51.二対
燃えていた家から助けた家族には、ユリ達が居る家の場所を伝えておいた。
ママルに言われて来たと言ってくれと。
「あの、俺はさっきの男を探しに行くから…」
なんとなく、メイリーにも話かける。
「ぁっ、手伝ってくれるのね……やったっ」
(手伝う……か)
「当てはないけど、おそらくまだそんなに遠くには行ってないと思うから」
そう言いながら歩き出すと、即座に呼び止められる。
「ま、待って、私、解るわ、多分…」
「まじ?」
それから少しして、メイリーは20体程いた分身の最後の一つを消し去ると、小さくガッツポーズをとる。
「よしっ…」
「あ、あの、居場所が解るって」
「ぁ、うん…あのね…分身だったけど、同じ魔力で出来た者だし。1回斬ったら、覚えられるのよ?」
「じゃ、じゃあ、案内して貰って良いかな…」
「うん!!こっちよっ!」
そう言いながら、なんだか機嫌良さそうにメイリーは歩き出す。
(この人…本当にモンスター以外には敵意を向けてないんだな…そんな感じがする…。…………しかし、歩くのが遅え……胸でっか…)
「あ、あの、急がなくても、大丈夫なの…?」
「確かに、あんまり遠くなると、解んなくなるかも、しれないわっ…」
そう言ってメイリーは走り出すが、いかにもどんくさい女の子の走り方で、これまた遅い。
「あ、あの、なんか、スキルとかで移動できるなら、使って貰っても…」
「で、でも、あなたから見えなくなっちゃうから…」
「そ、そうなんだ………」
「…………」
「…………」
「わ、私、メイリー、あなたは?」
「えっと、ママル…」
「ママルちゃん、私ね、とっても嬉しいのよ」
「な、何が?」
「一緒にお掃除してくれるのが」
「お掃除……」
「蛆虫たちって、本当に気持ちが悪いでしょ、見るのも嫌だけど、それを、
えいって倒すと、綺麗な人の死体になるから、とってもスッキリするの」
(なんだ…?モンスターが別の何かに見えてるのか?)
「ち、ちなみに、どんな風に見えてるの?」
「えっ?」
「あ、いや、その…、そう。俺目が悪くて…」
「そうなのね!あのね、顔が、蛆虫なのよ!小さいのが集まってて、蠢いてて」
「うわっ…」
「多分寄生虫かなんかなのよっ。人の死体を操ってるんだわ」
「そ、そうかもね…」
「ママルちゃんは綺麗なお顔だから、お友達になれて嬉しいな」
「あ、ありがとう…」
言いながら、そっと自分の顔に触れてみる。
(あ、さっき家族と話すときにマスク外したんだったな。
でも今着けたら、何か嫌な感じに見えちゃうよなぁ…)
「前にもお友達はいたんだけど、虫に憑かれちゃってて」
「それは、辛いね」
「そうね…、だからね、私がちゃんと殺したのよ…。パパもママも」
「…………」
「この蛆虫達を、絶対許せないの」
「それは……」
(モンスター化してる時点で、メイリーは既に死んでると思ってるのなら、
あまり詳しくは伝えない方が良いかもしれない…)
「…なあに?」
「その、人がそういう風になる、薬みたいなのを、この街に撒いてる奴らがいるんだよ」
それを聞いた途端、メイリーは足を止め、俯いている。
「………それは、この街は…人が……。もしかして、さっきの男がそうなの?」
「わ、解らないけど、そんな気はする、かな」
(明らかに様子が変わった…マズったか?)
「…行きましょう」
そう言って顔を上げたメイリーの表情は、先程までとは別人のように怒りで歪んでいた。
――――
アジトに逃げ帰ってきたブランドの背後から声が掛かる。
「あれれ~?ブランド、さっき出かけたんじゃなかったのぉ?」
「トーチ…戻ってたのか。ハイクラスが2体いた…、1人は噂の小さい悪魔だが、呪術師だったぞ」
ブランドと同じ黒魔術師のトーチは、拷問監を務める人間の女性だ。
呪術師集団の下部組織の中で、最も呪術師へのクラスアップを期待されているため、本来ブランドと同じ立場のはずの彼女に対して、
嫉妬に近い感情で目の上のたんこぶのように思っている。
「な~んだ、今回の作戦で出来たんじゃないのか」
「良いだろ…。2体いたら、とりあえず目的は達成できる」
「残念、そうはいかないみたいよ」
「何?」
「呪術師の方は、噂で聞く限り多分モンスター化していない」
「まぁ、そうだろうな」
「そしてメイリーの方は、モンスター化してるくせに、攻撃対象をモンスターに絞ってるみたい」
「!…ちっ……そういう事か…」
「もうさぁ、私達でやっちゃった方が早くない?」
「勝つ自信があるのか?」
「メイリーの方はね。私なら普通に勝てると思うわ」
「だったら意味ないだろ…、やはり同士討ちさせて」
「だから、あいつら同士は多分戦わないって」
「…いや、出来る」
「…もう一体出てくるの待つの?」
「新薬がある」
2、30分程度話した後だろうか。
2人のいる部屋の扉の先から、部下が扉をノックしながら声を荒げてきた。
「ブランド様!緊急です!!!」
「なんだ!でけぇ声だしてんじゃねぇぞ!!」
「も、申し訳ありません!侵入者です!!」
「あ?!詳しく話せ…!!」
ブランドは扉を開けて部下を招き入れる。
「トーチ様もいらっしゃいましたか!このアジトに侵入者が来ました!
もう何人もやられてしまっているようで!」
「…敵は何人だ、ちゃんと報告しろ…!」
「ふ、2人です!例のメイリーと、獣人の子供と思わしき奴が!」
「ブランド…付けられたわね…」
「そ、そんなはずは」
「それ以外ありえないでしょ、このタイミングで」
「ちっ、クソ!まぁ、丁度いい、さっきの作戦を早速実行する」
「はいはい、うまくいかなきゃ、あんた破滅よ」
「黙ってろ!!!」




