37.パンラム
ママルはサイにとどめを刺した後、もう一度洞窟内に入ると、
人間の男と鷹を連れ出してきた。
「なんかこいつだけ様子が違ったから、一応連れて来たんだけど」
そう言いながら、鷹を野に放つ。
「ひっ!ひい!おた!おた!お助けを!!!」
手を離すと、男は頭を抱えて蹲った。
「モンスターではなかったのか?」
「そ~、違ったけど。なるかもしれないし、どうしようかな」
「私は盗賊じゃありやせん!!たまたま!!たまたまここに来てただけなんです!!信じて下さい!!」
「まぁ、一旦落ち着いてくださいよ」
「うっ!ひっ!ひっ!ひい!!」
「ええっと…」
自己から発生する感情は呪いではないため、
例えば≪リリース:呪力反転≫≪サッズ:悲嘆≫で悲しみを取り除く、
と言う様な事はできない。
「これならどうだろ、≪サニティ:正気持続≫」
「おい、大丈夫なのか?」
「うっ、うっ、ううっ…」
「多分…ねぇ、おじさんさ。その、普通に話がしたいんですけど、出来ますか?」
「は、はい……」
「なんであそこにいたの?」
「わ、私は、その、情報屋をやっていて、様々な方に情報を売っているんです…」
「なるほど…えっと、例えばどんな?」
「き、今日はお伝えしたのは、盗賊団で必要としていた物資の情報と、
サンロック国王の訃報と、シーグラン国の東側への侵攻と、
サイクロプスの目撃情報。それと、その……、あなたの噂です」
「俺の…?どんな?」
「…く、…かっ、ち、小さい、悪魔のっ…ひっ…」
「ママルよ、その装備をやめてやれ……」
「あ、あぁ、そうだね…」
ママルは流石に敵陣に乗り込むと言う事で、カース・ウルテマ装備を着ていた。
(一応噂になるのは狙い通りではあるけど、なんか複雑だな…)
「あ、悪魔じゃないですよ~~…」
「じ、獣人…?」
「あれはただの衣装!言いふらしたりしないでよぉ~」
ママルは少しおどけてみせる。
「な、なるほど…」
「して、お主よ、名は?」
「パ…パンラムと申します…」
「ふむ、ではパンラム、一応聞くが、盗賊に有益な情報を与えていたらどうなるか、想像したことはあるか?」
「も、申し訳ありません!!!二度といたしませんんんん!!!!」
「はぁ…」
「もう放っておいて良いんじゃないですか?」
冷静に場を見守っているテフラが提言した。
「まぁ、そうなんだが…………、いや、パンラム」
「は、はい!!」
「お主はどうやってここまで来たのだ?この辺りは野生モンスターもおるだろ」
「≪ヘイトロス:敵視外≫という魔法で、モンスターから目を付けられないようにしつつ、≪速足≫というスキルで駆け回っております!!」
(俺がなんとなく見逃したのも、そのスキルの効果か…?)
その時、ユリがなんとも意地の悪い顔をしたのを、
ママルとテフラは見逃さなかった。
「お主は魔法適正もある、と」
「は、はい!」
「では、フローターを動かせるな?」
「2、3回操縦したことはありますが…」
「よし!ではお主を、わしらの御者に任命する!」
「へ?いえ、あの!……それはぁ…」
「何もずっとという訳ではない。一旦次の目的地まででよい」
「一旦…」
「文句があるのか?」
「よ、喜んでお受けさせて頂きます!!!!」
「というわけだ、ママルよ、どうせ盗賊のアジトにフローターがあるだろ?持ってきとくれ」
「まぁ、あったけどさ…俺は時々ユリちゃんがこえ~よ」
「あんだと!」
「持ってきま~~す」
「ユリさん…ね、労ってあげるんじゃ…」
「あ……ま、まぁ、後でな!」
――パンラムの若干荒い操縦の中、ママル達はまたトワイトへ向かっている
「さて、次の目的地はどうするかのぅ」
「う~ん…もう1個の、なんとかって盗賊団かなぁ」
「グレムズ、ですね」
「そう!そのグレムズってのと、あとはサイクロプスが気になるかなぁ」
「サイクロプス?何故だ?」
「ええっと、その、何て言うか、いかにもなモンスターって見たことないから、気になるって言うか」
「いかにもなモンスター…?」
「えっ…?その、前言ってたさ、ヒッポグリフみたいな、そういうの」
「全然違うではないか、なぁテフラよ」
「そうですね、ヒッポグリフは幻獣と呼ばれていますけど、サイクロプスはそういう種族と言うか」
「そ、そうなんだ…」
(解らん……)
「まぁでも、わしも見た事は無いがな。それに気になると言えば気になるか」
「でしょっ!」
「パランムよ!!」
「は、はい!なんでございましょう!!!」
「サイクロプスの話を聞かせてくれ」
(有料の情報なのに…)
「え、えぇっと。トワイトから北の、ビービムルって村が、
サイクロプスに襲撃されたとかで、食料を奪われたのと、何人か食われたって。
あの辺はヘタレで有名なシモンヌ子爵の領地でしょう?多分討伐隊なんか出せないんじゃないかって」
「なるほどぉ…」
(シモンヌ誰?)
「ふむ…ではそのビービムルに行き先変更だ」
「えぇ!!もう夜になりますよ!!」
「トワイトに一泊してからの話だでな」
「は、はいぃ…」
(そのやり方で目的地変更されたら、いつまでも終われないよ…)
「良いの?」
「これを見てみぃ」
そう言ってユリは地図を広げる。
「ここがトワイト、ここがビービムル、そしてここがディーファン。
盗賊団グレムズのアジトは、ディーファンから東と書いてあった」
「なるほど、丁度いいですね」
「ちょい西にズレるだけで寄れるのか、良いね」
――トワイトに到着する
「おう、また来たか」
トワイトの宿屋の主人は、前回結構飲み食いしてくれたママル一行を歓迎していた。
「前と同じ3人部屋と、個室を」
そう言いながら前払いの料金を出した。
「私の分も、良いんですかい?」
「まぁ、1人野宿させるのもね」
「逃げるでないぞ?」
「わ、解ってますよっ」
その晩、前回と同じく1階の酒場で3人で食事しているとき。
ママルとテフラが水を頼んだのを見たユリは、
なんだかいたたまれなくなって、2人にエールを飲むことを促した。
そしてその流れでママルをどうにか労おうと努力したが、
それが実にわざとらしく下手くそで、ママルに何やってんの?
と言われてヘソを曲げたのだった。




