4.絶景
チャーハン(5分間VIT1%アップ)を食いつつ、
ローポーション(HP20%(最低値100)回復)で喉を潤す。
チャーハンは旨いが常温で、ポーションはなんというか、
エナジードリンクの味を薄く、そして匂いをキツくしたような味がした。
期待していただけに、少しがっかり。
食べ終わると食器が、飲み終わると瓶が霧散して消滅する。
(なんだこれ…どこで食べ終わり判定されてるんだ…)
消費アイテムを使うのは正直避けたかったが、今は仕方がない。
ちなみに皿は付いて来ていたが、スプーン等は無かったので素手で食った。
(さて、とりあえず、何をしようか)
未だ状況が解らないので、何か目的を決めて動くしかない。
(まずは、人里を探すか…。言葉が通じるかは、
まぁ、普通に考えたら無理なんだけど、
状況的にワンチャン通じる説も自分の中にある。
別に一人でいることに苦痛はないから、
いっそこの森で生きても良いっちゃ良いとも一瞬思ったけど、
家作る技術とかないからなぁ。野宿は嫌だし、
旨いもの食べたいし。虫が沢山いるし。
人里を見つけたら、なんとか生計を立てて、普通に暮らせれば万々歳。
ゲームも漫画もアニメもないのは辛いけど、
流石に娯楽についてまで欲を出せる状況じゃないし、
そもそもこの世界の文明レベルもまだ解らないからなぁ。
となると、まずは)
決心すると、先ほど必死でかけた魔法効果がまだ残っているのを確かめたうえで、
周囲を確認しようと近くの木に登り始めるが、枝に色々引っかかる。
「くそっ、スカートが邪魔だな…」
(そういえば、さっきアイテム袋に装備品があったな。えっと…)
袋に手をつっこみ、目的の装備品に触れた途端、
全身の装備一式を記憶している、マイセット装備という機能が使えることが解った。
「えっと、なんかこの辺のモノをいっぺんに掴んで出す感じか?」
袋から拳を引き抜くと同時に、全身の装備が切り替わる。
これまでは、街中を歩くとき用の見た目重視、所謂オシャレ装備だったが、
今着替えた装備は、完全に戦闘用。
アドルミア現行バージョンの、呪術師最強装備【カース・ウルテマ】シリーズだ。
漆黒のローブを身に纏い、隙間から除く両腕と両足は銀色に鈍く光る金属が覆う。
顔はペストマスクのようなものが表情を完全に隠し、
腰にはドクロの龍、その口には斑に光る水晶がはめ込まれている。
「おーーーっ!!」
(感動だ!この一瞬で着替えるという謎い現象もそうだけど、
何より苦労して集めた装備を、こうして現物として見られるなんて!)
ちなみに不人気職なので、他職に比べ売買等で入手するのが楽だった。
(ちょっと頭装備の見た目も見てみたいな、一回外して、と)
その瞬間、つい今まで頭にかぶり、手に持っていた装備が消えた。
「えっ?えっ?えっ!…まじ?嘘…?は????」
とかめちゃくちゃ頭の悪そうな事を口走るくらいに動揺して、周囲を見渡す。
「え?ない…。ない!ナンデ!!!…あっ、いや、アイテム袋は!」
手を突っ込んでみると、その装備があることが感覚で理解できた。
そのまま慌てて袋から取り出した瞬間、頭に装備される。
「お…、お~~~、そういうことね、完全に理解した」
(…つまり、装備を外したら、そのままアイテム袋の中に自動的に入るという事か。逆に袋から出すときイコール装備する。と。ここは完全にゲームみたいだな…)
「ふぅ…なんか、疲れたな。てか独り言多いな。寂しんぼか?俺は?」
(誰か言葉のわかる人に見つけてもらいたいのかもしれない。
いや、前世でゲームをしているとき、ブツブツ独り言を呟いていたせいかも)
「あっ、そうだ、木に登るんだった。…じゃあこの頭装備と、ローブも邪魔だな…」
早速この二つの装備を解除して、また木登りを開始する。
(しかし、こんな腕も指も短い体だけど、すんなり登れるもんだなぁ)
指に力を込めると木に食い込むし、指で体を持ち上げるのも簡単だ。
筋肉量とか考えると、普通に考えて意味不明なんだけど、
まぁ魔法とか使えたし、自分が強くなっていて悪い気はしない。
「おっし、てっぺん着いた。………………………」
月明かりで周囲は結構見える、ただ。
「全部森じゃねぇか…」
(てか、高さが足りんな、周囲にもっと背の高い木が多い。
しかし下からだと、どれが一番高い木か解り辛いんだよな。
これ…、飛び移れるか…?
でも、落ちたらどうなるんだ?
なんか今の自分の強度的に、余裕そうな気はするが。
実際コワイ。
いや、しかし、こういうのはちゃんと確かめておいた方が良い。
と、とりあえず、この木を半分くらい降りて、そこから地面に飛んでみよう)
半分でも、10mくらいはある、コワイ…。
さらにもう半分くらい…。
「い、いや、いける!いける!できる出来るやれば出来る絶対出来る!」
とかなんとか言いながら、意を決して落下。着地。
「………痛くなさすぎる………」
(ま、まて、てか、こんなパワーで思いっきりジャンプしたら、どのくらい飛べるんだ?自力で飛べる高さなら、落下ダメージもないだろ!ゲームなら!この世界ゲームっぽいし!これを先に思いつくべきだったな!よし…。よし……)
「………よ、よし、やるぞ、、飛ぶぞ…」
「せー…のっ!!!」
一瞬で、森に生い茂る枝葉を突き抜け、視界が開けた。
見渡す限りの美しい星空。
その星々は色とりどりに輝き、大きさも様々。
ひと際大きい星は、月のような、しかし自分の知るものよりもずっと大きく、青い。
隣には半分くらいの大きさの、赤く煌く星。
足元に広がる木々の先、正面の方には信じられないくらい大きい、
今の視点よりももっと高い巨木が見える。
大きすぎて距離感が解らなくなるようで、東京スカイツリーを思い出した。
右手方向の先に広がる木々は紫色に染まり、木の葉が渦を巻くように揺らいでいて、
錯視gifでも見ているような、吸い込まれそうな気分だ。
左手の方には激しい水しぶきが迸る巨大な滝。
ここはその滝の下流のようだ。
一体何メートルあるのか解らないその滝つぼから飛び立つ、白銀のドラゴンが見えた。
「うわ………」
時間にすると、ほんの僅かな間の滞空時間だったが、
そのあまりの美しさに、息を飲む。
直後に襲ってくる予定だった、落下の際の恐怖も忘れ、
スッと元居た地面に着地した。
「お、おおおおおおおお!!!!すごい!!!異世界っぽい!まじかーーー!!やばば~~~!!!」
ママルは、しばらく感動に打ち震えながら、内にある不安感を書き消すように、
本当に馬鹿みたいな感想の言葉を、適当に口に出しまくった。
読んで頂きありがとうございます。
主人公は一人でうだうだと何かやってますが、もう数話で話が動き始めますので、
お付き合い頂けると幸いです。