫」
ボボンッ!
コープレックスの抉れた箇所が、更に二度抉れる。
「グゥォォォオオオオッッ!!!」
「≪マジックスフィア:魔力球≫」
ドギュッ!
「な…なんっ!」
「コープスってよぉ。死んでるのに動くじゃん?そっからもう一回死ぬって言うか、動かなくするには、結局頭と体を分断するしかないじゃん」
「ただの、魔力の、塊…?」
「こいつはどこが頭なんだ?」
「じゅ!!呪術はどうしたァ!!!!!!!」
「≪ラージマジックⅥ:魔法範囲超拡大≫≪マジックスフィア:魔力球≫」
未だ体積は半分くらい残っているコープレックスだが、
今の一撃で完全に動きが止まったようだ。
「じ!≪呪詛・宍陀混・反転≫!!!」
クァダバルからママルに向かって魔法が唱えられる。
「………ふふふっ」
「≪反転≫!!≪反転≫!!≪反転≫んん!!!!」
「ふふっ、ちょっ、やめっ。腹をグリグリなぞられてる感じで、くすぐったいんだけど」
クァダバルは、正にブチッ!という擬音が似合いそうなくらいにキレた。
「ふっ!!!!!ふざけるなぁ!!!!!来い!!コープス軍団んんん!!!!」
すると、クァダバルの後ろにあった扉が開く。
姿を現したのは、テフラ1人だった。
「こいつらは倒しても、スキルは封印されなかったですね、ママルさんはどうですか?」
「あ?!あ~~~~!!!???い、いつ!なんで!!!」
「多分大丈夫ですが、じゃあ、クァダバルつったっけ、お前で試すか」
待機状態のコープスは、ただ突っ立って居るだけ。
簡単に殲滅することが出来た。
「ふっ!!ひっ!!」
(やばいやばいやばい!私が使える死体は、精神がまだ残っている状態の物だけ。
倒されたコープスのは使えない!!完全にゴミ!!!
転移魔法も使えない!!クソ!まずい!!)
錯乱したクァダバルは、ママルに向かってトランサーを投げつける。
「お、お前さえいなけれぶあ!!!!私1人でも勝つるんど!!!!!!」
続けて2個、3個と投げつけると粉塵が舞うが、
「お、テフラさん、やっぱ大丈夫だよ、このマスクでちゃんと防げてるっぽい」
「よ、良かったです…、でも避けて下さいよ…」
「それが出来たら良いんだけどね…」
「ん!んんんんん!!!!あああああ゛あ゛あ゛あ゛ぁぁぁ!!!」
クァダバルはドンドンと地団太を踏み鳴らした。
「≪バニシック:燃焼≫」
ママルの魔法はようやくクァダバルを捉え、その皮膚を焼いていくと、
全身の皮がズルリと剥がれ落ちた。
その前後で、まるで別人のように人相が違っている。
「は?脱皮?」
クァダバルは、予め人間の皮を継ぎ接ぎした呪具を自らの一部として被る事で、
いざという時の呪術への防御策を講じていたが、
たった一発の魔法で駄目になってしまった。
「ひああああっ!!」
クァダバルは逃げ出した。
全ての策が、あっけなく潰された。
ママルへの怒りはすっかり忘れて、恐怖に塗り潰されている。
一刻も早く逃げ出したい、そう思って全速力で駆け出した瞬間、
両足のアキレス腱を切断され、床を転がる。
「い゛ぃっっづぁ……!!!!」
「どうして逃げるのよ」
這いつくばるクァダバルの背後には、メイリーが立っていた。
「や…やめ…」
「モンスターは、ちゃんと殺さないといけないのよ?」




