30.出発
アルカンダルからトワイトへ向かう馬車が出発した。
こちら側はそこそこ交通が発達していて、道もある程度整備されている。
「馬は凄いなぁ」
「好きなのか?」
「動物は基本的に好きだよ」
「そ、そうなんか、動物のモンスターもバチバチにやっつけておったから、知らんかったわい」
「流石に襲われたらね…」
「ま、それはそうと、二人共、これを見よ」
ユリがリュックをゴソゴソと漁っていると思ったら、一枚の紙を取り出した。
「地図だ」
「おー!まじか!」
(なんで気づかなかったんだ、絶対あった方が良いヤツじゃん…)
「私も一応探しましたが、よく見つけられましたね」
「ふふんっ、まぁ色々と聞いて回っておったからの」
「さすがユリちゃん」
「まぁ、大分大雑把だがな、で、ここがアルカンダル、こっちが大森林だから、トワイトはこの辺りだな」
「結構近いね」
「このまま夕過ぎくらいには着くんでないか?」
「いやぁ、楽だね。森を5日とか歩いていた時とは大違いだ」
「森を5日…それは大変ですね」
「あぁ、めちゃくちゃ大変だったで、歩けども歩けども似たような景色、
わしは毎日ひーこら言ってる横で、疲れを知らんこやつは涼しい顔しとるし」
「えっ、それは、なんかごめん」
「いや、まぁ色々飯とか貰っていたし、謝るでない。それよりもハルゲンだ」
「えっと、トワイトから更に北西、だったっけ。テフラさんはこの辺の土地勘とかあります?」
「いや、私もこの辺りは全然解らないですね…」
「ふむ。そして、トワイトからハルゲンへは、馬車が使えんと」
馬車を出している御者に話を聞いた時、その辺りから道は険しくなり、
野生モンスターとかの危険も高いから行かないようにしている。
それに何より、ずっと国により関係者以外の通行を禁止されていたと言っていた。
「徒歩で行くしかないんだよね」
「フローターとか言う乗り物があれば、道なき道でも走行できるらしいのだが、結局御者は必要だからの」
「ユリちゃんならなんか動かせそうだけどね」
「ふむ……。ではわしが講義してやろう。
魔道具というのは魔法陣が刻み込まれておるのだ。
例えば炎が発せられる魔法陣を刻み込み、そこに魔力を流して起動する。
もちろん一般的な、殆どの魔道具は魔力がなくとも使えるように、
魔導核というエネルギー源を元に、オンオフだけの機能で作られておるがの。
だが乗り物となるとオンオフだけと言う訳にも行かん。
で、一方わしの結界魔法は、わしの魔力によって陣を形成、発動しておる。
例えるなら、わしの魔力は筆で描くもの、魔法陣は描かれておるもの、
重なると、ぐちゃぐちゃになってしまい発動せんのだ」
「へ~~~、魔力にもそんな違いがあるんだ」
「基本的には些細な違いだがの。お主の呪力とやらも、元を辿れば魔力だろ、あくまでわしの感覚だが」
「まぁ、多分そう。…じゃあ、俺がフローターっての動かせば良いのかな」
「いや、だから、お主の魔力には呪力とか言うのが混ざっとるんだ、多分無理だぞ。ま、試してみる価値はあるがの」
「そ、そうなんだ…別物だと思ってたけど、一緒なのか」
「魔力と言う水に、呪力と言う土が混ざっとる感じだな、なんとなくのイメージだが」
(その魔力の源泉から、ベーススキルでは水だけ、呪術では土だけを取り出してる感じか)
「なるほどね…。なんでそんなに詳しいの?」
「魔法ってとにかく不思議なもんだからな。気になって色々調べた事があるのだ。
シイズ村にも明かりを灯す魔道具などあっただろ?」
「なるほどな~。ご指導ありがとうございます」
「ふふん。精進せよ」
「じゃあ結局フローターは無理か。テフラさんはそもそも魔法職じゃないしなぁ、結構めんどいんだね」
「まぁ、徒歩でも半日もかからず着く距離らしいがの、なのでトワイトで一泊しよう」
「賛成~」
テフラさんが会話に参加していないな、と思い様子を見ると、
地図をジッと見つめていた。
「お主の出身地は、この辺りになるのかのう」
ユリは、そうテフラに言いながら地図のもっと上の方を指し示す。
「えっ、その、どうしてですか?」
「友人のルゥと言うエルフの父から聞いたことがある、
ワーウルフとワーキャットが住む村があったと。
ルゥとわしも異種族だからな、そういう話をしてくれたのだと思うが」
「いえ、その、どうして私が自分の村の事を考えていると?」
「顔を見れば解る、なぁママルよ」
「えっ、まぁ、なんとなく?」
(ホントはあんまり解ってない)
「すみません、上の空でしたね」
「いや、よい。ハルゲンの件が片付いたら、行ってみるか?」
「い、良いんですか?」
「お主がよいならの。まぁママルが決める事だが、そもそも大きな目的地がある旅ではないのでな」
「ありがとうございます………。
でも、大丈夫です。もしも誰か仲間が生きていたとしても、
恐ろしい目にあったあの村に戻る事は、ないと思いますから…」
「……そうか…」
「すみません!なんか、暗い雰囲気にしてしまって!」
「テフラ、お主よ」
「は、はい」
「わしらはパーティーメンバー。命を預ける仲間。変に遠慮するのは止すのだ」
「あっ、は、はい…」
「ではまずママルから、これまで何をしてきたか、話して聞かせてやるのだ」
「………えっ!」
思わずユリを見ると、目で「解ってるな」と訴えて来ているようだった。
ママルは、神様に言われた、所謂世界の仕組みの話は一旦避けつつ、
一応御者に聞こえないよう幾分か声を落とし、話して聞かせる。
テフラはやはり、転生や神様の話を信じられないと言った様子で聞いていた。




