54.呪詛
「うっ…うぅ…うぅ………」
「…メイリーさん、その…、大丈夫ですか?」
「私は、…………私が、蛆虫だった…私が」
「これ、飲んで下さい、顔の傷、酷いから」
そう言って、ママルはハイポーションを差し出す。
「………………」
メイリーは横に寝たまま、ポーションに手を付けないどころか、
微動だにせずその場でしくしくと泣き続けている。
「メイリーさん…」
「あの、ママルさん、その、一応、確認しておいては?」
「あっ、そう、ですね」
そしてママルは、2人の死体へ向かって≪アプライ:鑑定≫を唱えた。
●モンスター:人間:黒魔術師:ブランド Lv66 スキル:アーソン イグニ フレマティ リレプス etc…
黒魔術師集団グリッチャーの一員。あらゆる生き物を燃やす事が悦びとなり、その結果炎系黒魔術を多数習得している
モンスター化している
火耐性(強) 弱点:水
●人間:黒魔術師:トーチ Lv66 スキル:ウィーク リナクト トラマト クラッシュ スティム etc…
黒魔術師集団グリッチャーの拷問監。他者を痛めつける事で発生した呪いを獲得しスキルにしている
呪耐性(弱) 弱点:正
(この詳細?生態?の奴、どういう基準で解るんだ…?でもおかげで、スキル獲得の方法が少し解った気がする…、てかグリッチャーてこいつらか、ハルゲンで見た、仕入れ先リストに名前があったはずだ。……弱点が正ってなんだよ…そういう属性…?解らん…)
メイリーの口元にポーションを含ませた。
顔の傷は消えて行ったが、特に深い傷の痕は残ったままだ。
「その人…やっぱりママルさんは助けるんですね」
「……ごめん」
「いえ、むしろなんていうか、少しホッとしました」
「えっ。どうして……」
「私がこうなってたかも、なんて事を、少し考えてしまっていたので…」
バァン!!!!
瞬間、分断されていたブランドの下半身が爆ぜた。
一体何が起こったのかと2人が驚き目を向けると、そこに1人の男が立っていた。
「な!んだお前!どっから!」
ママルとテフラが戦闘態勢をとる。
「見させて貰いましたよ」
(なんだ?こいつ…異様な雰囲気だ。なんと言うか、顔もどことなく不気味な…)
「確かに呪力だ、おかしいなぁ」
「な、何を言ってる?」
「いえね。あなたの魔法、あれが呪術だなんてと思って、確認しに来たんですが。
この眼には確かに呪力を纏ってると映っている…興味深い」
「どういう…意味だ」
「ふむ……。カエンタケというキノコを知っていますか?」
「は?……」
「触れるだけで強烈な炎症を起こす、非常に毒性の強いキノコです」
「それが何だ…」
チラとテフラさんの方を見ると、少し様子がおかしい。
「ママルさん…スキルが、使えません…」
「あぁ、あなたに暴れられると面倒ですからね。先手は打たせてもらってますよ」
(スキルが?そういう、封印や縛り系のスキルとかをこいつが使ったのか?
でもそんな素振りは…)
「テフラさんは、下がってください…」
「それでですね、炎症とは別に、麻痺性の毒というのも存在するわけですが、
つまりあなたの魔法、私の目にはただ毒を撒いているようにしか見えない訳です。
言ってしまえば、毒術師ですね」
「…だからなんだ、何が言いたい?」
「呪術、つまり呪いが、どうして目に見えるのか。あなたの魔法の話です。
霧みたいな物を撒いて…。だから、今使って貰っていいですか?私に」
「…は?」
「ほら、お願いします、バニシック?でしたっけ。それをお願いします」
(なんだこいつ…アホなのか?いや、そんなハズないか…。
俺の魔法の情報を得ようとしているのは確かだ。これは罠…)
「………≪アプライ:鑑定≫」
●モンスター:人間:呪術師 Lv120 体眼 その他詳細不明
「おっ!今のは!呪術ですか?!いや、でも呪力が全然感じられない…。
やっぱりハズレかなぁ…ちなみに、何したんですか?」
「い、言う訳ないだろ」
「はぁ、まぁいいや、攻撃魔法ですよ、やってください」
「………」
(どうするべきだ…レベル的には勝てるとは思うけど、言うとおりに攻撃するのは流石に…)
「あなたが…、この街をこんなにしたの…?」
ママルが迷っていると、メイリーがゆらりと立ち上がった。
「そうですけど。今あなたはお呼びじゃないんですよ…」
「≪糸蜘血≫!!」
メイリーが、突如ナイフを投げつける。
だが男は寸前で上体を反らして回避した。
ナイフには真っ赤な糸が絡まっていて、即座にメイリーの手元に引き戻される。
(メイリーさんはスキルが使えるのかっ)
「はぁ…、まぁ折角ですし、先に私の呪術を見せてあげますよ」
男が数珠の様な物を掲げて、メイリーに魔法を唱えようと構える。
「≪潜闇≫」
メイリーは足元に沈むように姿を消した。
「そのスキルも見ました。闇に潜んで、対象の死角から現れる。
出現のタイミングは、魔力の感知に意識を割いていれば…ほらっ!」
男は自分の真後ろに拳を振るうと、メイリーに直撃し、
倒れたメイリーに向かって追撃の魔法が唱えられる。
「≪呪詛・宍陀混・反転≫」
「ふっ!ぐっ!!おえぇっ…っ!!」
魔法が唱えられた瞬間に、メイリーはその場に膝を付き嘔吐した。
「ほう!流石ハイクラス!その程度で済むなんて!
肉を混ぜる魔法なんですよ!やっぱり、ハイクラスは欲しいなぁ」
「メ、メイリーさん!」
「ね?呪術とは、言ってしまえば怨念、目に見えるはず無いんですよ」
「≪コレプト:腐敗≫!!!!!!」
ママルはつい怒りに任せて魔法を唱えると、
男の周囲にコレプトの緑がかった霧が立ち込めるが、それ以上は何も起こらない。
「こ、これはっ?!確かに呪力だが!!?」
「っ死ねやオラぁ!!!!」
ママルは全力で飛び掛かり殴りつけた。
男はとっさに攻撃を反らすように腕を振るうと、
ママルは勢いのまま壁に激突したが、
男の左手首は吹っ飛んでいた。
「ぐっ!…こいつ…!!≪呪詛・宍填換・流転≫!!」
男は焦った様子で魔法を唱えると、ブランドの死体の上半身が弾けると同時に姿が消えた。
「くそ!!どこ逃げやがった!!!!」
「マ、ママルさん…メイリーさんが見当たりません」
「えっ………だ…大丈夫かな…」




