35.相反
シイズ村から逃げ帰ったサイは、残った盗賊団サーチスネークの面々に、
グスタフ、ギャス、その他9名の団員の死と、
それから、グスタフからボスを任されたという嘘を告げる。
そして、シェーン大森林にあったエルフの村は、
謎の人物が得体の知れない力でもって守護しているため、近づかないようにと。
(そもそもグスタフは、なぜ拠点を移すという話をしだしたんだ…。
特にシェーン大森林の奥なんかに根を張っても、やり辛い事この上ないと言うのに…)
サイは暗殺者として強力なスキルを獲得しているため、
グスタフの暗殺をやろうと思えばいつでも出来た。
だが求心力が違った。ただ殺してもこの団を奪うことは出来ないと諦めていたし、
グスタフはそんなサイの心中を見抜き、だからこそ右腕としていたのだ。
現在残っているのは約20名、減ってしまったが、
一般人の殆どは戦闘系スキルを持っていないし、まだまだ充分好きに出来る。
「おい…カータス…また探してくれ」
カータスはテイマー系のクラス、鷹使いを習得しており、
鷹を自由に操る≪ホークプルスト≫、
広域を見通す≪ホークアイ≫等のスキルにより、
遠隔地の、人を攫えそうな村、盗めそうな宝等を発見する役割を担っている。
「サイ、知ってるだろ?前回使用した鷹はもうだめだ、新しいのと、触媒が足りねぇ」
「俺がボスなのを…、もう、忘れたのか…?」
「っ…。いや、覚えて、ますよ。しばらく待ってください。下準備がいるんだ」
カータスのスキルは有能だが、この辺りにこのくらいの規模の村がありそうだとか、
この辺りに宝石の気配がある、程度の事しかわからない。
その都度団員を派遣していたが、有益だった情報は1/4程度だ。
詐欺師として、看破や盗視のスキルを持っていたダンは、
思っていた以上に使える奴だったのかもしれない。
「触媒の入手を…、最優先にする…。他の者に命令しろ…」
カータスは、団員への指示はてめぇの仕事だろと内心毒づきつつ、
必要な素材を書き出したメモを配って回る。
「アラン…、まだ奴隷がいるな…いつ売るんだ…最低限の食費もタダではない…」
「ボスが売り先探してくれるんじゃないんスか?」
「………アルカンダルの奴隷商で良い。売ってこい」
「いや、あそこ最近渋いんスよ、まぁ、一旦話聞いて来ますけど」
アジト内を見回っていると、奴隷を捕まえている牢で、
3人の部下が1人の女を犯そうとしていた。
不妊の魔法が使えるセストはエルフの村で死んだ。
商品価値が落ちるかもしれない。
頭に血が昇ったサイは、衝動的に1人の部下の首を刎ねた。
女のすすり泣く声と、部下2人の謝罪を聞きながら、
優越感と怒りがその体を満たしていく。
(クソ共がっ、どいつもこいつも……)
――――――
「お主よ、これからどうする」
朝食をとりつつ、昨晩見つけた書類を改めて読みながら、ユリが問いかけて来た。
「ううむ。ここには流れで来たけど…、この先かぁ。
モンスター退治はざっくりと、
1.野生動物とかの、人ではないモンスターを倒す。
2.モンスター化している人を倒す」
「まぁ、そうだな」
「1.の場合は、例えば森とか、山や川とかに行って、まぁ、なんか探して倒すしかない」
「なんかふわふわしとるの」
「2.の場合は、また街や村を目指す、というのと、他にも、例えば盗賊だとか。
そういう人目に付かない場所を拠点としている人、いや、モンスターを探す」
「そうですね」
「個人的には盗賊や、この資料にあった呪術師集団とかが一番対処したいけど、手がかりが無い」
「私も…、そいつらをターゲットにしたいですね」
「ふむ、それでは、これなんかどうだ」
ユリは書類の中から1枚の紙を差し出してきた。
「?なにこれ」
[仕入れ先リスト。
アルカンダル、フォルネル、サーチスネーク、グレムズ、グリッチャー。
魔法薬と呪術による方法が確立して来たため、盗賊団は不要。準備を整え排除されたし。
サーチスネークのアジト、アルカンダルから西北西、アルシェ湖とハルゲンの中間部にある洞窟。
グレムズのアジト、ディーファンから東、アルダイト山脈の麓]
「知らない名前を色々出されると混乱するな…」
「そうか?」
「仕入れってのは、死体の事かな?…それにこのサーチスネークってのは知ってる、シイズ村に来た奴らだ」
「あやつらがそうか…確か、取り逃した奴がいると言っておったな。それほど遠くなさそうだし、行ってみるか?」
「フォルネルは街の名前だったっけ。後の2つも気になるけど、まぁ行ってみようか」
「行きましょう」
今、テフラさんの語気がなんだか強かった気がする。
やはり自分たちの村を襲った、盗賊という奴らを許せないのだろうか。
当然その気持ちは解るつもりだが、あまり殺意が増しすぎるとモンスター化を引き起こしそうで心配だ…。
だが、なんと声を掛けるべきなのか。
(怒らないで、気にしないで、落ち着いて?むしろ殺さないで?いや、絶対どれも違う…)
その後、結局3人とも無言のままハルゲンを後にした。
この辺りは既にシェーン大森林の一部となっており、樹木の背が高くなってきた。
方角に当たりを付けたとはいえ、盗賊のアジトなど見つかるものなのかと不安になってきた頃、
切り株が立ち並んでいる地帯を発見する。
「やはりな、これはおそらく、フローターで通行するための通路だな」
「なるほどね、つまりこれはアジトまでの道標、って事ね」
「そうなるのぅ。方角からして、こっちだな」
盗賊のアジトが目前だろう所まで迫り、ママルの心はざわついてくる。
「…………あの!」
「なんだ?」
「あ、いや、ユリちゃんじゃなくて、テフラさん!」
「どうしました?」
「その………、ここは、俺達に任せてくれませんか?」
テフラは、ピクと眉間にシワを寄せる。
「何故ですか?」
「…その、盗賊を相手にするテフラさんが、心配なので…」
「?負けませんよ、盗賊ごときに」
「…いや、そうじゃなくて、そこは心配してなくて…」
「何ですか?」
「テフラよ」
「ユリさん…?」
「わしもママルに賛成だ。お主は今、いささか殺意が高すぎるように思う」
「殺意…、まぁ、そうですね」
「モンスター化については話しただろ?わしらは、お主にそうなって欲しくはない」
「……………」
「解ってくれんかの」
「………お2人は、殺意もなく、殺してるんですか?」
「…いやっ、まず、その、多分、ユリちゃんは、直接は誰も殺してない……コープスを倒したくらいで。
…俺は、殺意は、ある。殺してやろうって思って、魔法を使ってる」
「だったら!」
「ち、違うんですっ。その、なんて言うか、俺は正直、代弁者気どりって言うか、
皆の恨みを俺が晴らしてやるんだ!みたいな、勝手な気持ちもあって。
それは絶対、ただの偽善だけど、悪ではない。そう信じてる」
「……………」
「恨みを晴らす事は、俺は悪い事だとは思わないから。
復讐だって、理由に寄っちゃするほうが良いに決まってる。
でも、ここの盗賊達は、テフラさんの、村の人達の仇なんですか?」
「解らないですね…、見てみるまでは」
「では、見て、違ったら、殺さないでください。それは俺がやります。
悪人を殺す事と、自分の憎しみを、関係ない悪人にぶつける事は、きっと違うから。って言うか、違ってないと、俺が困るっていうか…その」
「………………ふぅ………解りました」
「あ、ありがとうございます!」
「ありがとう」
「やめてください…、感謝なんて。私こそ、ちょっと頭に血が昇っていたみたい…。その、心配してくれて、ありがとうございます…」
テフラは少し恥ずかしそうに微笑むと、
そんな表情を見て、ママルとユリも笑みを浮かべた。




