53.VS黒魔術師
「ほら、もう少し!頑張れ!メイリー!あなたなら出来るわ!」
「ッッ!!!」
「≪パラライズ:金縛り≫」
トランサーの粉の山から這いずり出たママルが、
メイリーに向かって魔法を唱えた。
メイリーは力を失い、そのまま横に倒れ込む。
そんなママルの姿を見たトーチが声を荒げた。
「お前!なんで動いてる!!」
「どうでもいい、トランサーを吸ったなら、こいつでハメ殺す」
ブランドはそう言いながら、自傷スキルを誘発させる、ディサイドと言う魔法薬を投げつけた。
「おら、自分の技でも食らっとけ!」
「……………バ、≪バニシック:燃焼≫」
ママルが放った魔法は、ブランドを対象として発動したが、
それは≪ヘイズ:陽炎≫で作られた幻影だった。
幻影が消えた瞬間に、別の位置へブランドの姿が出現する。
「こっちに攻撃してるじゃない!どうなってるの!」
「知らねぇ!お前がやればいいだろ!」
「クソが!≪ウィーク:欠点探知≫…は?アイテム?魔法薬?今使ってんだろ!!虫?!」
「≪アーソン:放火≫!!」
ママルは一瞬炎上するが、すぐに鎮火する。火を被っても、火が付かないのだ。
トランサーの効果は、ほとんどが呪術によって作られていた。
ママルはその身にある膨大な呪力によって、呪術への耐性が高いため、
錬金術によって作られた、幻覚効果だけをその身に受けていた。
(くそっ、まだ意識がボヤける…立ち上がれない…。
最初の魔法は、隣の女に撃つべきだった…)
「そうだ、メイリーのナイフで殺すのよ!ハイクラスの魔法士が魔法耐性高くても不思議じゃない!」
「チッ!てめぇでやれよ!」
そう言いながら、ブランドはメイリーからナイフを奪おうと歩き出す。
「ママルさん!!」
ママル達が歩いて来た方向から、テフラが駆けつけて来た。
「テ……、さん、…?」
「ママルさんが助けた家族の話を聞いて、匂いを追って来ました」
そう言いながら、テフラは他の3人を確認する。
(アレがメイリー?…あの症状は麻痺か、ママルさんが拘束したのか?)
「次から次へと!」
トーチはヒステリックに、トランサーをテフラに向かって投げつける。
テフラは咄嗟に投げつけられたものを斬り割くが、粉塵が舞った。
だが魔法薬耐性を持っているテフラに効果はない。
(あいつらが敵か…)
「≪瞬爪≫」
「がふっ」
トーチは首に深い傷を負い、自らの首を抑えつつ、魔法で反撃を試みる。
「ク…≪クラッ」
だがテフラの止まらない超速の連撃により、防御行動を取っている腕を弾き飛ばすと、そのままトーチの首が飛んだ。
「は、速っ!ハイクラスか!3人目だと?!!」
テフラはそのままブランドに襲い掛かるが、幻影が掻き消えるだけだった。
「ちっ、面倒な…」
テフラはすかさず、ママルのいる部屋の入口通路へと戻る。
この部屋への通路はここだけだ。
(こちらの目を誤魔化そうとも、ここを塞いでおけば逃げられないはず…)
そして続けざまにスキルを発動する。
「≪不落≫」
「くそっ!クソッ!ふざけるな!!!俺が!!俺が奪う側なんだよォ!!≪ヘイズ:陽炎≫!!!」
ブランドの姿が複数体現れる。
(分身全てから、魔力が燃える匂いがする…)
「…クズめ……ほら、攻撃して来なよ」
「……クソが!!…ぶっ殺してやる!!≪バーン:加熱≫!≪バーン:加熱≫!≪バーン:加熱≫!!!」
魔法を唱えるたびに、全ての幻影から魔力波が発せられて、未だに本体の特定は出来ない。
そしてこの魔法の効果により、ブランドは自分の魔力を火力へと変換していく。
自身の中にある魔力を、予め火力へと変換することにより、
次に発動する攻撃魔法の威力を大きく高める。
その威力は、火耐性を持っているブランド自身の肌が焼かれて行くほどだ。
「死ねェ!!!≪アーソン:放火≫!!!」
激しい火花がテフラへ向かって飛び、包み込む。
そして発火した瞬間、テフラの姿がズレた。
≪不落≫の効果は、致命の回避。
相手の攻撃が強力な程、確実に、オートで回避する。
ただし発動条件として、スキル発動時から不動でいる必要がある。
(魔法の発生源…そこだ!)
「≪双牙砕≫!!!」
両腕をそれぞれ上下へと掲げると、巨大な狼の口が顕現する。
腕と上下の顎がリンクするように動き、テフラがそのまま両の掌を勢いよく閉じると、何もなかったはずの空間から、ブランドの声が聞こえた。
「ふ、ふざけっ!」
バヅンッ!!!
狼の牙が、ブランドを上下真っ二つに嚙み切った。
「ふぅ…ママルさん、大丈夫ですか?」
「……リ…」
ママルが何かをしようとしている。そう感じたテフラは、
膝枕をするようにママルの頭を起こし、その頬をぺちぺちと叩いた。
「……≪リリース:呪力反転≫……≪ハルス:幻覚≫」
バッドステータス解除は、当然自分にもかけられる。
アドルミアでは当たり前だが、この世界で実際にやったのは初めてだった。
「……………」
「大丈夫ですか?ママルさん?」
ぺちぺちぺちぺち
「ッ!はっ!て、テフラさん!!」
「はい、テフラですよ」
「ほ、本物!!?」
急に覚醒したママルは、その感触を確かめる様に、
咄嗟にテフラに抱き着いた。
「?…本物ですよ」
バッと肩を掴むように体を離し、テフラの瞳を覗き込む。
「あっ……あぁ……」
「…魔法薬で、悪夢でも見てましたか……」
「……うっ………」
ママルのなんともいたたまれない表情を見て、テフラはその顔そっと掴み、ペロペロと舐め始めた。
人間の社会ではおかしいと知ってはいるが、
相手は一応獣人だ、だからこういうコミュニケーションも通るかと思い、
つい行ったが、ママルはテフラの想像していたリアクションをしなかった。
(そう言えば、前世は普通の人間だったんだっけ)
「!!わっ!わっ!!」
「あっ、すみません」
「あ、いえ、その!…目が覚めました!!」
「そ、それなら良かったですが…」
お互いに少し気まずそうにした後に、ママルが堰を切ったように急に大声を上げる。
「そうだ!!」
言いながら、テフラのひざ元から飛び降りた。
「ど、どうしました?」
「あ、いや、メイリーさんを…」
「そ、そうでした…この人、どうするんですか?」
「なんか、自害しそうだったから、とりあえず動きを止めたんですが…」
そう言いながらメイリーの姿を見てみると、
麻痺により全く動けない状態で、ひたすら涙を流していた。
「この人も、魔法薬でやられたんですかね…」
「どうかな…えっと…≪レジデントマジックⅥ:魔法常駐化最大延長≫…≪サニティ:正気持続≫……麻痺解いて良いと思いますか?」
「まぁ、何かあったら、お互い守りましょう」
「そうですね…≪リリース:呪力反転≫≪パラライズ:金縛り≫」




