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34.秘密

「遅いのぅ…やはり様子を見に行った方がよいのでないか?」

テフラの戦闘力や素早さを考えたら心配はいらないと思っていたが、確かに遅い。


「ちょっと探して来るよ、ユリちゃんはここで待ってて」

ランタンを手に取り、梯子を下りようとした時、

1階のドアが開いた。


「わっ」

「すみません、遅くなりました」

「おー……、良かったです、今から探しに行こうかと」

「テフラ、戻ったか」

2階からユリが顔を出す。

「はい、その……、コヤコを弔って来ました」

元々大方想像はついていたが、その一言で2人はテフラが(おこな)っていた事を確信する。


「そうか、辛かったのぅ」

「はい…、いえ、でも、こうして形見も手にできましたので」


そう言って見せた掌の上には、様々な動物の犬歯を使っただろうネックレスがある。

「テフラさんが着けてるのと、お揃いですね」

「はい、故郷からずっと大事にしていたんですよ」

そう言って笑うテフラの表情は、どこか清々しく見えた。




「あ…、そうだ、それと気になる事が、ちょっと付いて来て下さい」

テフラに言われるがまま2階へ上がる。


「やっぱり…」

「どうしたのだ?」

「改めて外からこの建物をみたら、特にこの2階は、外見より少し狭いと思います」

「?……隠し部屋か!」

「おそらくは」



3人で室内をくまなく探していると、ママルが石壁の一つがスイッチになっていることに気づく。

(映画やゲームで見た事があるギミックだ…)

「押してみるよ…」


ゴゴゴゴゴゴ……と音を立て、壁の一部が押し出され、

丁度人1人が通れるくらいの隙間が出来た。


「……この先か」

「ちょっと失礼」

ママルが先行し、室内にあった魔道具で狭い隠し部屋の中を照らすと、

小さい机と椅子、紙とペン、そして多数の書物が見つかった。

全部を元の部屋のテーブルの上にドサリと置く。


「これだけ、他は特に何もなかったよ」

「いや、十分だ、読んでみよう」


沢山あった魔道具をふんだんに使い、部屋を明るくして、3人で手分けして読み進める。

すると、これらにはこの実験の詳細が事細かに記してあった。

ここへ連れてこられた人たちの、名前、年齢、種族、性別、損傷個所、等々。

そして、死体兵(書物ではコープスと名付けられていた)を生み出す方法については、大方予想通り。



死体を兵士として再利用するべく、とある呪術師の集団が研究し開発した魔法で、

方法論としてはざっくりと、

隣国を遠隔で呪い、その呪具として死体を活用する。

呪いの内容とは、隣国や他種族の凋落。

サンロックの手により侵略し、奪う事。

その呪いを実現させようという邪念を、死体の兵士によって行うと言う事象へと置換する。

それを呪術魔法で行っているという訳だ。


更に今や世に溢れ返っている呪力は、半無限エネルギーのようなもので、

それが魂の代わりも果たすようだ。

ただ、一度死に意識を手放している状態では、戦力として期待できないコープスしか作れなかったため、

まず先にモンスター化をさせて、その精神に攻撃衝動を植え付けた上で行う。



「こやつら、モンスター化についてまで知っておるのか…」

「あの闘技場自体、モンスター化を促しつつ死者が出るようにする施設だったんですね…」

「何ならあの南北の壁もその一環だろうな」


他にも、ここは元々は普通の村だったものを改造して作った施設で、

1階の魔法陣で呪いを付与した後に、目覚めるまでの間に村内の適当な場所に放置。

その後の動向などを調べていたらしい。


コープス同士は互いを死体と認識しているのか、攻撃は仕掛けない。

無意味に徘徊する者、その場から特に動かない者、生者のように振舞おうとする者などが確認できる。

夜になる程活発になるのは、コープスの視界が悪い程、周囲からの呪力を得る効果が高まるからだとか。

同時に明かりによってある程度の制御も出来る上に、

逆に目を潰すことでずっと暴れまわるようになる等、

読んでいるだけで不快感が募る情報が入ってくる。




「あった、この呪術師集団についての記述、読み上げるよ」


そこに書かれていた事は少し意外ではあった。


「呪術師集団。奴らは、どこにでも根を張っている。我が国だけではない。

そんな奴らが、我が国だけに有利な研究を進めているとは考えづらい。

正体は解らない、数多の奴隷を買い漁っているようだが、

決して表舞台には顔を出さない。サンロック王は、どこまでご存じなのだろうか。

ただ踊らされているだけの様に思う。

隣国や他種族への侵略を計画するのは良い、

だが、結果として自国の国力をも奪っているではないか。

いや、だからこその死体の兵士か。

肉体が活動可能でさえあれば、無限に侵攻を続ける兵士たち。

まだ殆どは使い物にならないが、数体、生前のスキルまで駆使する個体が現れた。

完成は近い。戦争が始まったら、私はここを離れる」


「ここの研究者の手記か、王の訃報を聞いて、いち早くどこかへ行ってしまったという所かの」

「こんな物を残して行っちゃうなんて、大分慌ててたのかな」

「………こいつらは、人をなんだと思っているんだ…」

そう言うテフラの顔には、憎悪が浮かんでいる。


(やってる事は最悪そのものだけど、世界の呪力を消費することは、

神様の願いに繋がらなくはないんだよな…)



「まぁ、今日は一旦寝るで。もう大分遅い時間だ」

「そうですね…」


「っと、わしのリュックは~~…。ほれ、2人共」

「これは?」

「寝る時用の、厚手の布だ!」

「お~~~!今まで使ってたのより温かそう、さすユリ!」

「なんだそれは、妙な言い方すな」

「良いですね、ありがとうございます」

「テフラは素直だのぅ、それに比べてママルと来たら」

「ま、まだ怒ってたの?」

「もう怒っとらんっ、いつまでも怒ってる方が子供っぽいだろうが」

「あ、ありがとね」


魔道具の明かりを消して周ると、3人が川の字に横になった。


「ふふふっ」

「な、なんだテフラ」

「あ、ごめんなさい、なんか良いなって」

「そうか…」

「…私は結局、行く当ても無かったし、流れで付いて来ちゃいましたけど、

その、ユリさんは…、ママルさんも。元気でいて下さいね」

「……任せい。わしはいつも元気だ」

「テフラさんも、元気がなくなったら、俺達をいつでも頼ってくださいよ」

「ありがとうございます」


「ママルはカッコつけとるだけだ、わしを頼るとよい」

「ねえ~~…」

「ふふふふっ」

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