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49.黒魔術

「思ったんだけどさ、この辺だけでもまだ人がいるなら、もっと街中を見回った方が良い気もする」

「まぁ、確かにな。カールとエリーは、心当たりとかないか?」

そう言って、ユリは同室に居る兄妹に話しかけた。

「いや…まぁ、父さん母さんは心配ではあるけど…」

「行方が解らんと」

「ママ…パパ…」


ある程度覚悟はしておいた方が良い、そう思うユリだが、幼いエリーを見て言葉にすることが出来ない。

そんなユリを見て、カールは表情を引き締めて頷いた。

「まぁ、2人はもう寝るがよい。少なくともここは安全だでな」


「私が見回りに行きましょうか?」

「ん~、いや、俺が行きます」

「機動力とか考えても、私の方が適任だと思いますけど」

「まぁ、そうなんですが…、何かあった時の事を考えるとさ。その点俺なら大丈夫でしょ?」

「そうではあるが、お主よ、そんな事をわしらに言わすでない」

「え、っと。どういう?」

「ママルさんの心配をしないのが、当たり前だと思わないで下さい、という事ですよ」

「そういうことだ」

「え、いや、あ、ありがとう…」


「だがまぁ実際、例の女が敵対する可能性等を考えると、単独行動はママルに任せた方が良さそうなのは解る」

「そ、そゆ事。てことで行ってくるね」

「……仕方ないのう」

「行ってらっしゃい」


ママルが外へ出ると、外は未だに真っ暗で、

日が昇るまで後どのくらいかを時計で確認してから出ればよかったと少し後悔した。


(二人には少し悪い事をしたかな…)

この世界に来て何度も戦闘をしているが、ママルは未だに自分が怪我をするイメージさえ湧かない。だからと言って、周囲の人にその感覚を共有出来るわけはない。

いくら言葉を尽くしたところで、いや、尽くされたところで、親しい人であれば心配はするのだ。


(でも、なんていうか、折角のこの力、うまい事使って欲しい)

あいつなら大丈夫だからと、強大な敵にぶつけて欲しい、そんな思いさえある。

ママル自身が自覚している限り、うまい事使えるような頭脳は持っていないのだから。



そんな事を考えながら、ママルはてってってっと言うような擬音が似合う様な動作で駆け出した。

走る、という意識ではなく、片足ずつ交互に立ち幅跳びをするようなイメージだ。

全力で走った経験は殆どないが、何度もジャンプした経験があるから、

こんな動きが今のところ一番安定して速く走れる。

(探知系スキルみたいなの欲しいよなぁ、何か、音とか声とか聞こえてきたら解り易いんだけど)


道に迷ってしまう可能性に少しビビりながら、未だに踏み込んだことのない方向へと足を進めると、ふと空が明るくなっている所がある事に気づいた。

(あれは!!火事か?!)

遠くの空が赤く染まっていて。よく見ると煙も上がっている。間違いない。

(ただの事故の可能性もあるけど、何にせよ急ごう)



――――


「現在確認出来ているハイクラスは、未だ1体だけです」

「街1つ使ってアレだけか…、完成には遠いな」

「ただ、変異までの時間に差はあれど、ほぼ100%モンスター化は成功出来ています」

「ほぼ、とはどういうことだ?」

黒魔術師ブランドの怒りを含んだ声色に、その部下は慌てて声を震わせながら答える。


「し、失礼しました。未確認の者や、経過観察中の者もいると言うだけで、

確認出来た者に限っては100%です」

「フン。我々が協力してやっているのだ、当然の結果だなあ?」

「ありがとうございます!」

「やはり、絶望が足りないんじゃないか?」

「…と、申しますと」

「我々の実験では、ハイクラスの発現率は1%に近かった。もっと追い詰めるべきなんだよ」

「…ブランド様、お知恵をお貸しください…」

「そうだな………燃やすか」

「…家ですか?」

「家も人もだ、半分くらい減っても、残りの半分の発現率が上がるなら、

結果として効率が上がるだろ。火はいいぞ。人が絶望する」

「では、早速油の用意を」

「いや、俺が行く、その方が早いだろ。それに、久々に発散してスッキリしたいんだ。それに丁度、今日届いた新薬がある。お前らは明日からこっちを撒け」

「承知しました…今日の分の死体回収後、準備致します」



ブランドは早速居住区へと足を運ぶ。

どこか、丁度いい家は無いか、丁度いい奴らが住んでいる家はないか。

女子供でもいい、いや、爺でもいい。できるだけ繋がりのある者が良い。

立場も力もある者が、成すすべなく無残に焼き殺される。

火の手はいくらでも広がる。絶望は深くなる。

早く殺したい。楽しみだ。

(攻撃衝動を貯めすぎたか…モンスター化してしまったのに、ハイクラスへ移行出来なかった。だが、いくらでもチャンスはある…絶対に奴らを見返してやる。俺は失敗作じゃない……)



居住区の家屋を物色していると、5人の男たちの集団が道を塞いで来た。

「おいおいおい~、こんな真夜中に、1人で出歩くなんて危ねぇぞぉ」

「金出せ、食料もだ、そうしたら助けてやるよ」

「ははは!どっちみちボコるくせに!!」

「おい!言うんじゃねぇよ!ビビッてなんも出さなくなったらてめぇ殺すぞ!」


「くっく…出来損ないのモンスター共…あ~はっはっは!」

「何言ってんのか解んねぇけどムカついたわ。ぶっ殺す」

「≪アーソン:放火≫」


ブランドは両手に持った石を打ち鳴らして、

ナイフを構えて来た男に向かって魔法を唱えた。


散った火花は燃え上がるように巨大化しながら、たちまち男を包み込む。

「…!!………!!!!」


全身が炎に包まれた男は、叫び声をあげることもままならずにのたうち回る。

「て、てめぇ!!」

「≪フレマティ:引火≫」

先程と同じように石を打ち鳴らすと、燃えている男から火花が散って、

周囲の男たちへと燃え移った。


「ひ、ひぃ!!!!」

フレマティの範囲外に居た男が、たまらずに背を向けて逃げ始める。


「≪イグニ:発火≫」

逃げた男がボフッっと一瞬炎に包まれ、硬直した。

「≪リレプス:再燃≫」

消えた筈の炎が再び燃え盛り、逃げようとした男がのたうち回る。

「あ~っはっはっはっは!!!最高だぁ…」

ブランドは悦に入った表情で、悶える男たちを眺める。

「もう死んだのか?もっと藻掻けよ!!!はぁ……」


そんな時、視界の端に1人の男を捉えた。

数十メートル先の、大きめの家の2階から、こちらを一瞬見いていた。

間違いなく人が居る、きっとモンスター化を避けた住民だ。


「あ~はは、決めた」


ブランドは、男が見えた家の1階に火をつける。

窓から見えたのは男1人だった、だが、火の手から逃れようと、

家の窓から顔を出したのは3人。


家族だ、誰にも見つからないように、ひっそりと隠れていたのに、

外で火の手が上がった時、夫がつい見てしまったのだろう。


「た、助けてくれぇ!」

「当たりだぁ。飛び降りるか?焼かれるか?あ~はは」


火の手は、その勢いを増して行く。

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